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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(31)「な、何するんですか?」

「それは困ります」

 震わせる小声で、初めての音声。

「しゃべっていいなんて言ってないよ」

「すみません。で、でも、俺がやらないと妻の借金、チャラにならないんで」

「借金返済のためってこと!? 」

 首肯で示した。


「あいつを殺って、奥さんの借金がチャラになるなんて保証がどこにあるの? あんたが死んだら分かんないじゃない」

「……でも、俺にはもう、この方法しかなくて」

「ったく……その借金っていくら? 」

「400万、です。200万の利息がついちゃって。このままだともっと増えていきます」

「200万の……あんた、完ぺきに操られてるわ。
 たった400万で命かけんの? 」

 躊躇なく首を縦に振る男に、怒りより呆れの情が強かった。

「はぁぁぁ」

 小さなため息後、ターゲットらを目視。トレーニングを終えシャワー室へ向かったことを確認出来た。時間があることを察し、質問を続けることに。

「っで、あんたどっかの組の人? 」

「山吹《やまぶき》組です」

「えっ!? 山吹って言ったら、瀬良と同系じゃない!? 」

 背を見せる男は頷いた。
 驚いた私は男の横っ腹から物を外し、腕を引っぱって壁奥へ。
 当然私は彼の顔を、彼は私の顔を拝むことになった。

「(仕方ない、こいつも後で処理するか)どういうこと? 」

「今、分裂騒動があって、あちらさんとは敵対しています。詳しいことは知りませんが、瀬良は裏切り者らしく、すぐに片《かた》をつけたいと聞いてます」

「……それで、あんたに白羽の矢が立った、ということね」

 再び頷く。

「でもあなた、人殺したことないでしょ? 」

 素直に縦に振る。

(だよね)

 思慮した。
 依頼された以上、私はターゲットを処理しなければならない。この男が殺ったとしても依頼人は良しとするだろう。
 ただ私の体内には依頼人の闇が保管されている。リミットまで処理しなければならない。それに、私のプライドが許さない。そう感じていた。
 初めに閃いた策を練り直し、この男を巻き込んで実行することを策す。
 彼は私をジーッと見つめていた。私は、彼の全体を見渡す。身長は高くないが、運動神経は良さそうに思えた。

「あなた、足、早い? 」

「足、ですか!? 昔陸上をやってたので早いほうだと思います。でも俺は逃げるつもり、ないです」

「違うわよ。囮になって欲しいだけ。舎弟たちを誘《おび》き寄せて、瀬良から離して。その間に私がやつに近づくから」

「それじゃぁ俺の手柄に」

「最後まで聞きなさい。あなたは出来る限り早く、舎弟を撒いて。戻って来て瀬良に仕掛けしたことにしなさい。勿論戻ってこなくていいわ。私が仕掛けておくから。
 銃や刃物なんか使わず殺《や》るのが得意なの、私。ただ日数はかかるわよ。三日後に効き目が出るから、そのつもりで」

「その間、俺は何て誤摩化せば……」

「そのくらい自分で考えなさいよ! って言っても難しいわよね。……あなた、名前は? 」

「たむら、田村要《かなめ》です」

「それじゃ〜たむらさん、4日の夜7時前、泉大津の●●●ホテルに来て。サラリーマン風の真面目そうな恰好がいいわね。
 その日、瀬良は五階で食事する予定なの。たむらさんがそこにいた証明だけあれば十分だから、彼らに近づく必要はないわ。一階ロビーでコーヒーでも飲んでて。レシートは必ず貰っておくこと。
 それから途中トイレに行って。その時、スタッフに「まだ片付けないでください」とか声を掛けておくこと。出来ればトイレは五階のを使って。もし仲間がいて無理そうなら、四階でも六階でもいいから。トイレから戻ったら数分程度でホテルを出なさい。
 そうそう、その夜は組の人に会わないでね。
 それから組の人たちには、一週間以内に片をつけるとか、少し長目に伝えておくことね。チャンスが来た時点でやります、とでも誤摩化しておいて」

 キョトンとしている男に、付け加えた。

「つまり、たむらさんが計画して殺ったことにすればいいのよ。どうやって殺ったのか訊かれるでしょうけど、内緒にしておけばいいわ。安易に教えられないってね。それでも知りたがる人いるでしょうから、瀬良にしか効かない方法って言っておいて」

「詳しく教えろって、兄貴が言ってきたら……」

「そうね、ヒントあげるわ。アナフィラキシーショックって知ってる? 」

「アレルギーの酷い、やつですよね!? 」

「そう。彼ね、海老アレルギーなの。五年前に一度病院へ運ばれてるから。……後は自分で考えなさい」

 間もなく、瀬良と舎弟がシャワールームから来た時の同じ服で出て来た。

「いぃい! 彼らがあなたに気付いたら、すぐに逃げること。捕まったら意味ないからね」

 男から離れようとする私に、不安そうな声。

「な、何するんですか?」

 含み笑いを男に見せ、何事もなかったように男と離れた私は、瀬良に歩み寄る。唖然とする男の表情が、目に浮かんでいた。

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