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【小説】目が覚めたら夢の中 第30話:授与

授与

目の前にあるそれを上から下まで見直して、私は軽くうなずいた。
出来は問題ないだろう。私はそれに白い布を上からかけた。
部屋に防音、目隠しと侵入阻害の結界が張られていることを確認した後、空中に向かって声をかける。

「アメリア。いるか?話があるのだが?」
「何の様。」
声はするが、姿は現さない。

前回、魅了の術をかけているのに、効果が切れたのか?
前回のやり取りを思い返して気づいた。私は前回のことをアメリアの記憶から消すよう暗示をかけたのだった。魅了にはかかっているが、その上から暗示がかかっているので、私の指示に従わないのだ。ぬかった。

「そなたと交渉したいことがある。交渉に応じるかどうかは、話を聞いてから判断してくれてかまわない。」
私の声を聴いて、プラチナブロンドの髪に赤い瞳の少女が現れる。
私は少女の頭に右手を置いた。
「何をする!」
少女は私の手を払いのけようとしたが、身体をびくっと震わせて、私を見上げた。
「カミュスヤーナ様。」
私の姿を認めると、すぐに私の横に跪いて礼をする。

「よい。顔をあげよ。そして、その椅子に腰を下ろせ。」
少女は私が話した通りに、椅子に腰を下ろした。
頬を赤らめ、キラキラした赤い瞳で、立っている私を上目遣いで見つめている。

そう、先ほど頭に手を置いた時に、暗示の方を解除したのだ。
毎回このやり取りを繰り返すのは面倒だな。どうするかは後で考えるとして。

「エンダーンの様子はどうだ。私がそなたに接触していることに気づかれてはいないな。」
「エンダーン様は一人の魔人がお気に入りになられたのですが、その魔人が他の魔王に仕えているので、現在交渉中です。」
「何をやっているのだ。彼奴かやつは。」
「相手の魔王の方とは友好関係を断ち切りたくないようでした。カミュスヤーナ様に関しましては、私が監視の上、何か動きがあったら報告するよう指示は受けています。」
前回のやり取りは記憶にないから、報告しようがないか。

「わかった。今回そなたに渡そうと思ったのは、これだ。」
私は先ほど白い布をかけたものを指さした。アメリアが身を乗り出したのを確認して、白い布を外す。
「・・これは。」
「そなたの身体うつわ だ。」
私とアメリアの前に、少女が眠っている。
背中を覆うプラチナブロンドの髪。白く細い手足。服の代わりに大きな白い布が巻き付けられている。瞼は閉じられており、身体はピクリとも動かない。

「これはよくできていますね。触ってみても?」
アメリアの問いかけに、私はうなずいた。アメリアが髪や頬、手足に触れていく。
「この布が巻き付けられている部分も再現されているのですか?」
アメリアが私を振り返り、自分の身体の胸から太ももあたりにかけてを撫でる。

「それは・・正直見たことがないから・・。」
「でも、エンダーン様が私を造られた時に見ているかもしれませんよ。」
何かの折に身体を見られたら、気づかれてしまうかもしれません。と言葉を続けるアメリアを見つつ、私はこめかみに手を当てた。

確かにこれを造っている時にそれは考えた。夢の中でテラに頼んで見せてもらうことも考えたが、まだ回復が追いついておらず、夢の中のテラは12歳くらいで、若干参考にならないし、成長が追い付いていたとしても、見せてくれとお願いはしにくい。

「今、ここで見せましょうか?」
アメリアが自分のイブニングドレスに手をかける。
「待て。それはやめよ。」
ただでさえ、テラスティーネそっくりの容姿と声、彼女がこの場で裸体をさらすなど、何の拷問だ。

「では。彼女にお願いしてみては?」
アメリアが思いついたように口にした。
「テラスティーネにか?」
「テラスティーネ様もできる作業であれば。」
テラスティーネに私の身体を一旦預け、私の身体を使って、この人形(意識が入っていないので、人形と言えば人形)の身体を、テラスティーネ自身の身体に合わせて修正させる。
それは魔法士であるテラスティーネにできない作業ではない。
作業内容を直接説明するか、紙に記しておけば、できるだろう。

「今、ここでカミュスヤーナ様が直したほうが、効率はいいですけどね。まぁ、エンダーン様は別のことに興味が移っていますので、私の新しい身体造りに時間をかけても問題はないでしょう。ちょっとしたことでエンダーン様に気づかれる方が恐ろしいです。」
「それはそうだな。」
「私はその場にいたほうがよろしいでしょうか?」
「テラスティーネに確認する。必要であれば呼ぶ。」
「かしこまりました。では一旦失礼します。」

「待て。アメリア。」
アメリアが私を見上げて小首をかしげる。私はアメリアの頭に右手を載せた。
結局、安全をとって、アメリアの記憶を消す暗示をかける。次回も面倒なやり取りが交わされるのが目に見えるが、仕方がない。
アメリアは目を伏せると、その場から姿を消した。


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