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kotatsu stories

17
超短編集の第1弾になります
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2017年11月の記事一覧

Sの奢り

今日はSがおごるというので
わざわざ電車に乗ってやってきたのだが
肝心のSは約束の時間を大分過ぎても現れない
家に電話を引いておらず携帯を持たないSにこちらから連絡をとるすべはない
明日は暇かい? などとSからの連絡はいつも公衆電話から一方的にかかってくるだけである
このまま怒って帰っても大人げないと思い、二人で行くはずだった飲み屋に落ち着くことにした
ビールをちびちび飲んでいると、大慌てのSが店

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六角橋仲見世商店街彷徨

昨夜もこのバーで酔いつぶれたようだ
いつものようにピン札を置いて店の外に出ると、狭くて長い商店街を歩き出す
様々な匂いが空腹を責め立てるように漂っていた
狭い商店街は人と売り物のガラクタと臨時の屋台がひしめき合っていて、前に進むことが難しい
焦っては駄目だと言い聞かせていても背中に冷たい汗を感じ始めていた

もうすぐ、あれが通る筈だ

そして、それは現れた
チンドン太鼓を先頭に、サキソホン、インデ

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太郎

鬼ヶ島に辿り着いたのは、この太郎、只ひとり

冒険の数多(あまた)は字数の理(ことわり)で割愛せざるを得まい

特筆すべきは次の事柄のみ
雉は、猿と犬と太郎が食し
犬は、猿と太郎が食し
猿は逐電した

さて目指すは、一鬼のみ

美しき女人族の導きがあるも鬼との邂逅の時は僅かなり

問答も無く討ち果たした鬼の骸を荼毘に伏すと、最早、目的を喪いし太郎は島に留まる天命に従うばかり

幾年の歳月の果て、太

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ホッチキス

奇跡的に繋がったTwitterに流れて来た画像を見て、思わず声が漏れる
青いホッチキスの写真
赤いテプラに擦れて薄くなった名前
あれはわたしが貼ったものだ
昔、放課後のひとの少ない教室で、気まぐれに作り、貼った彼の名前
まだ持っていたんだ

脇腹の痛みに堪えていいねを押そうとした刹那
ふと見上げた先に、無表情が張り付いた少年兵の顔があった
他人事の様な銃声を聞いた後
ゆっくり視点が変わり
誰かの足

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帰郷

帰郷

おれは何年か振りに故郷の駅に降り立った

駅前のロータリーを歩き出すと
見覚えのある小型車がゆっくりと近づいて来るのが見える

運転しているのは恵子

上京を口実に別れた女
そしておれを呼び出したひと

目が合った、と同時に彼女の車は急に速度を増した

おれは撥ね飛ばされ、ロータリー中央のモニュメントが目の前に迫った

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妖精

妖精

その商店街に
小体なカウンターバーがあり
二階にはおじいさんの姿をした
妖精が住んでいる

夜中になると妖精は帰ってくるがその姿は客達には見えない

「妖精が通るよ」

希に酩酊に依って発動された無垢の心の者の発言で
妖精は可視化される
だが妖精が二階に上がれば
客達はその存在を忘れてしまい
呪いのカウントがプラスされたことは

誰も気がつかない

乗り合いバス

乗り合いバス

バスは夕暮れの一本道を進んでいる

隣のおばあさんに訊かれる
「二ツ谷は何処でおりまし」
「次ですよ」
フへへホヘヘ

礼を言っているようだった

バスが停車するとおばあさんは降り
代わりに似たようなおばあさんが
乗って来る
さっき降りたおばあさんがまた乗って来たのかと思ったのだが、降車ドアの方を見ると、小道に入り込むところのおばあさんの後ろ姿が見えた

隣に座ったおばあさんに訊かれる
「三ツ谷は

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カーネーション

カーネーション

あの時、おじさんは少し泣いていたと思う

おじさんはぼくをだきしめて
だいじょうぶ
何もしんぱいしなくていいんだ
君はうまくやっていける
ほんとうに
と、言った

そのおじさんと会ったのは学校からのかえり道だった

渡すあてがないけれど、学校で買うしかなかった、少し変な匂いのする紙で作られたカーネーションを持って歩いていると
前から歩いて来たおじさんが、おこったような目で、ぼくの手の中の赤いカーネ

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