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舞台『D.C.III~ダ・カーポIII~ミライへの伝言』その9 父親業務の章

前回、ついに舞台『D.C.III~ダ・カーポIII~ミライへの伝言』の初日の幕が上がった、という話をした。

幕が上がってしまえば脚本家の出る幕はもう無い。
毎公演観に行ける身分(あるいはお仕事として拘束されているとか)なら話は別だが、遠隔地故に静岡に帰らねばならない。だから、あとは無事に千秋楽まで公演が走り切ってくれることを願うだけ。

……なんだけど、実はもうひとミッションあった。

それは、うちの子供たちが舞台D.C.IIIを観に行きたがっている、ということだ。
だから、今回は創作のノウハウの話、というより自分の家族(特に子供)に自分が書いた舞台を見せる、というシチュエーションのレポートになってしまう。それはそれで、子持ちの創作者にとっては避けられない道であるように思うので、何かの参考にはなる、かも知れない。

実を言えば、前作『君と旅する時の魔法』の時も「観に行きたい」という希望はあった。でも、あの頃は上の子が小3で下の子が小2。もちろん、子供たちには幼少期から映画やコンサート、ミュージカルなどに触れさせてはいるから、劇場で騒ぎ出したりはしない。が、僕としても初の舞台脚本作品、どうなるかはわからなかったので、前作の時は千秋楽の配信を自宅のテレビ(FireTVStickのブラウザ機能でミクチャさんの配信を観られるので)でリアタイ視聴する、というカタチにさせてもらったのだ。
あれから一年半、二人は小5と小4になり、当然だが舞台経験のある奥さんも観たがっている。
全員で行くとなると家族旅行ばりの出費(というかすでに旅行)だが、普段、なかなか父親の仕事を見せてあげられないので、「子供に親の仕事を見せておく」という教育的な側面からも行くことにした次第だ。

クリエイティブな職についていると、自身の子供にどう仕事を見せるのか、というのは大きな課題の一つだ。
ましてや、PCゲームのライタを生業にしていれば、一般作だけではなく18禁の仕事も請け負う。子供にすべての作品を見せられるわけではないので、見せられるものは見せておきたい。

もちろん学校があるので、土日くらいしか連れて行ってあげることができない。いろいろ相談した結果、土曜のソワレを観ることにして、家族四人分のホテルを上野に予約したのだった。

土曜の夜に泊まって、土日を都内で過ごすのなら、できることなら土日のマチソワは全部観たい。観たいのだが、子供たちを国立科学博物館や恩賜上野動物園などに連れていく、その中で観劇の予定も組む、という子供たちの経験重視的な見地から家庭の予算が出たので、そこはぐっとこらえることにした次第。

2日目のソワレ、3日目のマチソワの感想をネットで確認し、概ね好評なことに胸をなでおろしつつ、4日目の土曜日、4月22日の朝、僕は家族を連れて東京は上野に向かったのだった。

最終試験くじら……ではなく、国立科学博物館

午前中に上野に到着し、国立科学博物館へ。
最近、地元の東海大学自然史博物館も閉館になってしまったし、小学生には国立科学博物館は必要ということで数ある候補の中から選択。
2016年に東京を離れたので、当時はまだ保育園児だった子供たちには早かったしね。

残念なことに新幹線が一時間遅れ(またです)てしまったせいで、想定よりじっくり見られなかった(地球館を中心にめぐり、日本館は足早に巡らざるを得なかった)が、それなりに楽しめたのではないかと思う。

国立科学博物館の日本館におわすフタバスズキリュウ

そして、劇場近くのビジネスホテルにチェックインし、荷物を置いて、飛行船シアターへ。
飛行船シアターには搬入口から入ることが多いので、正面から他のお客様と一緒に入場するのはドキドキでした。

奥さんがこの日のために子供たちに作った手作りの風見鶏の制服風ループタイ

僕たちが観たのは、土曜日のソワレ、ということで、日替わりネタはメアリー・ホームズこと黒木美紗子さんの担当回。
日替わりネタは基本的には僕が簡単な指定を人数分書いたのだが、あくまでそれはガイドラインに過ぎず、実際には稽古場で市村さんや演者さんたちが膨らめたものが上演されている。
この回も、「メアリーがバリツ(シャーロック・ホームズの使う武術として有名な謎の単語。由来は諸説ある)の語源を姫乃に訊く」「姫乃の知り合いにバリツに詳しい人がいて、その人はヨコハマにいる」程度の指定(知らない人のために一応、補足しておくと、別にD.C.IIIの裏設定ではなく、姫乃役の佐々木未来さんが演じている『探偵オペラ ミルキィホームズ』の登場人物を示唆しているネタです。同じシャーロック・ホームズネタということで)は台本に書きましたが、それを膨らめてあのようなカタチに。
ヨコハマにいる4色のカラフルな名探偵の存在を示唆(もちろん明言はしない)されて「ワトスン! 緑色の探偵を探しにヨコハマに行くわよ!」「緑の探偵さんに会えるかな?」と去っていくメアリーとエドワード。そして、「ヨコハマ一の名探偵さんに会えるといいですね!」「正解はひとつじゃないもんな!」で落とす姫乃と清隆。物語の本筋とは関係ないが、劇場がドッカンドッカンだった回を子供に見せられて、父としても嬉しかった。

途中の立夏が登場して「国語・数学・立夏…恋愛!」を唄うシーンなどでは、奥さんは子供たちと一緒に「嵐」の5×20ペンライトを振っていた。キンブレなどではなく嵐のペンライト、というのが特殊だったかも知れないが、楽しめたようで何より(子供たちは仮面ライダースーパーライブやプリキュアドリームステージの経験があるので、舞台でライトを振ること自体に抵抗は無い)。

そして、終演後のアフタートークは「男子会」の回。
清隆、耕助、杉並、サクラギ役の4人のイケメンたちによるトーク回。
男子たちは「陰口」ならぬ「陽口(ひなたぐち)」(要するに「その人のいないところで誉めること」を指した造語です)ということで、女優陣のいいところを言っていく、という催し。とても楽しませていただいた。
また、自宅から持ってきた私物の「はりまお」(D.C.IIの公式アイテムですが、現在は入手困難かと)も、サクラギと一緒に舞台の上で大活躍した、ということを付記しておく。サクラギ役の秋谷啓斗さんに感謝。

アフタートーク男子会で大活躍だったはりまおさん

芝居全体としても家族は満足してくれたようだった。父の威厳(?)は多分、保たれたのではないかと思う。
日替わりネタやアフトのことなどしか書いていないが、土曜ソワレはいい感じにまとまっていたように思う。

終演後、演者さんに挨拶するためにスタッフさんに声をかけようと思ったところ、娘がトイレに行きたいからと奥さんがその場を離れてしまった。
その間に、D.C.ファンの方々が声をかけてきて、お土産などをいただいてしまった(ありがとうございます)。
娘のトイレから戻ってきた奥さん曰く「作品のファンに囲まれているところを子供たちに見せられて良かったんじゃない?」とのこと。まあ、稀有な体験であるか。

D.C.ファンの方々からいただいたお土産(ありがとうございます)

その後、裏に回って新田さん、佐々木さん、藤邑さんなどにご挨拶をさせていただいた(同じ回にyozuca*さんと橋本みゆきさんも見に来てくれていたのでご挨拶できました)。子供たち的にも裏で出演者の方々と会うという体験はいい体験になったんじゃないだろうか?
将来、何らかの表現の道を選ぶかはわからないが、何らかの糧になってくれていたら嬉しい。

この日の夜は、子供たちは興奮して寝るのが遅くなってしまったかもしれない。
総じていい日だったと言えるだろう。

だが翌日、日曜日。問題は起きた。
出演者の一人である五条院巴役の北原知奈さんが発熱、COVID-19の陽性判定を受けてしまったのだ。

偶々、日曜日のマチネに劇団仲間(古巣の劇団の劇団員)や千葉に住む下の弟らが観にきてくれており、報せを受けたのだった。
その頃、僕はといえば、子供たちにパンダを見せようと、久しぶりに東京都恩賜上野動物園に滞在していた。幼少期には子供たちも来たことがあるのだが、さすがにもうあまり覚えていないだろうということで、上野から離れず動物園を巡ってから静岡に帰るつもりだったのだ。

連絡を受けたのは午後だったので、すでに東園を巡り、西園で食事をとろうとしているところだった。
巴の役は脚本的にも全体の物語をまわす重要な役どころだ。アレンジを加えるにしてもどうすればいいのか。
僕は子供たちを奥さんに任せ、慌てて西園休憩所(食堂)を飛び出し、劇団の制作さんに電話をして駆け付けるべきか問い合わせた。もし舞台の内容を一部変更するのであれば、何らかのアイデアを出せると思ったからだ。
今にして思えば、僕が電話した時間の段階ではもう方針は決まっていて、僕に連絡が来てない以上「脚本内容は変更しない」という決定だったとわかるはずだが、その時はそんなことまで頭は回っていない。ただ、「駆け付けなきゃ……」とは思っていた。
が、制作のはっしーさんと話をした結果、「これ以上感染のリスクを増やさないためにも、内部の人間と接触しない方がいい」ということになったので、僕は劇場を心配しながらも、子供たちを引率し、静岡まで連れ帰ることに専念したのだった。

この日のマチネは「一部演出を変更して上映します」というアナウンスで一時間遅れで上演された。
五条院巴の台詞はすべてサンプリングされ、演出の市村啓二さんがタイミングに合わせてオペレーションしてくれた。後に僕も配信の映像を見させてもらったが、他の演者さんたちは舞台上に巴がいる前提で目線もリアクションもいつも通りに演じてくれていた(そこにいないはずの巴の姿が見えた気がする、という感想も見かけました)。
「ショーマストゴーオン」は素晴らしい精神だとは思うが、そうも言っていられないというこを示したのがこのコロナ禍という時代だ。この数年、中止になったプロジェクトは山のようにあるだろう。
それを、公演中止にすることなくたった一時間の遅れでここまでリカバーしてくれたことに、敬意と感謝を表したい(もちろん、受け入れてくださった観客の皆様にも)。本当にありがとうございました。

結局、僕がしたことといえば、帰宅後、巴役が抜けてしまったことで日替わりネタにひとつ欠番が出てしまうため、市村さんが提案してくれた千秋楽の日替わりネタ(全員登場バージョン)の内容を確認し、OKを出したことくらいだ。
幕が上がってしまえば脚本家にできることはほとんどないという淋しさもあるが、任せてしまえる人たちに担当してもらって(昨今の事件を受けて、というのもあるが)本当に良かったと今でも思う。

そんなこんなで、僕の「子供たちに見てもらうための東京旅行」は終わったのだった。

次回は最終回、千秋楽を含むミクチャさんの配信のことなどを交えて総括しつつ、『ミライへの伝言』についての記事を締めくくりたいと思う。

《追伸》

2月16日よりミドッコリーBEYONDさんの運営する「みどくじNET」にて『D.C.III P.S.~ダ・カーポIII~プラスストーリー』のオンラインくじが開催されております。

D.C.III P.S. みどくじNET

今回のくじの特徴としては、メインヒロイン5人以外にも江戸川四季、メアリー・ホームズ、エドワード・ワトスン、五条院巴、瑠璃香・オーデット、エリザベス、美琴、ジル・ハサウェイなどサブヒロイン陣(エドワードは男子ですがw)のアイテムが充実していることだ。ジルのグッズなんて初めてじゃなかろうか?(C賞には杉並の姿もw)

みどくじは3月15日まで開催しておりますので、是非くじに参加して、DC3PSの数々のアイテムをゲットしてやってください!


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