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ショートショート 「妻の機嫌が悪いわけ」

妻の機嫌が悪い。
朝からずっとだ。
もっとも機嫌が悪いのは今日に限った話ではない。
半年ほど前から徐々にこんな日が増えて来ているのだ。
身体の調子が悪いのだろうと思って医者にかかるよう勧めたりもした。
しかし妻は取り合おうとしなかったばかりか、鬼の形相で私を睨み付けた。
彼女の心の中でなにが起きているのか、私には皆目見当が付かない。
なにはともあれ、今日みたいな日は嵐が過ぎ去るのをじっと耐えて待つよりほかに為す術がないのだ。
はぁ…。

「ご飯が炊けたら蓋開けて混ぜといてって言ったじゃん」
「食洗機の食器とっくに乾いてるよ。いつ仕舞うの?」
「回覧板回しといてって昨日言ったよね?」
「寝室の天井の電球いつ替えてくれんの?」
「掃除機ぐらいかけてよ。明日お義母さん来るんでしょ?」
「昨日も今日も残業で疲れてんの。植木の水やりぐらいやってよ」

やるよ、やるやる、やるってば。
やるけどさぁ、そんな風に急かさなくてもいいじゃないか。
キンキンした声で追い捲られたら、せっかく起きたやる気だってなくなっちまうよ。

「夕方から雨の予報だよ。いまのうちに犬の散歩行っといたら?」

分かってるっつーの。
いま行こうと思ってたんだよ!

「あんた、ほんとに仕事する気あんの? 会社クビになってからもう一年よ!?」

雨が降って来た。
そうか。
妻の機嫌が悪いのはジメジメした天気のせいだったのか。
天気め…。
とにかく、今日はもう犬の散歩には行けない。

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