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17 スカイ・ロード

 コックピット内部に警告音が鳴る。ヘッドマウントディスプレイには、敵役の機影が写っているが、近距離すぎて、どこにいるのかわからない。ミサイルアラートが鳴りっぱなしだった。
 マスク越しに大きく息を吸う。押しつぶされそうな肺に酸素を押し込んでも、焦りは収まるどころかかえって苦しさが強まっていった。
「くそっ!」
 真後ろを取られたことに気付き、ジル・リュシドール中尉は悪態をついて機首を地上へ向けて、急降下した。ロックを固定されまいと機体を左右に振りながらの降下は、Gの圧力で胸が苦しいばかりか、遠心力も加わることで血流がでたらめに持っていかれる。
 Gスーツのベルトが締まり、貧血を防ぐ。変わりに手足が急激に冷たく感じた。
 機体を旋回させながらスロットを絞りつつの急降下によるスパイラルダイブ。なんとか相手のオーバーシュートを誘うと必死になるが、相手はジルがその手に出ることを読んでいたのか、ぴたりと後ろについてはがれない。
「スティルメイトか(手詰まり)、フランク!」
 ジルのタックネームを呼ぶのは、同僚のチリーノ・バローネ大尉。カイアナイト空軍オーカースピネル基地・エリア54所属戦闘機パイロットであり、普段はジルのエレメントパートナーだ。タックネームはスケアクロウ。タックネームの由来については、頑なに口を閉ざす。

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