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【小説】目が覚めたら夢の中 第34話:第五夜-切望-

第五夜-切望-

目を開くと、私の顔の下半分はカミュスの髪の毛に埋もれていた。
私は例のふかふかな床の上に仰向けに寝転がっている。その上に覆いかぶさるようにカミュスの身体が載っている。
重い。。

先ほど長椅子の上で向かいあっていた状態で、二人が眠ってしまい、長椅子などが消えたらこの状態になるのかもしれない。幸いどこかをぶつけたなどもなく、痛いところはないけれど。
仰向けになった私の右肩に鼻先をうずめるようにしてカミュスの顔があった。規則正しい呼吸音から寝ていると判断する。

気持ちよさそうに寝ているからできれば起こしたくないけれど、起こさずに私の身体をカミュスの下から抜くのは無理そうだ。
口を開けたらカミュスの髪を食べてしまいそうなので、比較的自由になる左手でカミュスの体をゆすった。

カミュスの長いまつ毛が持ち上がり、赤い瞳がぼんやりと辺りを見回す。
私と目が合うと、彼はその赤い瞳を細めて、本当に幸せそうに笑ってみせた。
胸がきゅっと締め付けられる思いがした。

「起きて、カミュス。苦しい。」
カミュスの頭が持ち上がったので、私はカミュスに身体も起こしてもらうよう願う。
カミュスはゆっくりと身体を起こして、目をぱちぱちと瞬かせる。でもまだどこかぼんやりとしている。寝ぼけているのかもしれない。

「カミュス。」
「テラスティーネ。」
自分の身体を起こして、カミュスを起こすためにより強く揺さぶろうとしたら、代わりに自分の肩をつかまれて床に押し付けられた。
両脇には四つん這いになったカミュスの膝があって、身体が動かせない。

「君が、好きだ。」
「カミュス・・。」
強い光をたたえた赤い瞳で見据えられる。
頬に手を当てられ、カミュスの顔が近づいてくるのにあわせて、私は目をつぶった。
柔らかい感触が唇に押し当てられる。しばらくすると離れて、瞼や額、頬などにその感触が移動する。
頬に当てられた手は私の顔の輪郭をたどり、その後、私の耳の縁をそっと撫でた。

まだ、夢の中だと思っているのか?
今までのカミュスと様子が違う。私に身体を貸したせいで、おかしくなっているのかもしれない。今までのカミュスは、私に対して妹のように接していた。きっと、身体も小さかったし、記憶もなかったから、カミュスの気持ちを押し付けられることもなかった。
でも、今、彼は私を通じて、‘テラスティーネ’を見ている。

首筋に熱い息を感じ、カミュスの唇でなぞられた。
私の耳を撫でていた手が、服の襟元にかけられる。彼は私に向かってささやく。
「テラスティーネ。君の全てが欲しい。」
「それは・・。」
出てくる声がかすれている。目を開くと、私の首筋から顔を起こしたカミュスが、その赤い瞳で私の瞳を見つめた。目尻は赤くなり、襟元も自分でくつろげたのかその下の鎖骨が見える。壮絶そうぜつな色気にあてられ、くらくらする。

「私の全てを君に捧げよう。」
耳元で彼の声が響く。目に涙がじわりとにじんだ。服の襟元から彼の手先が入り込む。

「やめて。カミュスヤーナ・・・様。」
私の言葉を受けて、彼の動きが止まった。赤い瞳で呆然ぼうぜんと私を見下ろしている。瞳には驚きの色をたたえている。

「テラスティーネ・・記憶が戻ったのか?」
「ええ、私はどこにも行きません。カミュスヤーナ様。このようなことをされなくても。」
私の言葉にカミュスヤーナはその瞳を瞬かせた。
そして今の状況を把握したのか、慌てて私の上から身を引いた。

私は彼を逃がすまいと、その胸に飛び込んだ。
「テラスティーネ・・。」
「しばらくこのままでいてください。カミュスヤーナ様。」
カミュスヤーナの早い鼓動を聞きながら、私は目の前の身体を強く抱きしめた。

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