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運命というものがあるとしたら、たぶんこんな感じじゃないかと思うような落とし穴に落ちて、痛かった。

入学式も終えて

大学の入学式は、ざわざわという声の中であっという間に終わった。わたしは社会学部の中の指定された教室に入った。ここでは男子も女子も関係ない。クラス分けも受験番号順というかなり大雑把なものだった。

背後から声をかけられて

隣に座っていいですか、と後ろから声をかけられた。振り返ると女の子がひとりいた。どうぞとわたしが言うと、少し間があって、女の子はわたしの隣の椅子に座った。簡単に挨拶をしていたら、その女の子が斜め前に座っていたロングヘアの女の子に声をかけた。

この時は全く気づかなかったのだけれど、一番最初にわたしに声をかけた女の子は、実はわたしにではなくて、そのロングヘアの女の子に声をかけたのだった。この勘違いはわたしの人生を愉快にしてくれることになる。

オリエンテーションというもので

担当教授からの話が終わるとオリエンテーションというものが始まった。生徒会、いや、自治会の人が二人ほどクラスに来て、学生生活について話してくれた。その後、自己紹介をしてもらいますと言って、ひとりずつ名前を読み上げた。

次々呼ばれて、前に出て簡単に自己紹介をする。全く知らない人たちに自己紹介をするのは苦手だ。そろそろわたしの名前が呼ばれるかと思っていたら、自治会の人が困り始めた。

予定外の自己紹介で

理由は、わたしの名字だった。簡単な文字なのだけれど、読み方が難しい。すると、珍しく正しく読まれたので少し驚いた。「こうりんくん、かな、さん、かな」と言われたので、ハイと言って立ち上がると「ああ、こうりんくんやね」と言われた。

やむなくわたしは前に出て、初めて会うクラスメイトを前にして「わたしは女です」と言った。小さくウケた。

高校を卒業したら男として生きる、とまでは言わないものの、男子と同じような格好で過ごそうと思っていた。痴漢に遭う心配もしなくてすむ。

女子大でこの服装だと浮くだろうけれど、ここは7割が男子なので問題ない。

帰宅部志願のわたしに

オリエンテーションが終わって、急いで帰ろうとわたしは教室から出た。

すると廊下で呼び止められた。サークル活動の勧誘だとわかったので断った。すると理由を聞かれたので、通学に時間がかかるからだと答えると、どこから来ているのかと聞かれた。それで自宅の最寄り駅を言うと、○○から来てる仲間もいるよ、と、もっと遠い駅名を言われた。困った。

いや、アルバイトもあるし、というと、何をしているのかと聞かれた。家庭教師だと答えると、毎日じゃないでしょうと言われた。その通りだった。でも断った。わたしには時間がないと断った。

もう言い訳はきかなかった

どうして?と聞かれたので、勉強をしたいから、と言うと諦めてくれるかと思った。すると、何の勉強をしたいの?と粘られた。「社会学です」と、ごく当たり前のことを答えたところ、「じゃあ、うちにおいでよ。社会学研究会だから」と言われた。

詰んだ。

社会学研究会に入会する約束をして帰宅した。このことでわたしの大学生生活は楽しくもなり、辛くもなった。そうか。楽しいこともあったな。

これを書いていたら、わたしの人生は成り行き任せだという気がしてきた。やりたいことに突き進むタイプではないようだ。自分でも今まで気づいていなかった。かなりいい加減に生きてきたのだと思うと今の自分がふらふらしているのも無理はないと思う。いいとか悪いとかではなくて。



【シリーズ:坂道を上ると次も坂道だった】でした。





地味に生きておりますが、たまには電車に乗って出かけたいと思います。でもヘルパーさんの電車賃がかかるので、よかったらサポートお願いします。(とか書いておりますが気にしないで下さい。何か書いた方がいいと聞いたので)