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【小説】目が覚めたら夢の中 第17話:第三夜

第三夜

「カミュス!」
近くで少女が私を呼ぶ声がする。
目を開けると、目の前に涙をたたえた青い瞳があった。水色の髪が私の顔に落ちてくる。
白い床の上にあおむけに寝ている私を、少女がのぞき込んでいるようだ。

「テラ?どうした。そんな泣きそうな顔をして。」
「貴方がうなされていたから。心配で。」
私は愛しい少女を安心させるように笑いかける。
「心配してくれて感謝する。」
テラはその顔をゆがめた。私の額に手をやり、前髪を優しくなでてくれる。

「当然だわ。」
「話の続きだな。」
前髪に置かれた手を取って、私はその場に上半身を起こす。

テラの様子を観察する。また身長が伸びている。今は9歳くらいだろうか。
服は私がいない時は白のワンピース姿になるらしい。
私の夢の中だからなのか、テラには何か物を出したり、服を変えたりといったことはできないようだ。できても別にする必要もないのかもしれないが。

「私の身体を取り戻さなくてはならないのでしょう?でも、どうやって?」
「魔王は君の身体でアメリアという自動人形を作っている。アメリアから君の身体を取り戻す。」
「でも・・。」
「アメリアから意識を引きはがせばいい。」
「その方法は?」
「実際に行ってみないとうまくいくかはわからないが、大丈夫であろう。」

私が奴にされたように意識を引きずりだせばいいのだ。その方法まで、彼女に話す必要はない。

「魔王とアメリアを一時的にでも引き離しておかないといけない。2人を同時に相手するのは私でも手に余る。・・アメリアには、まだ自我のようなものがある。何か興味の引くものでおびき寄せるか。」
「魔王とアメリアの仲はカミュスから見てどんなだった?」
「アメリアは、魔王に身体や視力を貸すほど隷属れいぞくしているが、自分の意志で動いているように見えた。命令は聞くが、自分の意見を持ち、それに伴っても行動できる。人形の範疇はんちゅうは超える。」

「その人が興味を引くことってなに?」
「多分魔王を喜ばせることができること。」
「それは、あなたじゃないの?」
そう。魔王が欲しがっているのは私自身。ただすんなり手に入れるのはつまらない。抗って抗ってその上で手に入れたい。そう思っているはず。

「交換条件を申し出るか。」
「交換条件?」
「私自身と君の身体だ。」
「でもそれではカミュスが・・。」
「領政はアルスカインに引き継ぐし、摂政役せっしょうやくは今、私についている摂政役せっしょうやくをそのまま残留させればいい。君が身体を取り戻したら、意識を戻すまでは私が行うし、あわせて魔力も奪われた分を移してやろう。そうすれば婚姻もできる。私がここにいれば、また魔王からの干渉を受けることをかんがみると、それが一番いい方法だと考えられる。」

異分子である私は、君の側にいる資格がない。
それにこのまま側にいると、私は君を傷つけそうな気がする。

「でもっ!」
横に座り込んでいた少女は、私の方に身を乗り出す。青い瞳には涙がにじみ、白い手が私の袖口を握った。
「カミュスがいなくなっちゃう。」
そんな顔をしないでほしい。折角の決意が鈍ってしまう。
自分の膝の上で、肩を震わせて泣く少女を抱えて、私は彼女に気づかれないように息を吐く。

「大丈夫だ。今はここにいる。」
君の身体を取り戻す、その日までは。

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