【小説】目が覚めたら夢の中 第18話:救済1
救済1
「カミュスヤーナ様。こんな夜分にお呼びだていたしまして、申し訳ございません。」
「よい。アンダンテ。そなたも休んでおらぬのだろう。私が見ておくから、しばらくの間だけでも休むといい。」
テラスティーネの侍女、アンダンテの顔色はとても悪い。ここ数日寝ていないのかもしれない。きっと眠る時間を削って、病に苦しむ主人の看病をしているのだろう。幸い感染はしていないようだが、それも時間の問題だ。
「お心遣い痛み入ります。お言葉に甘えまして下がらせていただきます。何かございましたら、扉の前の不寝番にお声がけくださいませ。」
「わかった。」
アンダンテが扉を開けて、部屋を出ていく。閉まりかけた扉の隙間から、アンダンテが通路側にいる不寝番に声をかけているのが見えた。
私は別の扉を開けて、中に入った。
薄暗い部屋の中を、枕元に置かれた電灯が照らしている。
寝台には赤い顔をして、荒い息を吐くテラスティーネがいた。
目は閉じられており、眠ってはいるようだが、ひどくうなされている。
額に乗せられた布を取り、代わりに自分の左手を彼女の額に当てる。
左手がかかった瞼が薄くあけられて、青い瞳がぼんやりと私を見つめる。
「・・カミュスヤーナ・・様。」
「来るのが遅くなり申し訳ない。」
「いえ・・私に近づかない方が・・うつりますよ・・。」
「私なら問題ない。」
私は寝台の横に椅子を引き寄せた。取り上げた布に右手を当て、冷やしてからテラスティーネの額に戻す。
「ありがとうございます・・。」
「少し身体を冷やすから、目を閉じてくれ。」
私の言葉を受け、目を閉じるテラスティーネの首筋に右手を添える。右手を介して冷気をそっと送り込む。
テラスティーネが大きく息を吐いた。熱い息が私にかかる。
「楽になりました・・。」
「次は水だ。」
私は水の入った薬飲みの吸い口を彼女の口に当てた。
「飲めるか?」
彼女は頷くと、水を少しずつ飲んでいく。飲み終わったので、私は薬飲みを枕元のテーブルに戻し、先ほど引き寄せた椅子に腰を下ろした。
「テラスティーネ。」
「はい。」
「君の病状はかなり悪い。申し訳ないがまだ薬はできていない。そして薬ができるのを待っていたら、君は助からない。」
私ははっきりと今の状況を彼女に伝えた。
「申し訳ありません。」
「なぜ、謝る。」
「・・貴方の側にいると、貴方をお助けすると、誓っていたのに・・。貴方を一人にしてしまう。」
「・・。」
彼女の目から涙があふれて頬を伝う。私は彼女の頬をぬぐった。
きっと彼女の眼には苦しそうに顔をゆがめた私の姿が映っていることだろう。
「君を助けられるかはわからないが、私にゆだねてくれないか。」
「私は貴方を信じておりますから。」
彼女はぎこちない笑みを私に向けた。
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