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情報の多さに疲れちゃった人へ【ダイアログ・イン・ザ・ダーク】

「光の一切届かない真っ暗な暗闇」を体験したことはあるでしょうか?

都会であればあるほど、光を避けるのは難しい。電子機器を個人がたくさん持っていて、光はどんな場所にでも出てきてしまう。とはいえ、田舎でさえ、光源を一切断つのはとても難しい。どんなに山奥へ行こうと星の光があったり。月のあかりだって届いてしまう。暗く、かつ静寂な場所を見つけるのは難しい。

中々とない完全な暗闇。その体験ができるのが『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』である。「ダイアログ」とあるように「対話」がテーマ。全く光の入らない空間で、静かな「音」と共に「他人との対話・自分との対話」を楽しむことができるアクティビティ。

存在は知っていたけど、ここ二年ほど個人向けの施設がクローズしてしまっていました。去年新しく東京にできて、ようやく行けたのでご紹介。

日々の生活で情報の多さに疲れた人には是非いってほしいアクティビティでした。

よく「五感の一部が使えない人は、他の器官が発達する」とされるが、それを擬似的に体験できるアクティビティとも言える。
(今回の記事のコンセプトとは少しズレるのだけど)
※ほんの少しだけアクティビティのネタバレを含みますが、なるべく詳しい内容は割愛した感想です。これから体験する方にも差し支えない範囲です。ご安心ください。

今回の『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』のコンセプトは”内なる美、ととのう暗闇。

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(画像引用・出典:公式ページより

光源を取り払ってスタート


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(イメージ画像)

受付を済ますと更衣室に案内されて、スマートフォンなどの光源となりえるものを全て預ける。

着替えは別に必要ないが、希望があれば作務衣(サムエ)のレンタルもある。

荷物を預けて、別の部屋に移動すると、仄暗い灯りとアテンドさん(暗闇での案内役)が1人。アテンドさんは視覚に障害を持っている。目が見えないのだ。お互いを呼び合うために各々がニックネームを確認し合う。

アテンドさんは「くらげ」で、僕は「まっちゃ」に。

(他にもいたのですが、登場人物が増えすぎても困惑するので割愛。)

そこで白杖を渡され、使い方の説明を受け、軽い雑談をする。それが終わるといよいよ仄暗いライトさえ消してしまう。次第に真っ暗になってゆく。

白杖(はくじょう):前を確認するための杖

アテンドさんが入り口の扉を開ける。「もしかしたらちょっとくらい見えるんじゃないの〜?」などと軽く考えていたが、びっくりするくらい何も見えない。視界ZERO。こんな大層なアクティビティが、人間の色覚や虹彩を把握してないわけがない。完全に真っ暗。頼りになるのは耳と触覚のみ。

あまりの真っ暗具合に

「ほんとにこれ進んでいいの?」
「いきなり崖とかない?」

と不安になるが、くらげさんはガンガン進んでゆく。この暗闇では、視力をもった人より、よっぽどよく見えている。

白杖でカツカツと前方を確認しながら、動く。はじめ、なぜかすり足で動いてまった。スリスリ前に崖があるわけでもないのに。案内役もいる。安心していいのに。けど、急に暗闇に放り出されると人はこうなるのかも。

杖のおかげで、前が大丈夫だとわかっているのに、見えない不安はまだあって、ついつい恐る恐る片足ずつ出してた。ひっ。

距離感も掴みづらい。結構近くから声がするなと思っても、腕の届かない範囲にいたり。遠いと思ったら思いのほか近くにいたり。

空間把握はそれなりに得意だと思っていたが、いざ本当に真っ暗になると、かなり視界に頼っていたのだとよく分かる。

視界ゼロと、安心する水の音 

水の音がする。視界ゼロの状態に水の音が来る。うん、水の音は気持ちを落ち着かせるのに良い。

普段自分は京都にいて、なにかにつけて鴨川によく行く。水の音が心地いいからだ。鴨川はカップルに溢れていることで有名だけど、三条や四条から離れた場所に行くとカップルは殆ど消える。

街から離れた場所にいるカップルは物好きか、降りる駅を間違えたカップルだ。もしくは片方が地元民で、ムードの作り方を理解しちゃってる。

カップルの横で1人ボケーッとするのもそれなりの一興なのだけど、心を空っぽにしたい時もある。その場合は街から離れた鴨川沿いに行くことにしてる。人が少ないほうが、音がより鮮明に聞こえるからだ。

『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』の中も、街から離れた鴨川同様に人が少ない。音も視界も極限状態。不安もあるが水の音のおかげで心を軽くすることができた。

水の流れを見たり、水流の音を聴いてるとやはり気分が落ち着く。暗闇の中では目には見えないけど、あるものを伝って水に触れて、安心した。見えない中で唐突に水に触れたので、「ひえっ 冷たっ」と反応してしまったが、驚きと共に安心があった。不思議な共存。

普段から耳には気を使って生活している(というかHSPなのでめちゃくちゃ気になってしまう)けど、視覚を失うことでより鮮明に耳へ届く音が際立つ。

HSP:Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)
「人一倍繊細な人」の意味。90年代のはじめ、繊細な人についての研究をはじめたエレイン・アーロン(Elaine Aron)博士によって付けられた「人の気質」を表す名称

耳に気を使えど、真っ暗な空間というのは日常にはあまり存在しない。どんな山奥にいっても、納屋の奥に行って少しでも光が漏れると人の目は暗闇に慣れてしまう。ご存知、暗順応。だが、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』の空間ではいつまで居ても、何も見えない。どうしようにも耳や思考に意識が向く。南無三。

真っ暗だけど、黒くない

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参考:真っ暗な画像

不思議だったのは、「真っ暗とはいえ、真っ黒ではなかった」事。

「何を言ってるんだ?」と思うかもしれない。ためしに目を瞑って確認してほしいのだけど、何色が見えるでしょうか。真っ黒ではないと思う。なにかしらの模様であったり白点であったりして、視界の全てのピクセルが黒色にならないと思う。

「真っ暗な空間だと、完全に真っ黒になるかな?」と僕は考えていたのだけど、予想は虚しく完全な真っ黒にはならなかった。松崎しげるや、有機ELディスプレイのほうがよっぽど鮮明な真っ黒してる。視細胞はどうやら関係がないっぽい。

暗闇はたしかに黒いのだけど、目に映る色(脳のイメージ)は決して一色ではないのが面白かった。それと不思議なのが、目を閉じている時と、開けている時の風景が微妙に差があったこと。これは閉じても開けても真っ暗な世界でしか体験できないので、行った時には試してほしい。

「てか、そもそもこれ黒色か?」とそんな感覚にすらなると思う。視界が見えない事は、黒色じゃない。段々と黒色が複雑に見えてくる

余談だけど、もし目を開いた状態で黒い点が見えるなら、飛蚊症の恐れがあるので確認してほしい。

能と禅、マインドフルネス

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真っ暗闇の中で深呼吸してみる。姿勢を正して呼吸を整える。深呼吸するとき、目を閉じる癖があるのだけど、ここでは目を閉じたって閉じなくたって同じ。なんせ真っ暗なので。目をパチパチしても暗闇は静寂を貫く。

これはネタバレになるので割愛するが、『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』では、少しだけ「能」を体験できる。脳の基本姿勢をするのだけど、全く見えないのでいかんせん合ってるか不安になりながらも能の動きをしていた。合ってたのかな自分の動き。能の動きをしたことで、身体の感覚が変わる。いわゆる上虚下実(じょうきょかじつ)の状態にする。上半身の余計な力が抜けると言われていて、たしかにかなり軽くなった。上ほホワホワ、下は充実。

その後、床に座ってあぐらを組んで、対話をする。まっくら闇での対話は、どこか修学旅行を思い出す。みんなが目をつぶって、どうでもいい座談でも、妙に花を感じたあの感覚。

暗闇での他者との会話は、修学旅行とはまた違う気持ちよさがあった。

目を閉じたって真っ暗、開いても真っ暗。なんだかずっと夢の中にでもいるような感覚で、日常から切り離される感覚になってゆく。自分の中にある情報と妄想だけで思考がグルグルするので、とにかく不思議な感覚だった。言語化するのは非常に難しい。考えがグルグルしつつも、どことなく心は落ち着いていて、言葉を借りると、「整いかけてる」といいたくなる感覚だった。

むすびに

今の世の中には、光が溢れていて、それはつまり情報に触れる機会が多いことになる。
何も見えないことはとても怖いけど、どう考えても現代は情報量がバグってしまってる。得られる情報量が僕らの処理速度を飛び越えてしまっている。なのに、目にも耳にも毎日新しい情報が飛び込んできて、混線してしまう。

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(画像引用・出典:Dr.STONE 第3巻より)

漫画『Dr.STONE』でこうしたセリフがあったように、光があるのは人類の科学の結晶でとても素晴らしい。それと同じくらいに暗闇も素敵だと思えた。

本当の暗闇が作る心の落ち着きは一度体験してほしい。情報に疲れてしまったら、目を瞑ろう。一度、ゆっくり視界をゼロにしよう。

情報の過多に疲れた人はもちろん、星空(ひいては宇宙)などが好きな人も楽しめるはず。マインドフルネスや禅に興味ある方は是非。

この体験が終わるころにはまた光を浴びる日常に戻ってしまうのだけど、こうした暗闇の世界があること、その世界を生きてる人がいることを心の片隅に置いておくと、どこか心が穏やかになれる、そんな気がした。

終わる頃には、仄暗いと感じた最初の部屋の灯りすら眩しかった。

それではまた。

『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』公式サイト


(ライター | 文筆 | Webデザイン)言葉とカルチャー好き。仕事や趣味で文章を書いてます。専攻は翻訳(日英)でした。興味があって独学してたのは社会言語学、哲学、音声学。留学先はアメリカ。真面目ぶってますが、基本的にふざけてるのでお気軽に。