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喫茶店の人 #6 【珈琲ん】 海老原正毅さん

※注:この記事は #3 を読んだ後にご覧いただくことをおすすめします。

“珈琲ん”の5代目マスター、海老原正毅さん(58歳)。

海老原さんは、“珈琲ん”がトアロードにあった頃に家族で訪れた思い出がある。
お客さんの一人に過ぎなかった海老原さんが、どのような経緯で店を継ぐことになったのか。

不思議な出会いをもたらしたのは、1杯490円のコーヒーだ。


阪神御影駅より徒歩1分。ビルの2階に「珈琲ん」がある
シックな店内

「“珈琲ん”とのファーストコンタクトは小学生くらいの頃ちゃうかな。トアロード時代の“珈琲ん”は、家族で大丸に買い物に行った帰りに寄ってた。両親ともにクラシカルな雰囲気が気に入っていて、自然と家族連れ立って行くようになってたね」

大人になってからも、家族で喫茶店に行く習慣があったという。そのうちのひとつが夙川の“珈琲ん”だった。

「実家が仁川にあるので、いかりスーパーに行くついでに家族揃って夙川の“珈琲ん”に寄ってた。店名が同じ、コーヒー1杯490円で500円を出したらピカピカの10円玉のお釣りが返ってくるってのも同じだから、トアロードの“珈琲ん”が夙川に移転したんやなっていうのはわかってたよ」


映画のポスターはお客さんからのプレゼント

それから数年、御影の“珈琲ん”は営業職で外回りをしている途中に見つけた。店名に気づいて入ってみたら、Sさんじゃない人に迎えられたそう。御影の“珈琲ん”は海老原さんが引き継ぐまでに4回店主が代わっている。

「そもそもの御影店の成り立ちは、Sさんのファンが『御影にも“珈琲ん”を作ってほしい』と懇願したことがきっかけやねん。ところが御影の“珈琲ん”を継いだ人は、数年経営した後に病気で亡くなってしまったんよ。その奥さんが、家賃を払いっぱなしにするのは勿体ないからってさらに店を継いで。でも奥さんは喫茶店をやりたくて店を継いだわけではないから、すぐに撤退して……。そこから色々あって、“珈琲ん”が放ったらかしの状態が2年近く続いてん。Sさんは誰かに店をやってほしいから自分で管理していた。

会社を辞めた僕が、北野の“珈琲ん”にたまたま行く機会があって、『会社を辞めたんやけど、これからどうしよう』って話したら御影の“珈琲ん”をやる人がいないことを教えてくれて。そこからはとんとん拍子で話が進んだよ」


“珈琲ん”5代目マスターの海老原さん。現在はコーヒー1杯500円で提供している

当時49歳だった海老原さん。喫茶店をやりたいというよりも、食べていくために“珈琲ん”を継ぐことを決断した。

「“珈琲ん”を継いだのは僕の50歳の誕生日、2015年5月18日。

今の目標は毎日営業することで、今のところ1830日連続で無休営業している。ここに来てコーヒー1杯でも売れれば、その日の電気代ぐらいにはなるから。

大学卒業後に就職したファーストフードも、もともとやっていた介護の仕事も体力的にハードなのよ。喫茶店の仕事なんて体力的には楽だから休まずに続けられている。行くのが嫌だなと思ったことも1度もない。仕事というより日中ここで生活している感じ。

何よりお客さんにくつろいでもらいたいって思ってるんで、極力仕事って感じは出さないようにしている。
美味しかったって言葉以上に『ゆっくりできた』『また来るわ』って言われたら嬉しい。

思い返してみたら親と“珈琲ん”に行っていたときに『おじいちゃんになったら、こういう喫茶店をする』って自分で言った記憶があるねん。
経済的にしんどいときに絶好のタイミングでお金が入ったり、不思議な力に後押しされている感じはするなぁ」

490円のコーヒーが海老原さんの未来を変えた。


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