見出し画像

【小説】目が覚めたら夢の中 第33話:第五夜

第五夜

先ほど、魔王から私たちが奪われたものを取り返す件について、現在の状況をカミュスが教えてくれた。
カミュスが語った内容をまとめると。

カミュスが私の身体をアメリアから取り戻すために、私の身体にそっくりな人形を造った。その人形を新しい身体(依り代?)としてアメリアに渡し、代わりに私の身体を取り返すつもり。
既にアメリアは魅了みりょうの術をかけて、こちらに取り込み済み。
アメリアに新しい身体を渡そうとしたところ、服の下になっている部分も私の身体そっくりにしないと、魔王に気づかれてしまうと、指摘されたそうだ。

そのため、私が一時的にカミュスの身体を動かして、人形を私の身体に合わせて直すことになった。

私としては、恥ずかしいけど、私の元身体であるアメリアの身体を見て、カミュスが直してもいいのではないかと思っている。今の私の身体は14歳くらいで、さほど違いはないけど、アメリアの身体を見たほうが確実だろう。
だが、カミュスにはかたくなにこばまれてしまった。
それこそ顔を真っ赤にさせて、若干赤い瞳をうるませて、請われてしまっては、断りづらい。

「既に弟のアルスカインに領主の座は引き継いでいるので、その日は工房で寝泊まりしようと思っている。工房には結界を張っているので、音は漏れないし、魔王が中で行われている内容を覗くこともできない。私が工房で寝ると、君が目覚め、私の身体を借りることができると思う。今一度練習をしておくか。」
今、カミュスが夢の中で私と話をしているということは、カミュスの身体は寝ている状態であるということだ。

カミュスは向かい合わせで座っていた椅子から立ち上がり、私が座っている長椅子の前に立った。そして、私の方に両手を差し出し、てのひらを私に見せるように向けた。指先は私の方ではなく、天井の方を向いている。カミュスの前に扉が仮にあって、その扉を押して開けるような手の形と言えばいいだろうか?

「君の掌を私の掌に重ねて。」
私はカミュスの手に自分のそれを重ねる。
カミュスは長椅子に座っている私の膝の右側に自分の左膝をついて、上半身を私の方にかがめる。

「私の目を見て。」
お互いのまつげが触れてしまうのではないかと思うほどに近づく。
カミュスの息が私の頬にかかる。
目の前がぼやけてきた。何度か瞬きを繰り返すと、天蓋てんがいのついた天井が目に入った。

「!」
驚いて身体を起こすと、身体の下に、手触りのいい寝具があるのが分かる。
視線が普段より高い。今は夜であるようで、月明かりのみが部屋の中を照らしていた。
「これは・・。」
思わず発した声が、カミュスのものであると分かった。
でも、これどうやって戻るのだろう。

「カミュス?私の声は聞こえてる?」
私の答えに応答するものはない。もしかしてカミュスが目覚めた時の私のように眠ってしまっているのだろうか?
窓の外を見ると真っ暗で、月だけが|煌々《こうこう
》と光っている。まだ夜明けは先のようだ。

私は枕元の明かりを探し出して灯した。
部屋の中が薄暗いものの照らされる。
寝台横にあった室内履きを履き、立ち上がる。鏡があったのでのぞき込むと、夢の中のカミュスと同じ顔が私を見つめていた。ただし・・その瞳は青かった。

鏡を見つめながら、私は顔をなぞっていく。思っていたより滑らかな頬、長いまつ毛、通った鼻筋、薄い唇。顔をなぞる指先も夢の中の私よりも長く節ばっている。
「本当にカミュスなんだね。。」
鏡の中の顔が悲しげに私を見つめている。

正直顔色は夢の中のカミュスと同じでよくない。目の下にクマのような陰りがある。きっと私の身体を取り返すために、この身体の持ち主は無理をしているのだ。少しでも休んだ方がいい。
ひとまず私がこの身体を借りることができることはわかったし。でも借りている間にカミュスと会話をすることは無理なようだ。やることは何かに書いておいてもらわないと。

私は明かりを消し、寝具の中にもぐりこんだ。身体が疲れているのか、すぐに眠気に襲われる。

サポートしてくださると、創作を続けるモチベーションとなります。また、他の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。