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大阪で生まれた煉瓦は、今…… 授産事業としての煉瓦製造について 

私が住む大阪府和泉市は、堺市と岸和田市にはさまれています。堺市と岸和田市は、明治時代、日本製の煉瓦を生み出すことに、大きな貢献をした人や会社が存在しました。

堺市には登録有形文化財である「旧丹治商会社屋、門及び煉瓦塀」があります。

丹治商会は、瓦師であった丹治利右衛門が設立した煉瓦製造会社です。丹治利右衛門は日本の民間煉瓦会社のなかで、かなり早い時期に煉瓦製造を始めています。

いっぽう、岸和田市には「岸和田煉瓦株式会社」があったことで知られています。岸和田でとれる粘土は、煉瓦製造に非常に適していたそうです。

煉瓦製造が盛んだった堺市と岸和田市に挟まれて暮らしながら、私は大阪で生まれた煉瓦のことを、ほとんど知りませんでした。

授産事業としての煉瓦製造

さて、岸和田煉瓦株式会社の源流は、岸和田藩藩士であった山岡尹方が、士族への授産事業としてはじめた煉瓦製造です。

https://kishibura.jp/blog/news/2009/04/post-100.html

岸和田には、だんじりで有名な岸和田城があります。それだけ、明治維新によって生活が変わった人々も、多かったということでしょう。

授産事業としての煉瓦製造は、大阪市内においても行われていました。

大阪府教育委員会 2007 『大阪府教育委員会文化財調査事務所年報11』30ページに詳しい解説があります。

この資料によると、明治元年11月に設けられた「救恤場」(現在の天王寺区)の流れをくむ「大貧院⇒授産所」において、明治5年には

織物、裁縫、習字、養蚕、紡績、挽物、煉瓦、苗木栽培、養豚、 藁細工等々の授産および教授。

が行われていたとのことです。

社会のニーズを意識した授産事業

ここに書かれている授産、教授の内容を見ると、かなり社会のニーズを意識していることがわかります。

たとえば「養豚」について。

日本では、大久保利通が「畜産の振興」を推し進めており、明治5年ごろから、外国人の指導も受けながら西欧の飼育法にならった養豚が始められたとのことです。

紡績も、明治に入って盛んになっていた分野ですね。

「人々が自立していけるように」「社会に受け入れられるように」と考えると、その時、社会で求められる技術を持っていることは、大きな武器になります。

話は少しそれますが、現代の刑務所や少年院の職業訓練も、社会のニーズを意識した内容に変わってきているそうですね。

現代のSDGsにつながる考え方

SDGsの「17の目標」というものがあります。https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/SDGs_pamphlet.pdf

そのなかで、

・貧困をなくそう
・飢餓をゼロに
・全ての人に健康と福祉を
・質の高い教育をみんなに
・働きがいも経済成長も
・産業と技術革新の基礎をつくろう

などの部分につながる考え方が、明治維新・文明開化の波が押し寄せていた時代の大阪の煉瓦製造の裏側に、あったのかもしれないと改めて感じます。

私は今回、煉瓦製造に関することしか調べていませんが、他の業界や一般家庭などにも、上記のような考え方がしっかりとあって、それが急激に変化する日本を支えていたのかもしれません。自分のことだけを考えるのではなく、社会に貢献することとか、次の世代を育てていくという気概のようなものがあったのかもしれません。

たとえば、大阪で煉瓦造りの建物といえば中央公会堂が有名で、この建物は相場師・岩本栄之助の寄付により建てられたものです。岩本栄之助は、他の相場師を救うために動いたこともあれば、証券会社で働く少年たちの学びの場を作ったこともあり「義侠の相場師」とも言われています。

自分のことだけ、自分の世代だけを考える人も、それなりにいたのかもしれないけれど
「他の人のために」
と動く人も間違いなくいたことが、今の自分の生活につながっているのですね。

地震が多い日本において、煉瓦造りの建物を遺していくことは、難しい面もあるようです。でも「なんとか、この建物を遺そう」としてくれた人がいるから、私は煉瓦に興味を持つことができ、それを糸口として、日本の救民や授産の歴史なども知ることができました。

私は煉瓦を作ることはできないし、大きな金額の寄付も難しいです。ただ、ライター・コラムニスト・講師として、得た知識を整理して伝えることで、誰かの心に
「あぁ、自分のことだけじゃなくて、他の人のために何かできないかな」
という波風を立てることができれば、と思います。

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