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出版社の「インターン」からはじまる仲間との協創

小鳥書房は、ひとり出版社であり、ひとり本屋。のはずだった。なのに気づけばひとりではなくなっていた。これは自然なことなのか奇跡だったのか、いまもわからずにいる。

客からスタッフへ。カウンターを越える

本屋が開店して数日後、印象的なお客さんが店に来てくれた。笑顔が眩しく明るい女性で、「ここが開店するのを、商店街の買いものついでに毎日覗いて心待ちにしていたんです」と声をかけてくれた。うちのお客さんたちは、みなさん本当によくお話ししてくださるのだが(気づけば数時間、ということもザラにある)、その女性も2回目に訪れたとき、自分のことを話してくれた。本が好きで、近所に本屋ができて嬉しいということ。趣味で日本画を描いていること。事務職員として働いてきたけれど、それだけでいいのかと悩んでいること。本に関わる仕事をしてみたいということ…。話を聞くなかで「もしや小鳥書房が力になれることがあるのでは」と感じ、「うちインターンさんも募集しているので、よかったら…」と言いかけた。すると食い気味に「じつは知ってました!」ときた。1分後、彼女は店のカウンターの内側にいて、「客」の立場をあっさり捨てた。

これが小鳥書房のスタッフ・なつきちゃんとの出会いだ。インターン期間を経て、本屋業務や編集作業をお任せできるスタッフになっていただいた。

開店してから現在まで、店にも私にもさまざまなことが起きた。台風による雨漏り、著者さんよる出版契約破棄、持病の悪化、入院・手術、コロナ禍、夫との別居・離婚、金銭的な不安、母の病…。メンタルをボコられる負のコンボにも全くめげずにいられたのは、私の能天気な性格もあるが、なつきちゃんが隣でいつも話を聞き、豪快に笑い飛ばし、ときに強引にフォローしてくれていたことが大きい。いまでは最高の仲間で友人だと思っている。50年後までずっと小鳥書房にいたい、と迷いなく言ってくれる彼女と、どんな本屋をつくっていけるだろう。そう考えれば俄然この先が楽しみになる。私はなつきちゃんがいる小鳥書房が大好きだ。

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インターン生を受け入れる仕組みと思い

出版社と本屋の組み合わせ、小鳥書房文学賞の主催、地域に開いたコミュニティ型シェアハウス「コトナハウス」とのコラボ、本屋の2階にできた「まちライブラリー」、自治体に編集で寄与することなど、小鳥書房独自の取り組みは数多くある。なかでも特徴的なのが、インターン生を受け入れる態勢ではないだろうか。

最初のインターン生さんは、海士町(島根県)で出会った高校生のミサちゃん。まだ小鳥書房の本屋ができる前、2018年の夏に修業にやってきた。コトナハウスで1週間暮らしながら編集を経験し、地域を知り、取材し、自分の言葉で伝えてくれた。ミサちゃんは昨年から東京の大学に通いはじめ、将来は編集者になることを見据えている。

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2019年1月に本屋を開店してからは、2019年に約30人、2020年にも約30人を受け入れた。職業選択前の高校生・大学生だけでなく、生き方に悩む大人たちも、吸い込まれるように当店を訪れる。悩むことに年齢は関係ないのだ。対応するのは、もちろん店主である私。私の横にはつねにインターン生さんがいて賑やかだ。希望者からの連絡は絶えることなく、北海道や九州など全国から訪れてくれるため、現在、長期インターンは半年以上お待ちいただいている。その人にとって小鳥書房がお役に立てそうにないと判断すれば、お断りする場合もある。

小鳥書房のインターンは、ただ作業をお願いするのではない。ひとりひとりの悩みや迷い、生き方の軸を知るために私が時間をかけて話を聞き、どういう人生をおくりたいのかを理解し、その生き方を実現するために小鳥書房がどう力になれるかを考える。そして必要だと思われる仕事を中心にお願いするようにしている。そういう時間を経ていくためか、インターン期間を終えたあとも、たびたび会いにきてくれるのがなんともかわいい。インターン生さんと卒業生さんがつながる機会も多く、ひとつのコミュニティになっている。大学生にとって、すでに就職した卒業生は先輩にあたり、斜めの関係が築けるわけだ。私自身も「落合さん」ではなく「かよさん」と名前で呼んでもらっている。互いの呼び方は距離感を決めうるし、なるべく同じ立場でいたいと思っている。

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インターン期間は、1日、長期(全20日間)、期間自由な滞在型(コトナハウスに一定期間滞在しながら小鳥書房で働く)の3種類から選ぶことができる。1日の人には、話を聞いて、就職などに必要となる情報を渡し、レクチャーを中心にいくつかの作業を行なってもらう。長期の人には、その人の今後につながりそうな仕事を実務でお任せする。滞在型の人には、編集・本屋業務だけでなく、まちにどんどん出て知り合いを増やし、多くの人と出会ってもらう機会をつくっている。さまざまな生き方の人がいると知ることは、机のうえの勉強よりも遥かに生きた「学び」になるだろう。

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小鳥書房がインターン生を受け入れるのには理由がある。

まず、私の軸となっているのが「教育」であるということ。編集者になる以前、私は童話作家になりたかった。それは大学生の頃に学習塾で働いた経験から、「子どもたちの感性を言葉によって育む仕事をしたい」と考えたからだ。編集者として会社勤めするようになり、教育から離れた環境に身を置くようになったため、自分にできることとして、“子どもとおとなが学びあう”がコンセプトのシェアハウス「コトナハウス」を立ち上げたという経緯がある。独り立ちした私が、編集者を志す人たちに道筋を示すのは当然のことだ。

また、インターンを経験してくれた人たちは、おそらくいずれ編集者や本屋になっていく。そうすれば出版社や編集プロダクション、本屋、webメディアなど、ほうぼうに仲間がいる状況になるだろう。協力とコ・クリエーション(協創)は、今後の仕事のつくり方として理想的だ。小鳥書房でのインターンを選んでくれた時点で、「たったひとりのための」ものづくりをしたいという気持ちに共感してくれている人が多いので、自然と縁の続く仲間になれる。私は楽しい仕事を、楽しい仲間たちと、遊ぶようにやっていきたいのだ。独自性のある「いい仕事」には、遊びの余白が必要だと思っている。

それから、学びというのは、一方向にだけ生まれるものではないはずだ。私もインターン生さんたちから山ほど学んでいる。大学生の間で流行っている海外のファッションアプリや、使いやすいクラウド、「キュンです♡」などの流行語(これももう古い…?)、どんなふうにリモートで授業や仕事をしているか、現在の就職活動をとりまく状況など。会社を離れて個人で働く私にとって、生きた情報を得られる貴重な機会になっている。

ここに書かず、あえて省いた項目もある。いずれまた書きたいと思う。

本屋・出版まわりでは今後、「出版社が本屋業を営み、本屋が出版業を行なう」「インターン生を受け入れる」「店の一部を別の誰かに貸す(間借り本屋を含む)」ことは、ますます一般的になるだろう。店主の個性や考え方にもよるが、やらないメリットは少ない。金銭のやりとりに留まらない協創(互いの個性や価値を認め、ゆるくつながり支えあう仕組み)は、私たちの業界においても重要度を増してくるはずだ。

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いろいろ書きはしたけれど、目的や理由なんて本当はどうだっていい。私はただやりたくて本屋をやっている。出会いが楽しくてインターン生を受け入れている。ひとり出版社としてスタートしたのに、なつきちゃんやミサちゃん、数々のインターン生さんたちのような素晴らしい仲間ができて実感した。本屋という場が生み出す「ゆるい出会い」を一番エンジョイしているのは、ほかでもない。私だ。

(店主おちあい)


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落合加依子が小さく営む出版社。「たったひとりが心から喜んでくれる」 本づくりがしたいと2015年設立し『ちゃんと食べとる?』 『モノポの巣』などを出版。 編集仕事に『怪と幽』ほか。小鳥書房文学賞を主催。文字屋。 谷保の町で唯一の本屋と、地域に開いたシェアハウス「コトナハウス」も。