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「元気ですか?」なんて、

「元気ですか?」なんて、声はかけられない。

相手はずっと変わることのない景色を眺め、ベットに横たわっているのだ。

各部屋のベットわきとベット下をモップがけしながら、相手と目線が合うたびに脳でかける言葉を探す。ぼくは最善の言葉が見つからず目線を外す。

相手は言葉を発することはない。発する力がない。表情を変える力もない。ただレーザービームのような視線だけ、ぼくの掃除姿をずっと照射してくる。

レーザーの照準は背中に。ジリジリと焦げついた匂いが部屋中に充満して、換気しなくては掃除が続けられない。

踵を返し、ぼくはベットを覗き込む。真っ向から視線に対峙する。目を逸らしてはだめだ。

「今日はいい天気ですね。お会いできて嬉しいです」

これが相手にとって現実的なことなのか、はたまた夢の中の話なのかはわからない。ぼくは逃げの言葉選びをしているかもしれない。

でも、今のぼくにかけられる言葉の最善ではあったのだ。

あしたまた、会える約束なんてできないから。


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