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カイアナイト空軍開発設計局は、軍事機密上警備が厳しく、人里離れた場所に存在している。車で移動すると、街までは一時間以上何もない荒野を運転することになる。 妻帯者も、施設と自宅を往復するのが大変なため、どうしても単身赴任になるものが多く、休みの前の日は無理をしても街の自宅に戻るが、平日は寮に住んでいるものが殆どだ。 陸海空問わず、基地には併設されて居住区が設けられ、家族が一緒に住んでもいいことになっているが、この開発設計局は家族であっても共に住むことはできない。 最新鋭
「失礼します……」 なんでよりによって自分なんだよ? と思いつつ、書類を取り出す。三十枚程の用紙がまとめられていて、その一番上の書類の見出しには「フライング・コントロール・オペーレション・システム概要」と書かれていた。 「……」 一度顔をあげてファーカーを見る。ファーカーは頷き、読むことを優先しろと言いたげだったので、続きを読み進める。 カイアナイト空軍開発設計局で新しいシステムの開発のために、パイロットを一人必要としているらしい。 端的に言うと有人機を基地からリモー
機体を降りてロッカーに向かう途中、同じ飛行隊のエリク・ノイマン大尉がチリーノと何かを話していた。ジルの存在に気付くと、ニヤリと笑い手招きする。あまりいい予想はしていなかった。 「よう、フランク。今日も死んじゃったんだって? 毎度毎度よく死ぬね」 「……せぇ」 「あー? なんつったてめぇ?」 「あががが!」 反射的に呟いた言葉に反応したエリクは、ジルの両頬を掴んで左右に思い切り引っ張った。エリクの手を払い、思わず自分の頬を抑えると、ニヤニヤと笑っていた。 エリクといいチリ
コックピット内部に警告音が鳴る。ヘッドマウントディスプレイには、敵役の機影が写っているが、近距離すぎて、どこにいるのかわからない。ミサイルアラートが鳴りっぱなしだった。 マスク越しに大きく息を吸う。押しつぶされそうな肺に酸素を押し込んでも、焦りは収まるどころかかえって苦しさが強まっていった。 「くそっ!」 真後ろを取られたことに気付き、ジル・リュシドール中尉は悪態をついて機首を地上へ向けて、急降下した。ロックを固定されまいと機体を左右に振りながらの降下は、Gの圧力で胸が
「フライング・コントロール・オペレーション・システム概要……」 聞いたことがない。 顔をあげると、フィードラー少将は頷き、先を読むように促した。知ってはいけない程の機密情報ならば見せはしないだろうし、仮にそうだとしても、その機密情報にこれからカイザー自身が関わって行くことになるのだ。見ても大丈夫だろう。 フライング・コントロール・オペレーション・システム(FCOS)とは、開発設計局で立案された飛行訓練システムの一つである。 優れたパイロットの操縦と飛行を、体感すること
カイザーには身内がいない。 親戚はいるにはいるが、高校生の頃に両親が交通事故で揃って他界してからというもの会っていない。 カイザーが空軍に進むのを機に、生まれ育った家を処分した。戻ってくる場所があれば逃げ込みたくなるし、逃げ込める場所は一人だということを強く意識させるのでかえって辛い、そう思ったからだ。 そして訓練が忙しくなるにつれ、処分しておいてよかったと思うようになった。休日などあってもないような日々だった。スクランブルはいつでも飛び込んでくるし、おかしな話だがみ
「すまないが、今はまだ貴殿は私の部下ではないし、かわいそうだね、辛そうだねと同情して憐れむつもりもない。同情して欲しかったのかね?」 痛みを感じていないふりをして、さらなる挑発を続ける。カイザーはそのままエンバリーの手を掴んで振り払った。 「違う!」 「ではいつまでそうして自分の殻に閉じこもっているつもりだ」 冷やかに言い放つ。カイザーに振り払われた腕は骨にひびが入ったのかもしれないと思うほどに痛みを発していた。少なくとも、掴まれた場所の内出血だけは免れないだろう。 そ
カイザーの入院先である、カイアナイト空軍付属病院へやってきたエンバリー准将は、目的の病室の前でまず溜め息をついた。 まったくもって気が重い。前に来た時を思い出すだけで胃が痛む。 技術屋として空軍に携わってきたエンバリーだが、防衛航空大学での同期生も多い。パイロットになったものもいたけれど、撃墜されて還らなくなった友もいた。 生きているだけマシだろう? という慰めの言葉は、下半身不随の人間に言っていいことなのかどうかわからない。 だが下半身不随となっても必要としてくれ
「彼が現役に復帰できる程度の負傷ならば、うちが彼をスカウトできないよ。補給本部に掛け合ったところで、そこそこ腕のいいパイロットを期限付きでレンタルできる程度だ。そしてそこそこ腕のいいパイロットなら、うちのテストパイロットのほうが上だ」 元々開発設計局のテストパイロットは、最新鋭の戦闘機やミサイルの試運転を行うため、一定の経験と飛行時間が求められている。そのため、テストパイロットとはいえ、前線での戦闘経験もあれば、パイロットとしての個人技能も高い。 カイザーも、かつての彼の