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【短編小説】クリスマスの出来事 第二幕 ♯アドベントカレンダー ♯聖夜に起こる不思議な話

【登場人物紹介】
大槻夕  文芸部員。高校二年生
神谷直樹 夕の同級生。夕と同じクラス。正規文芸部員ではない
戸室美咲 文芸部員。高校一年生
遠岡志保 文芸部員。高校三年生
鳴本葉子 文芸部部長。高校三年生
霜原雅也 文芸部副部長。高校三年生
崎野隼人 文芸部員。高校一年生
秋吉透美 夕の親友。夕とは同じクラス
橋元優一 透美の彼氏。他クラス所属

クリスマスの出来事 第二幕

「先輩もよく考えるよなぁ、クリスマスパーティーなんて。」
「でも、楽しそうじゃない。」
直樹の呟きに夕は口を挟んだ。クリスマスを5日後に控えた今日20日、自習となった数学の時間のことである。

「もう、プレゼント買った?」
「もちろん、あと2日だよ。」
「僕もだよ。でもパーティーって一体何するんだろう?」
「それは当日のお楽しみなんじゃないの?」
「鳴本先輩と、遠岡先輩は受験生なのに、大丈夫なのかな?」
「だって、鳴本先輩は推薦合格したし、遠岡先輩も頭いいって。」

「夕ちゃん、夕ちゃん。」
二人が話している中、声をかけてきたのは透美だった。
「どうしたの?」
「一年生の崎野君って子が二人を呼んでるって。」
「え・・でも今授業中でしょう?」
透美は夕の言葉を聞いてクスクスと笑った。
「何言ってるの?もうとっくに休み時間よ。」

二人が驚いて時計を見上げると、既に5分は過ぎていた。自習の時間もざわざわしていたので、気づかなかったのだ。ドアのところでは、隼人が立って待っていた。
「どうかしたの?」
走り寄ってきた夕の問いに、隼人は低く小さな声で答えた。
「あの・・冬休みの部活ってどうなってるのかなって。クリスマスパーティーの時に聞こうかと思ったんですけど、早めに知りたかったから。」
「そうだね・・パーティーの時まで部活ないしね。」

「あぁ・・そうなんだ。」
直樹は今知ったというように頷く。知らなかったのを咎めるような目をする夕に、続けざまに隼人は言う。
「3年生の先輩に聞こうかとも思ったんですけど、何となく聞きづらくて・・。」
「うん、分かった。えっ・・と・・。」
夕は聞かされていた予定を隼人に伝える。隼人は礼を言うと、急いで走り去っていった。その時、大きくチャイムが廊下に響き渡った。

「あと2日かぁ・・。」
学校が終わるのは早いなぁ。
夕は教室を出て、真っ直ぐ昇降口に向かった。友達とおしゃべりをし、帰る時間が皆より遅れているせいか、廊下に人影は少ない。足を速めつつ歩く夕の耳に聞き覚えのある声がした。

「いつまでこんなこと続けるんですか!」
ちょうど踊り場のところで、二人の生徒が口論しているようだった。夕が階段の下まで来ると、はっきりと二人の声が聞き取れた。周りを伺ってみたが、夕以外の人影は、口論している二人以外はない。夕の存在に気づいていないのか、二人はそのまま会話を続けている。

「悪い・・今度必ず話すから。」
「今度、今度って、先輩ずっとそればっかりじゃないですか。」
「今年中にはあいつと別れるから。」
「もう信じられませんっ!」
「じゃあ、もう別れるか?」
男子生徒の言葉に、女生徒は言葉を噤む。
「お前がそんなに待てないって言うなら、別れるよ。それでいいんだろう!」
「先輩のばかっ!」

荒々しい足音と共に、女生徒は去ったようだった。夕は微かな驚きと共にその場に立ち尽くしていた。二人の姿は見ていないが、男子生徒の声はよく聞き知ったものだった。
まさか・・彼が・・。
夕は足音をたてないように歩き去った。しかし、家に帰ってからも、夕の頭の中から、このことは消え去ってはくれなかった。

「さぁ、部室行こうか・・どうかしたのか?」
「う、ううん。何でもない。」
終業式の終わった放課後、とうとうクリスマスパーティーの日である。夕は2日前のことが気になっていた。直樹が心配そうに覗き込んできたので、夕は僅かに笑顔を見せた。

部室の前に行くと、美咲がドアに寄りかかっていた。
「何で入らないの?戸室さん。」
直樹が尋ねると、美咲は困ったような顔をした。
「鍵が掛かってるんです。」
「鍵?珍しいわね。」
夕がドアに手をかけた。確かに開かない。
「今、崎野君が職員室に取りに行ってるんです。」

しばらくすると、隼人が走ってくる。息が荒く、頬が上気している。
「はい、これ・・。」
青いリボンのついた鍵を夕が受け取ると、ドアを開けて中に入った。
「寒いですね・・。」
「本当、ストーブつけようか。」
そう言って、カーテンを開いた時だった。目の前にあったのは、思いもよらなかった光景だった。

「何・・これ・・。」
夕は掠れた声で呟く。
一番初めに目に入ったのは、机にまき散らされた赤い液体だった。また椅子や棚が一部ひっくり返され、本や紙がカーテンのところにまで来ていた。
「せ、先輩・・。あれ見てください。」
隼人の声に促されて、夕と直樹が目を移した先にあったのは、床にうつ伏せに倒れている人の姿だった。

「と、戸室さん。職員室行って、先生呼んできてくれないか・・。」
「はい・・分かりました。」
美咲が急いで部室を出て行く。直樹と隼人がその人の近くに行って、顔を覗き込む。夕は凍り付いたかのように、その場に立っている。その後、直樹達の呟いた声を聞いて、夕は目の前が暗くなる気がした。
「霜原先輩・・。」
倒れていたのは、文芸部副部長の霜原雅也だったのだ。

病室に入った時、彼はこちらに視線を向けて、困ったように笑った。
「みんな、勢揃いで来てくれて、悪いな。」
「霜原先輩、大丈夫なんですか?」
「何か、頭に何かしらの衝撃を受けてるらしくて。精密検査を受けるけど、今のところ特に問題は出てない。」
「・・頭に衝撃って・・誰かに殴られでもしたってこと?」
葉子の声が震えている。

葉子の言葉を受けて、雅也の表情が曇った。
「それが、記憶がなくて、何で部室に行ったのかも覚えてないんだ。」
「じゃあ、頭を殴られたわけではないのかもしれない?」
「もしかしたら、倒れた拍子に頭を打ったのかもしれないけど。」
「でも、一人で部室に行って倒れただけだったら、あの荒らされた部室は何なんだ?」
直樹が、雅也の言葉を受けて、口を挟む。

「部室?荒らされていたのか?」
「赤い液体が撒かれたり、椅子や棚がひっくり返されて、ぐちゃぐちゃでした。」
「俺がその部室を滅茶苦茶にしている所に出くわしたのかな。それを止めようとして殴られたとか。」
「だからって、人を殴るなんて。」
次は夕が口を挟む。その声も僅かに震えている。

雅也は皆を安心させるように微笑みかけた。
「記憶がないから何とも。どちらにしてもしばらく経過を見て、問題がなければ、学校に行くから。でも、今年は無理かな。」
雅也は、そう言って、頭に巻かれた包帯に手を当てた。
「でも、本当に雅也君が死んだりしなくてよかった。。」
葉子がその場で顔を覆って泣き出した。

夕は直樹の腕を引っ張る。他の部員も、葉子を残して病室を出た。病院を出た後、雅也の件で意見を交わしながら、帰途についていると、夕は直樹に向かって、小声で話しかけた。
「神谷君、霜原先輩を傷つけた犯人を見つけましょう。」
直樹が驚いたように、夕の顔を見つめた後、戸惑ったように口を開く。
「犯人って・・そんなの無理だよ。」
直樹は困ったような顔をして告げる。夕は他の部員には聞こえないように、そのまま小声で続ける。

「だって、部員の中にいる確率が高いのよ。」
「何で・・そう言い切れるんだ?」
「先輩が倒れていたのは部室でしょ。それにあの狭い部屋の中で先輩に気づかれないで、殴りかかるなんて無理だわ。」
「先輩が言ったように、部室を荒らしていたのを止めようとして、ああなったかもしれないじゃないか。」
「だったら、もう少し抵抗の跡があるでしょ?先輩の体の上にも紙とか散らばってたし、部室を荒らしたのは、先輩が倒れてからよ。」

夕の言葉を聞いて、直樹は「よくそこまで見てたな。」と感心したように言う。
「学校に行って、先輩がいつ頃部室に行ったのかを調べてみましょう。」
「え、今から?」
「今日はまだ終わっていないし、早い方がいいでしょ?」
「まぁ、学校には入れると思うけど、部室は無理なんじゃないかな。。」
2人は他の部員に適当な用事を伝え、別行動をとることにした。夕に引きずられるようにして、直樹は学校に向かった。

第三幕へ続く


今回の作品は、アドベントカレンダーの企画に参加しています。
19日も、短編小説上げるつもりなので、多分参加するかな。

私の創作物を読んでくださったり、スキやコメントをくだされば嬉しいです。