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受注業務主体のプロにこそ読んでほしい、これからの音楽制作に対する個人的考察。

はじめに。

こんにちは。齊藤です。今日(3日にわたって書いているうちの初日)は3月にリリース予定の新曲のマスタリング。自身の楽曲をマスタリングしてもらう日は、いつも決まって眠りがとても浅く、前の晩からソワソワします。遠足前の小学生みたいですね。

不思議と、あまりクライアントワークの時はこういう現象は起きません。モチベーションの差では有りません。きっと、「自分自身の作品か、否か」という点において、勝手に自ら感じているプレッシャーが違うのだと思います。言い換えると、自分自身が屋号として、商品として、矢面に立つという責任を感じているからなのでしょう。


新作がSpotify公式プレイリストイン!

そんな自分自身の屋号でまたとっても嬉しいニュース!先日リリースした「Poem, Poetry Or Not」収録曲「Right」と「Jasmine」が、Spotify公式プレイリスト「静寂と黄昏」「Deep Focus」に追加されました!


丹精込めて、とっても繊細に演奏したピアノソロの2曲が、またもこうして、しかも先頭や2番目で初登場するのは、ひとえにSpotifyキュレーターの皆さんのおかげです。感謝という言葉ではとても足りませんが、想いが伝わったのであれば、本当に嬉しいです。(この件については追って別記事でも取り上げさせていただく予定です。)

フリーランスで音楽活動している僕が、今後自分自身がどうやって音楽人として生きていくか。クライアントワークをベースにしている自分に対する課題、どうすればよりプレゼンスを発揮し、リスナーの皆さんにも、クライアントの皆さんにも音楽を届けられるのか。そんなことを考えながら、今日の記事を書かせていただきます。

なお、以下の文章でいう「制作者」の中には、作曲家や音楽プロデューサーだけでなく音楽制作に関わるアーティスト・演奏者・エンジニア・スタジオの皆さんも含むということ、くれぐれもご理解ください。


職人技術は、尊い。けれど。

いきなり話を大きく変えます。

今この世の中は、テクノロジーの普及により職人技術を均一化させ、全体の生産性を高める方向へ大きくシフトし始めていることは今更言うまでもないかと思います。人、モノ、情報の中央集約化が進み、数少ないマザーデータを、全世界の人達が共有して物事が進む。つまり、圧倒的なコンテンツとお皿を持つ存在に、すべての情報やモノ、関心ごとが集まってくる。故に、プラットフォームと呼ばれる「環境」を司る存在がとてつもなく強くなる。

音楽の世界も、サブスクリプションの普及に伴い、どんどんその波が強く押し寄せているように思います。これまでの原盤(マスター)を複製して商品化し、商品1つが売れるごとに売価が発生する商売方式(業界では「フィジカル」などというそうです。)から、マスターをプラットフォーム上にアップロードし、再生回数を指標に収益回収するストリーミング市場への急激な変化を見せはじめています。

JASRACもブロックチェーン導入を発表し、ますます「どこで、誰か、いつ、どのように楽曲を使い、聴かれたか」が明確になり始めることが期待されています。インターネット上では限りなくすべてのトラフィックを追うことができる。となれば、今まで取りこぼしがあった音楽の利用機会もより明確になる、使われた分だけ制作者・原盤保有者に使用料が戻る、というのは音楽制作者にとって明るいお話かと思います。


・・・と、ここまで前向きに書いてきましたが、我々制作者にとっては大きな課題があることも忘れてはいけないと思います。

①印税が減少している、という肌感覚
著作権使用料(ここでは印税と以後呼びます)は、超ざっくり説明すると放映料や商品の販売量に応じて掛け値が決まっています。特にここでは商品について書き進めますが、商品1枚(今や1枚という単位すら危うい時代ですが・・・)の値段に対する掛け値が制作者の印税として分配される仕組みになっています。

つまり、音楽商品がCDとしてシングルが1,000円前後で買ってもらえる時と、ダウンロードで250円で売られている時とでは、同じ掛け値でも1曲が売れた時の収入は大きく変動します。ましてそれが、サブスクで「1再生」となった場合は・・・。1再生カウントすると、額換算すると極めて大きく減少する、という事象が発生します。

ある意味、とてもシビアに「聴かれる音楽は儲かる」「聴かれない音楽は儲からない」という現象が見える化してしまっているのかもしれない。従来であれば音楽商品を買うことがアーティストへの敬意、サポートだったとすれば、今はとにかく聴くこと、そしてシェアすることがそれに成りかわり始めているように感じます。


②ビジネスタームの長期化→適切な初期投資が難しくなる
これまで音楽業界では、楽曲をリリースした際のマーケティングタームは発売後1ヶ月を基準としてきたそうです。CDなどのフィジカルをいかに再生産まで持って行き、在庫を捌くか、というモノ型の商売構図であることが想像できます。「オリコンチャートで『初登場』1位!!」という売り文句は、いかに量販店からCDを在庫一掃するかという意識の表れでしょうか。

一方で、サブスクリプション型の収益構造は、毎月何回再生されたか。を基盤としています。月締めで再生回数をカウントし、プラットフォームから原盤主へ原盤使用料が、著作権管理団体へ著作権使用料が支払われます。

(著作権の方はフィジカルデジタルともに、月締めではないケースが多いかと思います。僕は団体に加入していないので、加入したらその辺りも出せる範囲で、僕の言葉でレポートしたいと思います。)

つまり、いかに1つのコンテンツを長くプロモーションし、息の長いコンテンツにするかがサブスクリプション型のマーケティングでは必要となってくる。初期爆発が必ずしも重要ではなくなるし、どうすれば長く愛されるか、という課題において一挙投下型のマスマーケティングが必ずしも正論ではなくなってくる。というように僕は考えています。

これらを踏まえると、サブスクリプション型のモデルで音楽を作り続けていくとなった場合、初期段階でまとまった予算が確保しにくいという大きな壁にぶち当たります。

短期回収型のビジネスモデルではないため、最初に原盤制作費を提示しにくく、もしそれを無理やり行うとなった場合、以上に低予算で音楽制作を行わなければならなくなりがち。というのが現実。

音楽を商品として世に出し続けていくマーケティング手法をとる場合、これまでと同じ支払い方式で音楽を作り続けていくことは、今フィジカルで大きく売れているアーティストでさえも徐々に、利益循環としては首が締まり始めるのではないか?つまり、音源制作分を音源収益で回収せず、ライブ動員、物販を中心とした周辺コンテンツにおけるロイヤリティやモノ自体の売上で補填するビジネスモデルに頼らざるをえなくなるということ。

これが仮に正しいとすれば、レコーディングによる音楽商品制作を行っている立場の我々は、これまで通りのビジネスモデル上だと全く儲からない。著作権使用料の掛け値がモノ主体の利率であることが問題という声も聞きますが、僕はそれ以上に、音楽商品の開発そのもののビジネスモデルをアップデートする必要を感じています。

僕の考えおよびそのために既に制作裏でトライしている方法論については、お手数ですが有料記事で紹介しているのでよろしければご覧ください。


楽曲制作できる人間が、イニシアチブを取れる意味。

僕自身楽曲制作をプロデュース・作編曲・場合によってはミキシングまで行うことがあるからだと思いますが、楽曲を世に出し、自身の作品で勝負するには非常に優位な現代と実感します。

服が好きなので、よく見に行くLARDINI。ファッション市場において大手ブランドのファクトリーだった会社が、その品質を買われてブランド化していくのと似ているのかと思いますが、そもそもデザイン力と開発力の両方が高い生産者は、マーケティングノウハウさえ身につけられればセルフプロデュース・セルフディストリビューションがかなりしやすい時代なのではないかと思います。(このマーケティング、プロデュースというのが実はとても大変だと思いますが。)

在庫という概念が存在しない、サブスク市場のストリーミングミュージックであればそのスケールメリットはきっと、想像以上。

音源を主としたレコードビジネスの根幹には、「言い出しっぺ・事業主が一番儲けられる」という風潮が特に日本は強い印象があります。業界的に言えば「原盤保有者」が収益を集約して分配する仕組みになっている以上、制作から流通が一気通貫で管理しやすくなった現代において、実は最も優位なのは楽曲が作れる立場の人なんじゃないかと思います。

有料記事の冒頭にも書きましたが、「原盤保有者になる=自ら原盤制作のために予算を確保する=リスクをとる」というのが、最もシンプルに、制作者自身の世界観を構築しながら財政管理をし、一切の妥協をせず音楽作品を生み出すことに有効なのではないでしょうか。

自分で予算を投じることによって、誰に何を依頼する?アートワークの方針は?いつリリースすべき?リリース前にどんな準備をして、事後どのように告知しチャンスを作り出す?を、非常に自分ごと化して考えられるようになりました。チームメイキングを音楽制作者が行い、イニシアチブを取っていくことは究極的に、音楽商品で生み出す価値を最大化した際、無駄なく自由に、「正しく」制作に携わった人たちに収益を分配できるチャンスにできる。僕はそういう考えで音楽を作っています。


受託案件でも一番強いのはリスナーに浸透したブランド。

あくまで「商業としての論」として捉えていただきたいのですが、競合プレゼンで残念ながら負けてしまう時、相手の作家・プロデューサーの方が「決裁者が好きなブランドだったから・実績豊富だから」ということが少なからず存在します。

例えば金額面で僕が「1制作スタッフ」として作曲した方が相手より圧倒的に低価格だったとしても、クライアントである方々は「〇〇さんが作曲してくださるなら別予算を使ってでも是非お願いしたい」という心理になりがち。僕の買い物における金銭感覚も全く同じで、欲しいものが手に入るならいくらでも予算を投じたい。

価値や実績があると思ってもらうためのラベルは、制作者の立場からすると「本質を判断できない素人が判断基準にするもの」と構えてしまいがちですが、実際対メディア・クライアント・リスナーの皆さん共に、価値を知られていることほど強いことはないと僕は思います。僕が言っても誰も聞いてくださらないお話を、著名な方が発言された瞬間にニュースになるというシーンを想像してみてください。

また、受託産業におけるブランドにはもう一つ、相手の金銭感覚の上限を突破する能力があります。音楽制作を行う業務に加え、「著名なこの人が音楽を作った」と公表する瞬間に、広報宣伝的価値が高まるからです。音源制作・使用料としての対価に加え、拡散価値が付与されることへは企業も顧客の皆さんも価値を感じるはず。むしろ、「覚悟を決めてこの予算を投じた!」という達成感さえ提供できる可能性もあります。


音楽制作者主導で、ブランドを作り上げていく。

こちらは、Spotifyきってのモンスタープレイリストのひとつ、「mint」。フォロワー数は驚愕の500万人越えです。ここで取り上げられている多くのアーティストは、音楽業界でいわゆる「プロデューサー(制作責任者:広告業界でいうクリエイティブディレクター)」と呼ばれる方々ばかり。

自身で楽曲を書いている人もいれば、チームを組んでサウンドクリエイションを主導する人もいる。いずれにせよ、「楽曲制作における統括者」に注目が集まっている、それが2010年代のEDMをきっかけとした大きな潮流だと僕は考えます。

歌唱や演奏がライブパフォーマンスにおいて必ずしも必要不可欠ではなくなりつつある現代、映像や照明、そして圧倒的音響によるスペクタクルなショーパフォーマンスに、リアル・そしてバーチャルでさえ多くの音楽ファンが訪れる時代。(と言いつつZEDDは鍵盤もドラムも上手です。すごい。)

音楽制作を追求できる作者たちがコンセプトメイキングの中核を担い、自身がアーティストとしてブランドバリューを構築できさえすれば、映画・ショー・舞台・番組・はたまた他の商材やサービスにおける音響的なデザインにおいてなど多面的な表現コンテンツにおけるサウンド面の意思決定を制作責任者として行えるようになる。当然、市場を読み解く力や他業種のトップと対峙して議論を進められるだけの人格・ビジネスマナー・頭脳や行動力が求められると思いますが、僕はそこに希望があると信じています。

一見市場が狭く小さくなりつつあると言われる音楽市場は、数字上ここ最近成長の兆しを見せはじめています。例えば、この記事。

マクロとミクロでは、体感速度や肌感覚は大きく異なるかもしれませんが、ここで大きく成功している存在を音楽表現者でカテゴライズすれば、制作責任を自ら負えるアーティストが数多く含まれるであろうことを圧倒的なストリーミング数、リスナー数から窺い知れます。

みなさん、このドキュメンタリーはご覧になられたでしょうか。映画主演に伴いサントラも世界中でヒットを飛ばすGagaも、自身の原盤制作におけるエグゼクティブ・プロデューサーとして参画し、Mark Ronsonらと日々楽曲制作に追われながら圧巻のパフォーマンスを見せていることが分かります。

天才としか言いようがない方ですが、これだけ楽曲制作から自身のアーティストバリューを俯瞰して世の中に出ている彼女は、まさしく「制作者としての顔さえ持つ、高いアーティストバリューを持つ人」でしょう。海外、特に世界一の音楽大国アメリカのアーティストはこのような方が多いそうです。


一緒に、音楽制作の市場をアップデートする仲間に

僕の論に対して、第一線の方々の中で賛否両論あることは自覚しています。考えが違うことを否定する気もございませんし、ましてその方々の市場を荒らすような真似は全く考えておりません。

僕が興味があるのは「市場創造」。つまり、今ないけれど未来の必要不可欠なものを生み出すことで、音楽を作ること自体がとっても魅力的かつ夢のあることであるということを広く世界中に伝えていきたい。僕が先輩方から、そう夢を持たせていただいたように、です。

市場の「成長」スピードは、どんどん早まっています。待っていても、逆行することはあり得ないと思いますし、市場はあくまでリスナー主導で動いているものだと思います。僕はその流れを歓迎したいですし、僕ともし思いを共にできる作曲家・演奏者・エンジニア・プロデューサーなど音楽制作に携わる方々がいらしたら、我々主導でその市況の中で最高の音楽を共に届けていきたいです。

一緒に、これからの音楽制作・音楽産業を考え、形にしていきませんか?


僕の楽曲やプロフィールです。よろしければご視聴、フォローください。



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