ことばの波間を漂うような。

令和の始まりと同時に、退職まで1ヶ月のカウントダウンが始まった。担当している物件もあと僅かとなり、ほんの数ヶ月前の忙しさが嘘みたいに時間に余裕が出来た。

・・・ら。堰を切ったように本が読みたくなった。書籍だけじゃなく色んな人のnoteやブログや、ツイッター。とにかくありとあらゆる文字媒体に齧りつくように過ごしている。

仕事に忙しかった頃は、本当に毎日くたくたで、休みの日もマイナスに転んだ心身をゼロまで引き上げるのに精一杯で、大げさじゃなく本なんて読むゆとりがなかった。たまに読むのも、仕事に関係しそうな、もっというと「役に立ちそうな」本ばかりだったように思う。「インテリアコーディネーターとして求められる知識や感覚を養わなくちゃ」とか「すぐに疲れて体調崩してネガティブになっちゃう自分をなんとか変えなくては」なんていう焦りに追い立てられていたのだろう。

それが、純粋に「色々な思想に触れたい」という動機に変化したように感じる。有名無名を問わず、色々な立場の人たちの綴ることばに触れては、それについて自分の想いを巡らせる。即物的な読書体験とは明らかに違う何かがそこにあるのを感じる。ひとつひとつのことばに込められた書き手の想いや、それを文字に起こしている時の心情が想起されて、心の奥になんともいえないじわっとした温もりを感じる。それは、温泉みたいにじわじわと染み込んでゆくような温かさだ。

書き手の紡ぎ出した世界観をそっと手に取り、ゆっくりと眺める。そこにある「何か」に思いを馳せる。すっと受け取れることもあれば、受け取れないこともある。素直に受け取れることばに出会えると、それだけでとても嬉しい。それだけで、しあわせな気持ちになる。それは、決して「何かを得よう」と考えて手を伸ばしたものではないのだけれど、結果的に、大切なことに気づかせてくれたり、素敵なものを与えてくれたりする。

ただ、ゆらゆらと波間を漂うように。そんな風にことばと関わってゆけたら幸せだなぁと思う。

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