![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142241983/rectangle_large_type_2_277d7579dc9b9e02cb8de57ef4350bae.png?width=800)
無情の介護【怪談・怖い話】
ある日の朝。
デイサービスの通所介護に向かう途中、利用者の方が自宅玄関前で待っていらっしゃるのを見かけた。認知症の症状が重く、時折外出し過ぎる方だった。
「まだデイサービスの時間ではありませんよ」
私は親しみを込めて声をかける。
「お家の中で待っていてくださいね」
「そうだな。じゃ、後で行くわ」
普段の彼女ならそう答えるはずだった。
職場に戻ると、上司から一報が入っていた。
「あの桐越さん、昨晩他界されたそうです」
医療機関からの連絡とのこと。私は戸惑いを隠せなかった。
「さっき、話しかけたのに。私が玄関で合ったのは、薄れゆく魂だったのだろうか」
一同が冷めた視線で私を見る。事実のように語る私に違和感を覚えたのだろう。だが、私は目撃したことを決して忘れない。
その日、他の利用者を乗せた車から、桐越さんの自宅を通り過ぎると、確かに桐越さんの姿があった。
運転手も同様に目撃し、車を止める。しかし、駆け寄ってみると姿は見えず、家族の方が玄関から出てこられた。
桐越さんの魂は、そこに立ち尽くしていた。
それから数週間が過ぎ、世間では桐越さんの死に関する噂が広まっていった。
かつて桐越さんが通っていたデイサービスの施設では、彼女の姿を頻繁に目撃する職員が出現した。
誰かが「桐越さんが帰ってきた」と囁くと、みんなが恐れおののいた。
ある日のこと、私は施設の浴室で奇妙な出来事に遭遇した。シャワーの水が突然赤く濁ったのだ。そして鏡越しに、狂気じみた表情でこちらを見つめる桐越さんの影。その姿は徐々に濃くなり、私は絶叫して気を失った。
待っていろ、私はまだここにいる。お前たちがあの世に来るまで。
施設は急きょ休館となった。桐越さんの怨念は晴れぬままだった。嘆くべき運命か、それとも報われるべき最期の望みか。私たちには分からなかった。
一つだけ確かなことがある。桐越さんの魂は、デイサービスセンターをさまよい続けているのだ。
#怖いお話ネット怪談 #怖い話 #怪異 #怪談 #ホラー #異世界 #不思議な話 #奇妙な話 #創作大賞2024 #ホラー小説部門
今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。