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【現代ファンタジー小説】祓毘師 耶都希の復讐(55最終話)ここから始まる

 組織から離れた私は、新たな出発を決意した。

 九年過ごした淡路から、新たな土地へ移転することにした。
 非常識であることは分かっていたが、旅立つ8月末当日に退職した。こんな無愛想な私だったが、職場の人に惜しまれた。

 深夜出発予定だった自宅に、午後4時頃訪問してきた男がいた。洲本で料理人をしている篠倉《ささくら》勝秋《かつとき》だ。
 市場の人にでも聞いたのだろう。辞めることも、この自宅の場所も。

「何の用ですか?」

 特に咎《とが》めることはせず、淡々と応対した。

「どこに行かれるんですか? 湊さん」

「日本のどこか、です」

「行かないとダメなんですか? 」

「ダメとかじゃなく、行きたいんです。自分のために」

 困っているような表情を、向けてきた。

「もういいですか。片付けが残ってるので」

 閉めようとした玄関の縁《ふち》を掴む、彼の大きな手。

「僕の傍に居てくれませんか!? 」

 突然の彼のコトバに驚いた。でも冷静に応える。

「ムリです。私と篠倉さんじゃ、住む世界が違う」

 再び閉めようと試みるも、手が退《ど》いてくれない。

「じゃあ……それじゃ、僕が湊さんの傍にいます! あなたと一緒に行きます」

「えっ!? 」

 予想してなかった意外なコトバが、私の行動を止めた。

(私と……一緒に!? )

 驚いた表情をしているだろうけど、彼の真剣な眼差しに対し、微笑する私。

「ありがとう、ございます。でも篠倉さんに迷惑かけたくない。それに仕事もあるでしょっ」

「迷惑だなんて思わない。料理人の仕事は、どこでも出来ます。僕は……僕は、湊さんと一緒にいたいんです」

 困った。彼と一緒に行くわけにはいかない。それ以前に、私の正体を知らない。知ったら嫌になるに決まっている。
 ただ、ふと頭に浮かんだこと。

(母さんは、父さんを受け入れた。レイさんの両親だって、碧君の両親だって、皆受け入れている。そうやって……彼も、受け入れてくれるのかなぁ……いや、でも……)

 ただ私に勇気が、決断が、出来なかっただけだった。

「……それはダメです。篠倉さんは、ほんとの私のことを知らない。知ったら嫌になる、後悔するはずです」

「それは僕が判断することです。湊さんの噂は色々聞いてきました。でも、それでも良いと思った。
 確かに知らないことが多いです。でも受け入れていきたい、あなたの全てを。あなたの話しを聞きたい。あなたのこれからを見ていたい。だから」

「篠倉さん!」

 遮った。

「……篠倉さんにはもっと相応しい場所があるはずです。それに相応しい人が……だから……だから、もう帰って! 私は、私はあなたが想うような人間じゃない! 」

 私の強声に、扉から手を離してくれた。
 下向き加減でそれを閉めた私は、部屋へ入り、そして座り込む。
 彼が帰っていくエンジン音。小さくなり聞こえなくなった時、肩頬に伝わる何かを感じた。

(えっ? )

 指で頬を拭い、付いたものを見る。何故か分からない、その涙。
 まだ篠倉勝秋という人物を好き、という感情で見ていない。それでも彼のコトバが嬉しかった。
 反面、私の本性を知った時の嫌われる怖さが優位に立った。今の彼を受け入れることが出来ないでいた。
 しばらく両膝に顔を埋め、思い出していた。……母と過ごした愉しい思い出を、いくつもいくつも、繰り返し繰り返し、時を忘れて。

 明日を見て進もうと決意し、顔を上げたが、すでに外の太陽光はない。
 最後のリュックを片手に持ち上げ、玄関を出た。施錠し、鍵をポストへ。幌タイプのガレージにある愛車RXに乗り込み、出発する。

 未練はない。颯爽とその町を出た。
 次の活動拠点に決めた地まで、ひたすら高速道路を疾駆。
 その地は、誰にも告げていなかった。陽にも、レイにも、実父にさえも、だ。

 深夜サービスエリアで仮眠を取り、明朝に着いた新たな新居。
 これまでと同様、隣家と距離のある田舎の庭付き一軒家。築二十八年以上だが、リノベーションが自由に出来るということで、選んだ。
 私のことを誰も知らない地で、新たな祓毘師としての使命を果たそうと、心に決めていた。

 その平家を眺めながら、「よし!」と荷物を取り出そうとした時、一台の乗用車が敷地内へ。
 降車したその人物を見て、唖然とした。
 瞬時に新たに決意するものがあった。
 それは、自分自身のために。未来《これから》のために。そして……のために。

 復讐代行屋としての私の新たな生活が、ここから、始まる。

           完

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小説『祓毘師 耶都希の復讐』を読んで頂き、ありがとうございます。

この小説は『ヴィタリスト =命と闇の合従=』のスピンオフです。

奉術師(ヴィタリスト)という命(みょう=ヴィタールネス、先天的生命エネルギー源)と闇(やみ=憎悪・怨み・悲哀などの人が後天的に造り出したモノ)を扱う超能力者たちが、殺人事件による被害者の支援と国家裏権力者の施策実行の狭間で、少年少女らの葛藤と闘い、成長をテーマにしています。

現代ファンタジー小説
『ヴィタリスト =命と闇の合従=』もよろしくお願いいたします。

         柳刃公平

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