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【小説】目が覚めたら夢の中 第29話:来襲

来襲

アルスカインが卒業してしまい、院に通うのは私だけになった。
今年の夏には私は16歳になり、そして婚姻する。
私の婚約者はフォルネス様のままで、カミュスヤーナ様とは婚約、婚姻のことについては、全く話せていない。
アルスカイン様もフォルネス様も、婚約、婚姻のことは気にせず、院生活を楽しむよう言ってくれているけど、本当にこのままでいいのだろうか。

そんなことを考えながら廊下を歩いていると、院の正門の近くに立っている人が目に入った。
黒い髪、両目はグレーの布で覆われている。整った容貌。
夢でも見ているかと思った。先ほどまで考えていた彼のこと。
彼は歩いてくる私に気づくと、その名を呼ぶ。
「テラスティーネ。迎えに来た。」
「・・カミュスヤーナ様。どうして。」

私の婚約が決まってから、私が一緒に帰るのは基本アルスカイン様だった。アルスカイン様が卒業されてからは、アルスカイン様かフォルネス様、日によってはアンダンテが迎えに来て一緒に帰宅していた。今までカミュスヤーナ様ご本人が迎えに来たことはなかったのだ。

「皆、今日はどうしても外せない用事があってな。」
「私一人でも帰れましたのに。」
「まぁ。たまにはな。」
カミュスヤーナが私の方に向かって、左手を差し出す。私はその差し出された手に困惑する。

ここは外だからエスコートはおかしいし、繋げってことなのかな。でも繋いでいいもの?
「帰るぞ。」
カミュスヤーナは、ためらっている私の右手を取ると、指と指を絡めるように繋いで歩き出す。私はおとなしくカミュスヤーナの隣をついていった。

しばらく無言で2人横に並んで歩いている。
私は隣を歩いているカミュスヤーナの顔を見上げる。両目を布で覆っているためか、その表情を読み取るのが難しい。

「テラスティーネ。」
「は、はい。」
「・・少し話したいことがあるのだが。時間はあるか?」
「はい。」
カミュスヤーナは私の答えを聞くと、この間アルスカインやシルフィーユと話した公園の四阿あずまや の方に歩いていく。
私ののどが緊張からかこくりと鳴った。

四阿あずまや に着くと、カミュスヤーナは私に椅子に座るよう促し、自分も向かい合う席に腰を下ろした。
「テラスティーネ。君の婚約のことで・・、私は君にフォルネスとの婚約が決まったと告げた。」
「はい・・。」
「君の婚姻の日が近づいてきて、私は自分が愚かなことをしたと思っている。」
「・・。」
「私は君がいなくなるのが耐えられない。」

「カミュスヤーナ様。」
カミュスヤーナは椅子から立ち上がり、私の方に身をかがめる。私の顔とカミュスヤーナの顔が向かい合う。
カミュスヤーナは両目を覆っていた布を外した。布を外すときに両目を片手で覆い、ゆっくりとその片手も外す。閉じられた両目が開かれると、金色の瞳がこちらに向けられた。

私とカミュスヤーナの視線が交差する。
「君が欲しい。」
カミュスヤーナの手が私の頬に当てられる。

「・・・貴方は誰?」
私の言葉を聞いて、彼はその金色の瞳を見開いた。瞳の光が強く私を射抜く。
「なぜだ。なぜ私の術が効かない?」
私の頬に当てられていた手が、顎をつかんだ。
「私の目を見るのだ。」
顎をつかまれて、私の顔が固定される。彼は私のことを強い視線でにらみつける。

「・・まさか、カミュスヤーナか?小癪こしゃく な真似を!」
顎に力が入り痛い。目の前が涙でぼやけてくる。目の前の彼の髪色がゆっくりと金色に変わっていく。
「こうなれば、そなたには我が弟を連れ戻すための餌になってもらう。」
カミュスヤーナと、うり二つの顔で、彼は口の端をにやりとあげて笑った。
「ついでに、カミュスヤーナを痛めつけるために役に立ってもらおう。彼はそなたを特に気に入っているようだ。彼の前でそなたをなぶ ってくれる。」

これは魔王だ。このまま連れていかれたら、カミュスヤーナ様は私を助けようと動いてしまう。そして魔王に傷つけられる。
せめて意識だけでも逃げないと。

彼の手が首にかかった。首を圧迫されて、意識が薄れる。
カミュスヤーナ様・・!
私の視界は暗転した。

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