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想いを繋げるクラウドファンディング “がんばろう中野!クラウドファンディング”の裏側

コロナウイルスによる厳しい影響が続くなか、東京都中野区で、中野区観光協会の有志と中野区民が飲食店応援事業“がんばろう中野!クラウドファンディング”を行いました。

筆者がこの取り組みを知ったのは、5月の中盤。最寄り駅でテイクアウトを注文したときのことです。

「ここまではやく活動ができるなんて……」「中野区にとっての飲食店ってどんな存在なのだろう?」「自分が住んでいるこの地域はこれからどうなるのだろう?」とさまざまな疑問がわき、主催の中野区観光協会に連絡を取ったのです。

“がんばろう中野!クラウドファンディング”飲食店への応援を目的に4月15日よりスタート。5月17日で終了し、最終的に164店舗が参加1,203人から、目標金額の236%、12,323,000円(1232万3千円)を集め、みごと目標達成、参加をした店舗へ支援を届けました。

6月1日からはプロジェクト第2弾“#がんばろう中野#中野テイクアウト@中野サンプラザ”事業を開始。第1弾に続けて、中野区飲食店への支援を行っています。
今回を伺ったのはクラウドファンディングを主導したのは、中野区観光協会理事・橋本正太郎さん。

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(お話を伺った橋本さん。地域のイベントなどではボディペイントをして盛り上げることが多いそう)

取材を行った6月6日には、すでにお店へ支援金を届け終わっているとのこと。

なぜこんなにも速く実施から支援までが行えたのか? そして多くの人からの支援を集め、第2弾へと続いたのか? 

プロジェクトの想いや、中野区の飲食店の特徴について、お話を伺いました。

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・想いを届けるプロジェクト

中野区観光協会は100%民間団体のため、しがらみや面倒な申請作業等がなく、考えたプランがすばやく実行できるのが特徴。“がんばろう中野クラウドファンディング”のはじまりも、中野区観光協会・イベントMAP委員会のスレッドからだったといいます。

「コロナウイルスの影響を受けて、飲食店が大変な状況になりました。そんなとき区長の酒井さんがFacebookで『飲食店テイクアウトの応援を検討している』ということ投稿されていたんです。」

「自分としても、中野区の飲食店は大好きだし、過去のマップ制作や※ヒガナカのバルなどのイベントも手伝ってもらっていて、なにかできないかな? という想いがありました。ちょうど観光協会も、なにか協力したいとFacebookのスレッドで話していたので、3月の終わりごろ“中野区 お持ち帰り&出前 店舗情報”というチラシを作りました。」


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“中野区 お持ち帰り&出前 店舗情報”は手帳サイズのチラシ。2つQRコードが掲載されており、1つは“まるっと中野”という中野区公式観光サイトへのリンク。テイクアウトをしているお店の紹介ページにアクセスできます。もう1つは、googleMAP上に作られた“テイクアウトMAP”へのリンク。このMAPは、のちのクラウドファンディング運営メンバーが個人でコツコツと作成していたものでした。

「最初はチラシだけだったのですが、MAPを作ってくれたメンバーがクラウドファンディングの運営を行っている会社をやっていたため、クラウドファンディングを行うことになりました。札幌市や柏市などの形式を参考にしつつ、メンバーの協力を得て手数料を抑え、お店へ支援をする、今回のクラウドファンディングとなったんです。」


他の自治体の取り組みでは、例えば柏市は3000円のリターンとして3300円のお食事券を配布する仕組みでした。しかし“がんばろう中野!クラウドファンディング”では“支援”であることを重視。支援方法は支援金と同額のお食事券の配布、またはリターン無しの飲食店全体の支援という、2つの手段を設定したのです。
(厳密にはサポーター証明書がリターンとして存在。またクラウドファンディング終盤には、キリンビール株式会社の協賛を受け、ナカボールグラスが配布されることになりました。)

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(筆者が最初に目撃したのと同様の案内 支援方法がいくつもあることがわかる)

“がんばろう中野!クラウドファンディング”を進めていく途中には、否定的な声もあったといいます。


「たしかにお金は集まるかもしれないけど、飲食店の被害は支援できる額より確実に多い。『もしコロナウイルスの影響で閉めてしまったお店があったとしても、お店が時代に対応する力をもってなかっただけで、遅かれ早かれそのお店は閉まっていたんじゃないか? 時代の流れなんじゃないか?』と言われました。」と橋本さん。

けれど橋本さんと運営の皆さんは、それでもやる意味はあるはずだ、と決意を固めます。


「無駄なのかもしれないけど、今までお世話になったお店が大変な時期になにもしないのは嫌だ。お金はわずかかもしれないけど、応援する気持ちを伝えることはできるはず。」
「最終的に支援してくれた約1200人の方も、きっと同じ気持ちなのだと思います。」


お金以上に気持ちの繋がりを届ける。こうして“がんばろう中野!クラウドファンディング”が行われていったのです。


※東中野の魅力を伝える有志のグループ、ヒガナカプロジェクトが企画・運営する、まち巡りハシゴ酒イベント。https://higanaka.tokyo/


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「繋がり」というキーワード

中野区は商店街が多く、大小あわせれば数は60以上に及びます。戦後の闇市や、警察学校があったこと、など様々な要因が重なり多様性の街として成長。サブカルチャーのような、当時からすれば馴染みのない文化すら受け入れてきました。そうした町で商売をする人もまた、多様性を受け入れる性分が多く、これまで多くの繋がりを生んできたのです。

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「“がんばろう中野!クラウドファンディング”は店舗を指定しての支援もできるのだけれど、びっくりしたことに、何人か地方の人からお店を指定して支援してくれた人がいたんです。くわしい事情は分かりませんが、きっと支援してくれた人は昔そのお店に通っていた、いわば“中野を通り過ぎた人たち”なのではないか? と僕は思っています」と橋本さん。

「中野区は様々な地域の人が暮らしている“多様性を受け入れる街”。なかでも飲食店はどんなしがらみも超えて、交流できる場なんです。」
「それに僕自身が好きな特徴でもあるんだけれど、中野区のお店は近い関係性で迎えてくれる。まあ、お店自体が狭いんだけどね」と話してくれました。

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(以前、橋本さんが中野区で仲間たちと撮影した写真 お店のとの仲の良さがうかがえる)

クラウドファンディングでも、お店の人とお客さんとの繋がりを意識していたといいます。
「今回のクラウドファンディングで大事だったのは、お客さんたちからの想いをお店に届けること。なので例えば、クラウドファンディングに参加を表明してくれたお店が残念ながら閉店してしまっても、お金は全額渡せる仕組みにしました。」

お店がもし閉店してしまっても、集まった支援金はお店を愛していたお客さんたちの気持ち。お金はあくまでも、お客さんの応援を伝える手段の一つなのです。お食事券の配布方法にもまた、工夫が凝らされています。

「いち早く届けるために、観光協会のメンバーで手分けして、自力で各店舗に渡していきました。費用をかけないという面もあるのですが、自力の方が圧倒的にスピードが速い。お店からお客さんに届けてもらうことで、結果的にお客さんもお店の方たちと繋がりもできます。」

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“お店へお客さんたちの想いを届けたい”橋本さんをはじめ中野区観光協会の想いが伝わり、最初は数店舗だった参加店舗は徐々に増えていきました。そして最終的に164の店舗へ、1203人からの応援を届けるクラウドファンディングとなったのです。


“がんばろう中野!プロジェクト”と中野区観光協会のこれから

今後の中野区の飲食店や支援について、橋本さんに伺うと


「わからない、というのが正直なところなんです。コロナウイルスの影響が完全になくなることはないとは思いますが……。」


と不安な胸の内を話してくれました。しかし橋本さんはじめ、中野区観光協会には支援は続けていきたいという意思があるとのこと。

「今後どうなるにせよ、飲食店や商店街にとって厳しい状況には変わりないため、それぞれのお店支援をしていきたいですね。例えば新しくはじめたテイクアウトや、WEB販売の挑戦を手伝うとか。じっさい、6月1日からは“がんばろう中野!”をプロジェクト化し、クラウドファンディングに続く、第2弾として中野サンプラザの広場で商品のテイクアウト販売を行う“#がんばろう中野!#中野テイクアウト@中野サンプラザ”を始めました。」

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「テイクアウトで、行きたかったお店や入りづらかったお店の味が楽しめるのはすごくいいですよね」と、思わぬ利点についても話してくれました。

また中野区観光協会の活動目的については「中野区観光協会は、今回のような、行政と区民が協働した街をつくる活動の応援をしていきたいんです。」と想いを語ってくれました。

「例えば日本では近年、あまり遠くまで行けない高齢者の方の生活をどうサポートしていくか? という問題が議論されています。その問題を中野区で解決するには、商店街の存在がとっても重要だと思うんです。高齢者の方はあまり遠くまで行けないため、生活の場は自然と商店街が中心なる。そうなった場合、高齢者の方が使いやすいように、商店街はテイクアウトや宅配など、新しい挑戦をしていかないといけない。」

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(以前のヒガナカプロジェクトでの活動の様子 地域の住民たちが一つになってイベントが行われた)

「行政と区民が協力して、古く良い文化は残しつつ、新しい挑戦をしていく。そんな文化の保存と新しいチャレンジを、中野区観光協会では繊細な気持ちを持って、応援していきたいんです。」

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資金集めのイメージが強いクラウドファンディングで、想いを繋げることを重視した”がんばろう中野クラウドファンディング”。

その活動には中野区観光協会と誠意と真心、そして応援の想いが込められていました。中野区観光協会は、今後も様々な応援事業を行っていくとのこと。これからの活動に注目です。


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