オレは女が嫌いだが 8
「朱里、お前……!」
オレは朱里の胸倉をつかもうとしたが、するりと交わされた。
「京平君、甘いことばっか言うて、甘い中で生きていくならそれでいいよ。人を傷つける覚悟がないと、この世間では渡り合えんよ?」
朱里の言葉は、なんというか戦場の男のような重みがあった。どれだけ傷ついて、傷つけられて来たら、ここまで人を傷つける覚悟が出来るのだろうか?
オレは純粋にそちらに疑問を感じた。
「怒ってくれたのか?」
「え?」
朱里が目を丸くした。こちらが驚いてしまった。お前、自分で気付いてなかったのかよ。朱里は、オレがバカにされたことに怒ったのだ。酒飲み友達なのかも知れない、そんな程度かも知れない。でも、そんなオレの心が踏みにじられたことにコイツは怒ったのだ。
それがただ不器用なだけだ。そして、手先が小器用なだけだ。それだけだ。
おかしくて、オレは笑った。
「朱里、お前いいやつだな」
朱里の頬が心なしか赤く染まる。
「そりゃ当たり前やろ。関西人の九割九分はええ人や」
「そうなのか? 関西人って怖いイメージあるよ。すぐオチは? って言うし」
「そら、笑いには厳しいけども。でも、道迷って尋ねたら丁寧に教えてくれるしな。ホンマにええ人らばっかなんよ」
「へぇ~」
そこでオレは先の九割九分、という朱里の言葉が気になった。
「残りの一分は?」
何気なく聞いた。何気なくそれを聞いたことをオレは後悔した。朱里の目がすっと細くなり、こちらを射た。冗談だと思ったが、触れてはいけなかったのだろうか。
「それはな、人間には二種類おるからや」
「え?」
朱里の顔は修羅のようだった。
「血肉をすする者と、すすられる者と」
グラスから日本酒をひと口すすった朱里は笑った。
「私は、酒をすすってたいけどな」
「なんだそれ」
オレは前髪をかきあげた。大将が調理場から出てこちらにやってきた。
「二人とも知らない間に仲良くなったね」
苦笑いの大将。
「今日は金目鯛の煮付け。オレのおごりだよ」
さらっと言って、大将は調理場に戻って行った。やばいな、かっこいいな。
金目鯛の煮付けに目をらんらんと光らせるのは朱里。猫みたいな顔してるんだよな、コイツ。ちょっと可愛い。
「大将、ありがとう!」
そう言った朱里はオレに断りもせずに煮付けを食べ始めた。
「大将、ありがとうございます!」
オレも礼を言って、二人で金目鯛争奪戦を繰り広げた。
なんだか楽しくて、オレたちは腹の底から笑ったのだった。
続く
おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)