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Road to the Sky

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レッドスピネル空軍基地にスクランブル発進の要請。第一戦闘配備に備えていた第一飛行戦隊・デスサーカスは即時応答していた。不穏な奇襲を仕掛けるローレンツ空軍の未確認機体。夜間戦闘とな… もっと読む
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#アクション

15 スカイ・ロード

 カイザーには身内がいない。  親戚はいるにはいるが、高校生の頃に両親が交通事故で揃って他界してからというもの会っていない。  カイザーが空軍に進むのを機に、生まれ育った家を処分した。戻ってくる場所があれば逃げ込みたくなるし、逃げ込める場所は一人だということを強く意識させるのでかえって辛い、そう思ったからだ。  そして訓練が忙しくなるにつれ、処分しておいてよかったと思うようになった。休日などあってもないような日々だった。スクランブルはいつでも飛び込んでくるし、おかしな話だがみ

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13 スカイ・ロード

 カイザーの入院先である、カイアナイト空軍付属病院へやってきたエンバリー准将は、目的の病室の前でまず溜め息をついた。  まったくもって気が重い。前に来た時を思い出すだけで胃が痛む。  技術屋として空軍に携わってきたエンバリーだが、防衛航空大学での同期生も多い。パイロットになったものもいたけれど、撃墜されて還らなくなった友もいた。  生きているだけマシだろう? という慰めの言葉は、下半身不随の人間に言っていいことなのかどうかわからない。  だが下半身不随となっても必要としてくれ

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11 スカイ・ロード

 ベルンハルト・フィードラー少将は、モニターに映し出されたデータを見てニヤリと笑った。  少将という肩書きに反して、高級将校というより、親方といった雰囲気が勝るのは、彼が根っからの現場主義であり、カイアナイト空軍開発設計局局長という立場になっても、現場から必要とされる技術屋でもあったからだ。  できるだけ現場に仕事を任せるようにはしているものの、如何せん本人が黙ってはいられない。開発や設計のこととなると、どうしても口出しもしたくなれば、手出しもしたくなる。他の軍人とは違い、こ

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10 スカイ・ロード

 目を覚ますと、まだ薄暗くぼんやりとした闇が病室を支配していた。  カイザーはうつろな眼差しで天井を見上げたまま、静かに息を吐いた。  毎朝、明け方近くに夢を見る。  あの日の光景だ。カイザーが最後に空を飛んだあの夜。そして撃墜されたあの夜の夢。  夢は寸分たがわず、同じ光景を見せ付ける。スクランブル要請を受けた第一飛行隊が、あの月のない夜に飛びだったあの日。  所属不明のステルス戦闘機とのドッグファイト。そして失速し、コントロールを失ったカイザーの機体目掛けて撃ち込まれたミ

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09 スカイ・ロード

 ここが引き際のラインだろうとカイザーは判断した。  依然、レーダー上に写るのは最初に接近した二機のみで、その二機はミサイルの射程外距離を旋回するばかりで、ステルスの攻撃を支援しようとせず、また引き返す様子もない。その不気味な行動の意味するところが読み取れないばかりか、このステルス機のパイロットたちの行動も納得できるものではなかった。  偵察行動というには、こちらの空域に入り込みすぎだ。競合エリア内ならば、或いはドッグファイトにはならず、どちらもけん制するための攻撃はしても、

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08 スカイ・ロード

『行くよ!』 「待ってたぜ、フォックスバッド!」  ベルの機体は推力を得るために降下を続けていて、海面へと近付いていた。ここぞとばかりにオーグメンターを使用すると、ブラストが海水を巻き上げ、後続するステルスに海水の雨を降らせる。一旦離脱を決意した瞬間を狙っていたかのように、フォックスバッドはガントリング砲をお見舞いする。  数発は当たったようだが、元々頑丈な作りのステルスは、銃弾の雨をものともしない勢いで、オーグメンターを使い一気に加速上昇。その速さにはさすがについていけない

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07 スカイ・ロード

 オリアーナはついに敵のリーサルコーンを捉えた。 「ビーフシチュー!」  指令誘導ミサイルを発射する。オレンジ色の炎を拭いて、ミサイルは敵の背後へと迫り行く。通常の攻撃機ならば、画像赤外線誘導ミサイルを使えば、発射した後はミサイルが自動追尾してくれるが、敵の機体はステルスであるため、そもそもミサイルが追尾できない。そのため、常に射程を捉えたまま飛ぶことで、ミサイルがこちらの狙い通りの軌道を進むミサイルを選択した。  イヤホン越しに、カイザーの小さな笑い声が聞こえた。今の掛け声

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06 スカイ・ロード

 ドードーはオーグメントを使い、機体を垂直にして急上昇。三百六十度の回転をして砲弾を避け、ハイGバレルロールを決める。  派手な技はオーグメントの力を激しく消耗する。そのため、そう何度も使えない。  だからと言って出し渋っていたら、撃墜される。  カイザーはドッグファイトを避けろといつも言う。実際ドッグファイトになる前に、全機をミサイルで落としたこともあった。  カイザーはとにかく僚機が攻撃されることを嫌うので、日ごろから アグレッサー仮想敵機との模擬戦闘では、ドッグファイト

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05 スカイ・ロード

 ミサイルは吸い寄せられるかのように、尾翼へ向った。エンジンに命中したのか、それとも燃料オイルか。大爆発を起こした敵ステルス攻撃機は、機体の欠片を吹き飛ばしながら炎上する。  その風圧を利用して、再度カイザーの機体は上昇する。オーグメンターを使わない、ミリタリーパワーだけで上昇しているが、体にかかるGの圧力に瞬間的に息がつまった。  血液が下半身に集まっている。血の気が引いているのだろう。つっと冷たい気配を頭部に感じながら、カイザーの機体は上昇して旋回。ヘッドアップディスプレ

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04 スカイ・ロード

 この敵機は、ステレス性能を逆手に取った新型かもしれない。あえて通常の戦闘機を捕捉させて、こちらをおびき寄せ、そして奇襲のごとくレーダーに映らない闇から襲いかかる。  だが戦況がひっくり返るような状態ではない。精々びっくり箱を開けさせられた程度だ。  到底作戦と呼べる代物ではない。どうやら悪戯好きなトリッキーな連中が、面白半分でこちらをからかった結果だろう。 「っ!」  敵のアクティブレーダー誘導ミサイルを、ギリギリのタイミングで交わしたカイザーは、キャノピーの横を掠めるよう

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03 スカイ・ロード

 部下たちの低次元な口喧嘩を、よくこのGのかかる空間できるものだなと感心しつつ、しかしスコードロンエースとして、注意しないわけにはいかない。 「いい加減にしろ。勝ったほうに食わせてやるが、フォックスバッド、ドードー。おまえら二人はまず反省文だ」  そういうと、無線から二人の悲鳴に似た嘆きが聞こえた。カイザーは微かな笑みを一瞬だけ浮かべるが、すぐにそれは真剣な表情にかき消される。 「ドードー、ビッグベア、十時方向へ。フォックスバッド、サイレントは二時へ。レッドファング、ベルは三

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02 スカイ・ロード

 イヤホンから前線航空管制官からの発着許可のコールを聞くと共に、誘導員・マーシャラーが機体の誘導をタキシングで合図した。  ヘッドマウントシステムに敵航空機の情報が映し出されている。  予測していた敵の機体ではないらしいが、信号はローレンツ側のものであることが確認されていた。  機体を誘導路から滑走路へゆっくりとタキシングする。  その間も、次々に送り込まれてくる情報を読み取りながら、カイザーは小さな疑念を持つ。  敵の機体の移動速度が予想より速い。  敵の機体、恐らくFA-

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