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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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#エッセイ

【新古今集・冬歌25】青々と竹

【新古今集・冬歌25】青々と竹

時雨降る音はすれども呉竹の
などよとともに色も変わらぬ
(新古今集・冬歌・576・藤原兼輔)

木の葉を染める時雨が降る
その音がするのだ でも
清涼殿の御庭に生える竹は
どうして幾代を経ても
青々として色も変わらないのだろうか

 呉竹がある。
 内裏の中心にある清涼殿の庭に生える竹である。無論呉竹に呉竹の歌を詠みきかせているわけではない。
 この歌は兼輔が藤原満子の四十の賀のための屏風歌として

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【新古今集・冬歌17】詠み継がれる時雨

【新古今集・冬歌17】詠み継がれる時雨

時雨かと聞けば木の葉の降るものを
それにも濡るるわが袂かな
(新古今集・冬歌・567・藤原資隆)

(訳)
おや時雨が降ってきたかと
よくよく聞いてみると
木の葉が降るのだったけれども
そんな木の葉が降る音にまでも
濡れてしまう私の 袖口

 時雨は晩秋・初冬のにわか雨だ。『万葉集』ですでに約40例みられる(『万葉ことば事典』)。晩秋の時雨は木の葉を染める仕事もあったようだ。ところが平安時代に入る

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【新古今集・冬歌16】散り際紅葉

【新古今集・冬歌16】散り際紅葉

唐錦秋の形見やたつた山
散りあへぬ枝に嵐吹くなり
(新古今集・冬歌・566・宮内卿)

(訳)
紅色の美しい唐織りの錦
それが秋の置き土産というわけです
さすがは名にし負う竜田山
ところがその散りきらず唐錦が残る枝に
秋への思いを断てとばかり 激しい風が吹き付ける音が聞こえてきます

 高貴な錦に喩えられる竜田山の紅葉。少しだけ残ったそれはせっかくの秋の置き土産。だけど竜田山は未練を「絶つ」山でも

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【新古今集・冬歌15】さみしい常緑樹

【新古今集・冬歌15】さみしい常緑樹

 家に帰ると次男(5)と娘(3)が寝入っていた。長男(7)はテーブルの下に隠れている。宿題が終わっていないから妻に叱られた。
 チビ達が寝て自分が両親を独占できるということがうれしくてたまらないらしい。テーブルから出ると自分から妻に抱きつき僕には抱っこをせがむ。
 リビングの隣の図書室で一緒に机に向かった。長男は宿題を始めた。僕はこれを書いている。時々宿題の答えを聞かれたり時間を聞かれたりする。長

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【新古今集・冬歌13】時雨と涙

【新古今集・冬歌13】時雨と涙

しぐれつつ袖も干しあへず足引きの
山の木の葉にあらし吹く頃
(新古今集・冬歌・563・信濃)

(訳)
何度も降る時雨に
袖も干してはいられないよ
この足引きの
山の木の葉に
激しい風が吹く頃は

 あなたは何度も降る時雨のせいで袖が濡れたままだって主張する。でも雨が降る中出かけて舞でも舞うの?
 そんなはずはないでしょう。あなたの袖が濡れているのは時雨の他に理由があるはず。きっと時雨のふりをした

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【新古今集・冬歌12】ごめんね紅葉

【新古今集・冬歌12】ごめんね紅葉

初時雨しのぶの山のもみぢ葉を
あらし吹けとは染めずやありけむ
(新古今集・冬歌・562・七条院大納言)

(訳)
今年初めの時雨が降り葉を染めた
しかし耐えがたい思いが秘められた信夫の山の
情熱のもみじ葉を
激しい風などに吹いて飛ばせようと思って
色濃く染めたわけでもなかったろうに

 歌人名がいかめしいが女性だ。藤原実綱の娘で七条院に仕えた女房だったらしい。実綱はどうも中納言止まりだったみたいだ

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【新古今集・冬歌11】嵐の気配

 車中で3歳の娘が突然クイズを出した。
「これなんでしょうか」
 どれやねん。
「いちばん、うさぎちゃん」
 おお可愛い。
「にばん、うま」
 ちょっと距離を感じるな。
「さんばん、ユニコーン」
 こないだぬいぐるみをあげたもんね。
 まあ仲が良さそうな一番が正解だろう。
「うさぎちゃんだ」
「ママさんば~ん」
 妻が参戦した。
「ぶぶーはずれー」
 違ったらしい。
「せいかいは、うまとユニコーン

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【新古今集・冬歌9】赤い涙と山嵐

【新古今集・冬歌9】赤い涙と山嵐

木の葉散る宿に片敷く袖の色を
ありとも知らでゆくあらしかな
(新古今集・冬歌・559・慈円)

 「片敷く」は独り寝の象徴だ。

さむしろに衣片敷き今宵もや
我を待つらん宇治の橋姫
(古今集・689)

 恋人が来るのを待ち続ける橋姫の振る舞いも「片敷き」だった。

 慈円の歌でも橋姫のように誰か待つ人がいるのかも知れない。待ちつつ裏切られているのかもしれない。「片敷き」にはそういう雰囲気がある。

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【新古今集・冬歌8】寂しい山里

【新古今集・冬歌8】寂しい山里

おのづから音するものは庭の面に
木の葉吹きまく谷の夕風
(新古今集・冬歌・558・藤原清輔)

 この歌は「山家落葉」という題があって詠まれたものだ。歌の舞台は山里。冬に山なんか行けばそりゃ寒い。誰もいなくて当たり前だ。なんでそんな所を舞台に和歌を詠んだのか。

 由来は海を渡るようだ。『歌枕歌ことば辞典 増補版』は

『万葉集』にはまったくよまれていなかった「山里」が、『古今集』以後、このように

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【新古今集・冬歌7】孤独に嵐

【新古今集・冬歌7】孤独に嵐

日暮るれば逢ふ人もなし正木散る
峰のあらしの音ばかりして
(新古今集・冬歌・557・源俊頼)

 これはまた寂しい紅葉。

 日没後に逢う人がいない宣言です。山に滞在しています。一人の孤独な夜が来ます。
 それから正木。正木は柾葛という植物の別名です。古今集の

深山には霰降るらし外山なる
まさきの葛色づきにけり
(古今集・神遊びの歌・1077)

以来人気の紅葉歌材です。色づく姿が愛されました。

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【新古今集・冬歌4】寝ぼすけ息子・朝の月・紅葉と筏士

【新古今集・冬歌4】寝ぼすけ息子・朝の月・紅葉と筏士

 息子たちは朝が弱い。目がなかなか覚めない。目が覚めた後もご飯を食べる手がゆっくりだ。
 小学2年生の長男が通う小学校までは徒歩で30分ほどかかる。一昨日は7時30分に家を出て学校到着刻限の8時に間に合わなかったらしい。昨日は7時25分に出たが間に合わなかった。冬の寒さで足が遅くなっているようだ。

 ご飯を食べるのが遅いのは身体が目覚めないからかもしれない。そこで今朝は6時20分にベッドから引き

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【新古今集・冬歌3】紅葉のダム

 朝、三歳の娘が赤ちゃんになった。
「わたしはあかちゃんだからだっこして」
「きみはさんさいだから、あかちゃんじゃないよ」
「ちがうの、わたしはあかちゃんなの」
 娘は「わたし」を滑舌よく言う。「た」が強めだ。
 本人が赤ちゃんだと主張するなら仕方が無い。抱っこして燃えるゴミを捨てに行った。
 ゴミ捨て場にはネットがかかっていた。娘とゴミで両手が塞がっていた僕は少々困った。すると娘が手を伸ばしてネ

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【新古今集・冬歌2】紅葉の散る時

【新古今集・冬歌2】紅葉の散る時

神無月風にもみぢの散る時は
そこはかとなくものぞかなしき
(新古今集・冬歌・552・藤原高光)

(現代語訳)
神無月が訪れた
風が吹いて紅葉が
散る時 その時というものは
なんと言えば分からないけど
何もかもが悲しく思えるよ

 新古今集の冬歌。その二首目は多武峯少将の別名もある藤原高光です。突発性出家で有名。新古今和歌集成立からは250年ほど昔の男です。父親は師輔。
 師輔といえば夢占いで下手

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【新古今集・冬歌1】冬の始まり

【新古今集・冬歌1】冬の始まり

おきあかす秋の別れの袖の露
霜こそ結べ冬や来ぬらむ
(新古今集・冬・551・皇太后宮大夫俊成)

(訳)
夜を明かした
去って行く秋に別れを告げながら
袖に置いたは涙の露だ
おや気がつけば霜の姿に固まっていく
どうやら冬が来たらしい

 一昨日は暑くて着ていられなかった上着が昨日は丁度良く感じました。そして今日の寒さはその上着だけでは足りないほどです。あっという間に冬が来ました。エアコン・床暖房・

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