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瀬戸輝一2ndアルバム「新しい扉」

瀬戸輝一さんについて

瀬戸輝一(せと・てるかず) コンポーザーギタリスト
中学2年生の時に新堀にいぼりギターに入学。クラシックギターを始める。
専門学校卒業後、新堀ギターで講師を務める。
同時期、新堀ギターアンサンブルのメンバーとしてポーランド、アメリカ公演などに参加。
2008年に新堀ギターを退職しソロ活動を始める。
作曲・演奏活動と並行して、自宅にて瀬戸輝一ギター教室を開き指導を行っている。
2014年に1stアルバム「FOREST」、2022年に2ndアルバム「新しい扉」をリリース。また、ピアニスト朝原望さんとのデュオ Duo NonTeruとして2015年にアルバム「Heartfelt」をリリース。

2ndアルバム「新しい扉」全曲感想

↑ 素敵なミュージックビデオ(新しい扉、吹きぬける風、振りかえるとそこに、夜の遊園地、メランコリックなカタルシス、青空)

① Intro〜虹

1stアルバム「FOREST」の1曲目『D』を「ファンファーレのようだ」と書いたが、本作の序曲はそれと全く異なる様相を見せた。大きく違うのは『D』がニ長調であったのに対して、『Intro』はイ短調で始まる。一般に短調は「暗い、悲しい」というイメージがある。しかしここでは決してマイナスの感情ではなく、後半への期待を増幅させるためのものだ。蓄えられたエネルギーは続く『虹』で解放される。

② 戦いの挽歌

「挽歌」とは、

〔昔、中国で死者の柩を挽く時に、うたった歌のことから〕人の死を悲しみいたむ歌。

『新明解国語辞典』第八版(三省堂、2021年)

序盤と終盤はグスターヴ・ホルストの有名な組曲「惑星」作品32の『火星』のような勇ましさがある。中間部は一転、落ち着いたメロディーからは、ひと狩り終えて体を休めたり武器を整えたりしている様子が浮かぶ。哀悼を直接的に表現しているわけではないように感じるが(むしろ11曲目『青空』の方が挽歌に近い)、先祖や仲間たちに思いを馳せる歌もまた挽歌なのだと思う。瀬戸さんによると、タイトルをつけるときにファミコンゲーム「男たちの挽歌」と被らないようにしたが、実際には「闘いの挽歌」で結局被ってしまったというオチがある。(ややこしいことに「男たちの挽歌」は香港映画だ。)

③ メランコリックなカタルシス

言葉の説明が続いて恐縮だが、「メランコリック」は「憂鬱な」、そして「カタルシス」は「浄化」という意味がある。憂鬱にも人それぞれの尺度があるが、不思議なフレーズが解消されたときの安心感がカタルシスなのだ。例えるなら、ぐちゃぐちゃに絡まっていた糸を引っ張ると綺麗に解けて1本になったといったところか。余談だが、矛盾する言葉をつなげる手法を「オクシモロン」という。(このタイトルが当てはまるかは判断が難しいところではある。)

④ カタクリ

この『カタクリ』から9曲目『アシンメトリーダンス』まではギターデュオ曲である。CD収録曲では『るりはこべ』に続く「植物シリーズ」(筆者が勝手に命名)だ。調が違うからか、ウルトラマンのイントロは言われて初めて気づいた。

開放弦を多用した響きで、出来るだけ易しく演奏できるように

CDの解説より

作曲したとのことなので、初心者の方はまずこの曲を目標にして瀬戸さんにご指導いただくのも良いかもしれない。なお、カタクリはその名の通り片栗粉の原料として使われていたが、現在市場に出回っているのは主にじゃがいもでんぷんから作られているらしい。

⑤ 飛んでけ紙ヒコーキ

現在、NHK朝の連続テレビ小説(通称:朝ドラ)は「舞いあがれ!」である。飛行機作りを夢見るヒロインの成長が描かれている。幼少期に模型飛行機を作るシーンがあるが、これが一筋縄ではいかない。大人たちにヒントをもらいながら自ら試行錯誤する姿は、見ていて応援したくなるだけでなく、逆に励まされた視聴者も多いのではないだろうか。さて、この曲は題名から想像するに空を飛ぶ紙飛行機の物語であろう。よく飛ぶ紙飛行機を作る理論は確かにあるが、その通りに作ったからといって必ずしもうまくいくとは限らない。飛び続ける紙飛行機もコンディションが悪い中を進むことがあるかもしれない。中間部ではやや不穏な空気を感じさせるものの、最後は不安がなくなり大空の中へ吸い込まれていく姿が目に浮かんだ。なお、朝ドラ「舞いあがれ!」の主題歌『アイラブユー』(back number)のソロギターアレンジ動画も下に貼っているので、ぜひお聞きいただきたい。

↑ back number『アイラブユー』 ギター:瀬戸輝一

⑥ 夜の遊園地

1stアルバムについての記事で『マジカルコースター』はこの『夜の遊園地』にあるのだろうと書いたところ、瀬戸さんが気に入ってくださった。夜、ライトアップされた遊具や建物は昼に見るそれらとは全く違って見えるから面白い。煌びやかなパレードや花火が打ち上がる演出はとても盛り上がる。もしかするとすでに廃園になってしまった遊園地が、賑わっていた時のことを思い出して夜の間だけ動いているということも考えられる。というのも、終盤手前での休符が、隠れて動いていたことがバレそうになって止まったり誤魔化したりしているように思えたからだ。

⑦ 吹きぬける風

冒頭で紹介したMVの2曲目に登場する。敢えて6曲ずつに分けるとすれば、ここから後半ということになる。季節は春か夏に対応するだろうか。ここ最近のような酷暑ではなく、曲名の通り爽やかな風が似合う。音楽的な知識が乏しいのだが、音階の上から降りてくるフレーズは何となく珍しいと思った。(例えば『pray』後半のような上がって降りるという曲をよく聴くからかもしれない。そんなことないよと言われたらゴメンナサイ。)自然な風の動きがよく現れている。オーケストラのようなラストもカッコいい。

⑧ 振りかえるとそこに

おしゃれなカフェで流れていそうなワルツ。音楽的な部分は瀬戸さんのブログで。タイトルだけ見るとドラマ『振り返れば奴がいる』を思い浮かべたのだが、全く関係が無かった。誰かを殴りに行くとか病院内でのいざこざをすべて吹き飛ばしてしまうくらい爽やかなのである。早とちりしてスミマセン。

⑨ アシンメトリーダンス

ここでの「アシンメトリー(非対称な)」は変拍子を意味するとのこと。具体的な変化は瀬戸さんのブログにて。輪唱のような掛け合いが美しい。対称性(シンメトリー)は調和(ハーモニクス)と関連づけられることが多々ある。もちろん、非対称性に調和が無いということではないのはこの曲が証明している。

⑩ 秋色のベレー帽

今の時期(10月〜11月)にヘビロテ必至、人気曲だ。3拍子のリズムがとても心地良く、時間帯によってはともすれば子守唄になりかねない。このアルバムを初めから通しで聞けば、12曲中の10曲目まで来たことになる。あと少しで最後の曲になってしまうのだという物悲しさもまた、秋という季節と重なるのではないかと思う。

⑪ 青空

佐藤弘和さん(クラシックギタリスト・作曲家・編曲家)に捧げる曲として作られた。曲名、モチーフともに『青空の向こうに』へのオマージュだそう。元の『青空の向こうに』もこの『青空』もとても素敵だ。上で紹介したMVでは屋外でギターを弾くシーンがあるが、澄み切った青空が映像としてもマッチするだろう。作曲した季節を考えると身体の防寒が必要かもしれないが、心の暖房はこの曲で十分だ。

↑ 佐藤弘和作曲『青空の向こうに』 ギター:原善伸

⑫ 新しい扉

このアルバムのタイトル曲である。改めてアルバムを聴き直してみたが、アルバム全体のテーマは「昇華」なのかもしれない。こう書くと若干怪しまれるが、精神世界的な意味は全くない。ここ2, 3年で我々の生活は一変した。良い点も悪い点もあるにせよ、考え方や行動パターンを転換しなければならない時期がまだしばらく続くだろう。扉を開けて別の場所に移るように、そのときにこれらの楽曲で少しでも気分転換になればと切に願う。

CDはコチラ

楽譜はコチラ

BASEとPiascoreが混在しているのは多分大人の事情。

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追記

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