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ミッシェルガンエレファントに憧れる。いはんやアベフトシをや。

 「アベフトシが亡くなって今年で10年だね」
 知り合いのKさんがふいにそう言った。「あー、もうそんなに経つんですね……」と僕も返す。
 「もう絶対にオリジナルメンバーでの再結成なんてありえないからね。アベが逝って伝説になっちゃったね」とKさん。「あ〜、確かにその通りです」と返す僕。

 ミッシェルガンエレファント。大学生のとき影響を受けたバンドの一つだ。黒いモッズスーツで激しい音楽をやるスタイルはかっこよかったし、ボーカルのチバユウスケのがなり声は衝撃的だった。チバの書く歌詞は、言葉の運びが独特で、でも違和感もなく魅了された。ミッシェルを聴くようになって彼らが影響されたパブ・ロックというジャンルを知り、ドクター・フィールグッドなんかを一時期聴くようにもなった。

 激しいんだけど、ワッルーイ・コッワーイ感はまったくなく、むしろスーツでびしっとキメてモッシュの嵐を起こしている姿がとてつもなくかっこよく見えた。だから好きになれたんだろうなって気もしている。

 そんなミッシェルだけど、僕はもちろんリアルタイムで聴いていたわけではない。ミッシェルがメジャーシーンで活動したのは1996年〜2003年。そのころ僕は小学生〜中学生のあいだ。当時はミッシェルの存在なんて知らなかった(それに加え、宮崎では「ミュージックステーション」が放送されていないので例の伝説の夜も知らなかった)。NHKの「トップランナー」に出演したのを見たことがあったけど、そのときは名前なんて知らなかったし、音楽的についていけなかったし、ボーカルの声が気持ち悪いなぁなんて思っていた。

 じゃあなんで大学生になって聴きはじめたのか。それはアベフトシが死んだことがきっかけだった。
 2009年、僕が大学2年生のときミッシェルの元メンバーでギタリストのアベフトシが42歳で死んだ。各音楽雑誌や一部のネットニュースはアベの死を一斉に取り上げていた。周りの音楽仲間には嘆いている者も多かった。一応、かつて読んでいたギター雑誌でその存在は知っていたけど、死に対するショックはほとんどなかった。それより42歳で死んでいることの方がなんだかむごたらしい気になった。

 その時期から、やたらとユーチューブに公式・非公式問わずミッシェルガンエレファントの楽曲や映像が載るようになった。アベフトシ……ミッシェルガンエレファントってそんなにすごい存在だったのかぁとボヤーっと思いながらいざサムネイルを押す。曲がはじまる。たぶんそのとき開いたのは「デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ」のMV。血だらけのメンバーが眉間にしわを寄せて演奏している。チバが叫ぶ……。

 曲が終わったらころには魅了されていた。うわっ、こんな音楽があったのか! って具合に。なによりもアベフトシのギタープレイに心が奪われてしまった。ギターをしていたから、その今まで聴いたことのないプレイにドハマリしてしまった。轟音でうねるメロディー、そして曲中のツタタタタタ! というマシンガンがぶっぱなされたようなギター。アベやミッシェルを知る人からすれば当たり前だったその光景が、聴いたあとにすぐギターを取り出し真似をするくらい衝撃的だった。

 アベの代名詞とも言える「カッティング(音を小刻みに切る)」や「ブラッシング(音を抑えた状態でかき鳴らす)」といった奏法は、実は僕が苦手としていたものだった。だけど、その日から夢中になってユーチューブにかじりつき真似をしていた。アベの右手のしなやかな腕の振り、手首のスナップ。左手の使い方、コードの押さえ方。それをものにしようとネックの太いレスポールギターで頑張った。結果として、いつのまにか右手の振りがしなやかになり、苦手だったカッティングが大好きな奏法になっていた。

 そんな影響もあって、バンドでオリジナルの曲を練習するときや即興で音合わせをするときは、やたらとアベっぽい手グセや音使いが多くなっていた。無駄にツタタタタ! ってやったり、スケール(音階)なんて分からなかったから適当に押さえてダブルチョーキングすれば正解! というような感じで。

 その後もアベフトシの真似をしたいがためにミッシェルの曲を聴きあさっていた。次第にカラオケで歌う曲もミッシェルが多くなった。シャウトすることも多くなった。ギター弾いていても気持ちいいし、一発叫ぶと体の毒素が抜けていく気がした。「イェェェェェェ! スモーキンビィィリィィィィィィ!」って。

 アベの死をきっかけに知ったミッシェルが、次第に自分のとって大きい存在になっていっていた。
 10代のときに偏見なく知って起きたかったよ。そのときにアベに憧れていたらなあ。

 Kさんと話してから無償にミッシェルが聴きたくなった。久しぶりに曲をダウンロードして聴いてみると、いつかのお熱がよみがえってくるようだった。

 そうそう、それこそミッシェルの曲を聴きながらドライブしていたんだ。
大好きな「カルチャー」という曲が流れていた。相変わらずアベのカッティングはかっこいい。そんなこと思いながら交差点で信号を待つ。間奏に入った曲がメインメロディーに戻る瞬間、横断する車線からおばあちゃんの原付がさっそうと現れた。タイミング良く入る「アァァァァァァッッッ!」というチバのシャウト。

 もう、おばあちゃんがかっこよすぎて笑っちゃったよ。


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