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ショートショート 「人工知能の活用事例」

国防大臣が空軍長官に向かって言った。

「これからはあらゆる判断を人工知能システムに委ねることにする」
「いま流行りのAIってやつですか…」

大臣はこくりと頷いて、ノートパソコンをぽんぽんと叩いた。

「システムの名前は福音くんっていうんだ」
「ふ、福音くん…」
「長官」
「はい」
「挨拶してみろよ」

大臣はそう言うとパソコンの蓋をぱかっと開いた。

「挨拶…って、どうすればいいんですか?」
「呼び掛けるんだよ。なあ福音くん…って。そうすると返事をしてくれる」
「はぁ。じゃあ一つやってみます。なあ福音くん…」

長官の呼び掛けに福音くんが答えた。

「フクインクンデ〜ス。アナタハ、ドチラサマデスカ?」
「私はスミスです。空軍長官を務めています」
「コンニチワ、スミスチョウカン。ドウゾヨロシク」
「こ、こちらこそ。よろしく…」

大臣は笑った。

「どうだ長官? 心強かろう?」
「ええ。そう…ですね。昨今の採用事情を鑑みると、より少ない人員で軍を運営出来るようにシステムを作り変えて行く必要がありますし…」
「うん。確かにそれもそうだ。しかし人工知能に仕事を任せることにしたその際たる理由は別にあるんだよ」
「と言いますと?」
「我々の責任と罪悪感を軽減するためだ」
「責任と罪悪感…?」
「ああ。例えば自分が立てた作戦を決行して、そこで民間人の犠牲者がたくさん出てしまったら、君だって少なからず自責の念に駆られるだろ?」
「まあ、正直そうですね…」
「でも人工知能システムに作戦を立てさせれば、どんな結果になろうとも、我々人間はさほど心を痛めなくても済む」
「あーなるほど。無人機もドローンもどんどん増えてますもんね」
「そういうこった」
「ところで肝心の人工知能システムの精度は如何ほどなのでしょうか?」
「私は専門家じゃないから細かいことはよく分からんのだが、まあ君よりバカな筈はないだろう」
「あは…」
「あはは」
「あははは」
「あはははは。あーっはっはっはっは」
「…」
「じゃあ一丁やるか」
「やるって、何をですか?」
「寝ぼけてんじゃねえよ。仕事だよ」
「仕事ってまさか…」
「戦争に決まってるだろ」
「せ、戦争!?」
「ああ。ミサイルの使用期限が迫ってるんだ」
「…」
「もうかれこれ10年以上戦争をしていないからな。武器はもちろん、戦車や軍用ヘリもある程度使って壊さなきゃ軍需企業が干上がっちまう」
「はぁ…。でも一体どこと戦争をするんですか?」

大臣は片方の口角を上げていびつな笑みを浮かべ、そして言った。

「なあ福音くん…。これから戦争をしようと思うのだが、どの国とすればいい?」

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