【小説】目が覚めたら夢の中 第19話:救済2
救済2
魔王の訪問により、私は自分の生まれを知った。
それにより私が疫病にかからない理由も推測された。
私が魔人だから。人間ではないから。
ならば、私が持っている何かを彼女に与えれば、疫病の症状を抑えられるのではないか。
助けられるのではないか。
問題はその与えるべき何かだ。
これも魔王の訪問からそれが何かを導いた。奪うことができるなら、与えることもできるのでは?通常の人間では不可能だが、魔人である私であれば可能ではないか。
そして与えることができるものは、今の私にはこれしかない。
「カミュスヤーナ様。」
「テラスティーネ。不快かと思うが許せ。」
寝台に寝ている彼女の側頭部を動かないように腕で押さえる。はくはくと動く唇を覆うように自身のそれを合わせた。
「んっ。」
彼女の声が耳をつくが、合わせた唇から魔力を流し込む。
彼女の身体が自分の胸の下から逃げようとするのを抑えつけた。
魔王に同様のことをされた時、自分は意識を引きずられる感覚があったが、自分の中に魔力を流し込まれるとどのような気分になるのかがわからない。
さすがに彼女の気持ちまでは読み取れない。
彼女の熱で揺らいだ青い瞳から目が離せない。
激しい鼓動は自分のものなのか、彼女のものなのか。
浮かされるような熱は自分のものなのか、彼女のものなのか。
理性が焼き切れそうになるのを、必死で抑える。
流し込む予定だった魔力の半分くらいを終えて、一旦口を話す。
「大丈夫か?」
「・・はぁ。体の中を何かが巡っているような。」
彼女の反応が鈍くて助かる。たぶん熱もあってのことだろうが。
青い瞳が揺らめいている。赤く染まった目尻。あまりの美しさに、自分の顔が熱くなるのを感じる。
「気分は悪くなっていないか。」
「むしろ・・気持ちいい?」
「なぜ、そこは疑問形なのだ。」
私が呆れたように呟くと、彼女はまたぎこちなく微笑んだ。
「っ・・続けるぞ。」
私は彼女の頬に手を当てた。彼女が目をつぶって頷くのを見て、私は顔を近づけた。
彼女の落ち着きだした呼吸を感じて、私は身体を起こす。
首筋に手を当てると、先ほどよりも熱が下がっているように感じる。
どうやら私の推論は正しかったようだ。
魔力が少なくなったせいか、若干体が重い。彼女の熱が移ったのか、それとも先ほどの行為のせいか、身体が汗ばんでいる。
彼女を起こさないように顔をぬぐってやり、額の布を再度冷やし直した。
そして彼女の頭に右手を置く。しばらくそのままにし、彼女の水色の髪を撫でて離した。
上掛けをかけ直し、側を離れる。
彼女は今日の出来事を忘れる。そして私以外の者と婚約させ、私から遠ざける。
彼女の様子を横目で見やる。
先ほどの彼女の身体の柔らかさや、熱に浮かされた顔を思い出すと、また顔が熱を持つ。
よくもった。私の理性。
自分の口を押さえて、大きく息を吐いた。
相手は病人、そして先ほどの行為は医療行為。
私は彼女の寝息を聞きながら、部屋を後にした。
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