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ショートショート 「ふたつの願い」

魔神はこれまで毎日の仕事をそつなくこなして来た。
しかし今日に限ってはうまくやれる自信がなかった。
彼の仕事は一日にふたりの人間の願いを叶えるというものだった。
今日もいつものようにふたり分の願いを受け付けたのだが、それらをどうやって実現すればいのか、皆目見当が付かないのだ。
まず、ひとり目はこんな願いごとをした。

「なんでも願いごとを聞いてくれるんですか? じゃあ、私を世界一幸せな男にして下さい」
「分かりました。明日目が覚めたらあなたは世界一幸せな男になっています」
「ありがとうございます。魔神さま、私はパシオンといいます」
「はぁ…」
「いや、誰かと間違えられちゃ困るんで」
「はっはっは。そのような心配はご無用です」
「そうですか。安心しました。では、失礼します」
「ではでは」

魔神は男の家をあとにした。
そして5分後、はたと気が付いた。

「…ん、待てよ。幸せにするって、どうすりゃいいんだろう? しまったなぁ。ちゃんと具体的な内容を聞いておけば良かった。まあ、先にふたり目の願いごとを聞いてから、パシオンさんの家に戻って本人に確認するとしよう」

魔神はすぐ近所でふたり目を選んだ。

「こんにちは、魔神です。あなたの願いをなんでも叶えて差し上げます」
「ほんとに? いいんですか?」
「はい。それが私の仕事ですから」
「必ず叶うんですね?」
「ええ、必ず叶えます」
「じゃあ、この村に住むパシオンという男を世界一不幸にして下さい」

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