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独り言

言葉が漏れてる。思うときがある。
自分の場合、最近増えた。
歩いてるとき、ふとした時に一人でリアクションしている。

点滅している青信号、ぎりぎりで赤になって、「やっぱだめかー」

夜の帰り道、空を見たら糸のような新月を見つけて、「おおー、細っそい」

死ぬほどのスタバの行列を見て、「えぐいな」

とか、一人で歩いていても心の声が漏れ出すようになっていた。
といっても周りに聞こえるほど声が大きくないし、むしろ誰にも聞こえない。でも自分では声に出して言った、という事実が残る。思うだけと言うのとは自分にとっての行動が違うし、心に残る度合いも違うな、ということを誰にも聞こえない言葉を発して気付けるようになった。

でもたまに、街には聞こえるくらいの声で話しながら歩いている人がいる。最近はイヤホンで電話できるから、電話しているのかもしれないけれど、イヤホンもしていなかったらただの独り言。その人は声に出さずにはいられない状態で、よほど切迫しているのかもしれない。休日のおじさん、という風情の、ちょっと固そうな、どこかで買い物した紙袋を下げた白髪にメガネのおじさんと歩道を行き交う。

聞こえた独り言は、

「ああ、もうこんな寒いし疲れたし早く帰りたい、ああ、もう疲れた、疲れた、疲れた」

だった。

そこまでは聞こえた。
見た目とは印象が変わる弱音、しかものび太がドラえもんに泣きつくときのような頼りない声のような印象を受けて、行き交った私の心におじさんの独り言は滲んでいった。

もしかしたら、私も誰かと行き交うときに独り言を言ってしまっていたかもしれない。思いながら、あてもない散歩を続けた正月。

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