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忌々しき裏家【怪談・怖い話】

ある春の日、立ち寄った家には恐ろしい噂が渦巻いていた。

静かな田舎町で、ひとりの老人から不可解な出来事の話を聞いた。それは彼の友人の家に起こった怪奇現象の数々についてだった。

最初は些細な出来事から始まった。菖蒲の花が一朝にして枯れ落ちたり、来客の傘や下駄が消え失せたりと、単なる子供の悪戯と思われた。しかし、それは次第にエスカレートしていった。書類や英和辞典が切り裂かれ、インキで塗りつぶされる事態に。主人は途方に暮れ、警察にさえ助けを求めた。

一家の七歳の男児が容疑をかけられ、母親と縛り付けられた。だが不思議な出来事は止むことがなかった。ある雨の夜、水がめに物を入れ石をのせると、突如その石が放り出されてしまった。皆が震えあがるほどの大きな音と共に。

「動物の何者かの仕業だろう」との見立てで、建物の隙間から這入る程の足跡が見つかった。やがて危険を恐れて引っ越しを決意するまでになる。その家の前は、物見高い群衆で溢れかえった。

同様の怪事件が他の地方でも起きていたという。白浜の農家や、丹生郡の寺院でも類する現象に遭遇している。火災に見舞われたり、十代の娘が怪しい動物を目撃したという話もあった。

数年後、私はこの件について、ある歴史家から衝撃的な仮説を聞かされた。

「あの家は一六世紀、安土桃山時代に伊勢の僧侶によって建てられました。当時、この地に魔除けの陣を張っていたのです」

史料によれば、この一帯は旧き森の気の根源で、古来より妖しい存在の棲処とされてきた。桃山の世に生きた僧侶、宗淵和尚はその存在を追放すべく、家々に呪術の陣を仕掛けたという。

「しかし、やがて桃山が落ち、僧侶の守護も途絶えてしまいました。あの出来事は守護の陣が解け、妖しい物が逆襲を始めた証しなのかもしれません」

古より伝わる言い伝えにもあるように、あの怪異の正体は妖怪"クダ"のようだ。動物とは思えぬ気質を持つ存在で、500年の時を経て、再びこの地に目を覚ましたのだろう。

私は戦慄を覚えた。まさか現代においても、このような事態が起こり得るとは。しかし一方で、謎の解明への興味も湧いてきた。この家の怪異の全貌を解き明かす必要があると確信した。


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