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冬になったと気づいた日

彼女は昨日は1時過ぎに眠ったはずで、23時ごろに布団に入ってから本を読み、やっと眠くなってからちらっと時計を見てから眠ったから知っていた。
いまは5時すぎで、彼女は4時間ほどしか眠っていない。
それでもすっかり目は覚めて、頭の中も冴えていた。

普段は10時間も寝ていないと眠くてたまらない。
二度寝は当たり前なのにその日はなぜかまた寝ようとしてもぜんぜん眠れずに、起きることにした。こんなに早く起きるのは久しぶりだけれど、やはりコーヒーを淹れることから一日は始まった。

寒い。
羽毛布団の中で体をぎゅっと畳んで、まるで幼虫かなにかのようにぬくぬくとしながら眠るのが好きなものだから夜眠るときは窓を少し開けている。起きたら部屋の中はすっかり冬になっていた。ベッドから下ろした足が寒い。床についた足の裏がぴたっと冷たさに触れる。首筋が、二の腕が、寒い。思わず震えてしまいそうだ。
椅子にかけておいた上着と彼女が冬になると部屋の中で着るコートを取り出し、着た。この、部屋の中でコートを着る、ということを彼女は気に入っている。

コートはいくつか持っているけれど、このコートは部屋の中でしか着ないコートになった。はじめてお店で見て気に入ったとき、まさか部屋の中でしか着なくなるなんて思いもしなかったけれど。モスグリーンと言ったらいいのか、ちょっと歳をとった緑色のこのコートを着て座っていると自分が苔のようになったような気がするところを彼女は気に入っていた。

暖房をつけたら冬だってTシャツ1枚でいられる。
でも、それでは面白くない。冬だっていうことがわからないじゃない。
冬が好きな彼女が一人暮らしになってから身につけた習慣で、それは子供のときから思っていたことを実現できたことでもあった。人におかしいって思われたって、気にしなかった。部屋に招いた人に、寒いと言われてもきっと彼女はこの習慣をきっとやめないし、この小さな部屋を支配している彼女のルールだった。

カーテンをめくり、外を見ると少しだけ空が白みはじめているけれどまだ夜の色だった。きっと私がコーヒーを淹れている間に太陽が昇ってしまうな。

時間はあるのだからずっと空を見ていれば太陽が昇るところを見ることだってできるのに、コートを着た彼女はそうせずにキッチンに向かった。

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