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Lonesome Traveler

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孤独な旅人
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#エッセイ

馬鹿なやつ

馬鹿なやつ

 生きていくというのは、辛く、哀しい作業だ。
「宇宙や万物は、何もないところから生成し、そして、いずれは消滅、死を迎える。遠い未来の話だが、自分の命が消滅した後でも世界は何事もなく進んでいくが、決してそれが永遠に続くことはない。」
物理学者の戸塚洋二氏の言葉である。
 なにもかもが、いつかは消滅して無になる。
 しかし、だからこそ、せめて生きているうちぐらいは、幸せを感じようと努力していくべきだ

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一石二鳥な話

一石二鳥な話

 ブルーギルという、北アメリカ原産の外来魚がいる。
 小動物から水草までなんでも食べて、汚染された水にも高い適応力を示すので、日本中の湖沼で大繁殖し、外来種として深刻な問題を引き起こしている。
 アメリカでは、おもにバターソテーにして食べられる、親しみ深い魚なのだが、日本人は食べない。アメリカ人は、魚好きの日本人がなぜ食べないのか不思議におもうらしい。
 そんなのはあたりまえで、日本人が、ブルーギ

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乱視に急かされる

乱視に急かされる

 タイ語には、日本の漢数字と同じように、タイ数字というものがある。
 タイ数字は、今でもお札や公文書には使われているが、日常生活ではあまり見ることはない。レストランのメニュー表も、電車やバスの時刻表も、テレビのチャンネルも、言うまでもなく、アラビア数字が用いられている。
 そういうわけで、物を覚えるには、粘液質となる実感がこびりつかなければならないわけだが、それが容易にできあがらない。
 ゼロから

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満月の夜

満月の夜

#月

 まだあどけない少年だったころ、オオカミにあこがれていた。
 あわよくばオオカミ男になれそうな気がして、満月の夜には、家の屋根に上って、飽かずに月を眺めていた。高いところが好きだったので、そんなことはわけもなくできた。
 
 そのころ、小学校の図書室で借りた、「シートン動物記」に夢中だったのだ。第一章の「オオカミ王ロボ」は、何度読み返したことか知れない。
 ニューメキシコ州の大平原を舞台に

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