正直大変、だけどベンチャー企業の魅力はそこにある!
転職で失敗したくないと考える人は少なくありません。例えば、「ベンチャー 転職」と入力すると、後ろに続く検索候補として「後悔」や「難しい」、「成功」、「良かった」という単語が表示されるんです。これらの言葉を見て、あなたは思うのではないでしょうか。
結局、ベンチャー企業への転職ってありなの? なしなの?
その答えを探るため、ベンチャーを選んだ人たちに「実際のところ、どうなの?」とストレートに聞いてみました。新卒で入社したITベンチャーで同期だったという3人は、一度目の転職を経て、今はそれぞれ別のベンチャーで働いています。なぜ、再びベンチャーを選んだのか? どんな環境なのか?
同窓会のようにワイワイ話しているにもかかわらず、どこか熱いものを感じるのは、きっと彼らの言葉に嘘がないから。3人の会話を通して、ベンチャーで働くことの醍醐味に気づかされるはずです。
ベンチャー企業を選んだ理由は「経験値」と「働き方」
──まずは簡単に自己紹介をお願いします。
ちゃん:えっと、株式会社BONXでPM(プロジェクトマネージャー)をしています。音声コミュニケーションプラットフォームのアプリとイヤフォンの開発、販売をしている会社で、ソフトウェアとハードウェアの両方を提供しています。僕は主に社内外のステークホルダーたちと、いつまでに、何を、どう作ってリリースするかを調整しながらプロジェクトの進行管理をしています。加えて、QA(Quality Assurance)という品質を担保する役割も担っていて、リリースするプロダクトに問題がないかを検証したり、品質向上のための改善点を提案したりしています。
まなてぃ:私は、ourly株式会社で人事をしています。ourlyは社内コミュニケーション活性化SaaSを提供する会社で、従業員のエンゲージメント向上を通じて企業のグロース支援を行っています。私は前職で営業やって、中途採用やって、新卒採用やって。入社から3年が経ったタイミングで転職しました。今は人事としてインターンと中途の採用を行っていて、採用広報や社内イベント関連にも携わっています。
てる:僕はCBcloud株式会社でマーケティングをやっています。入社したのが2021年12月なので、2年弱くらいですかね。リードジェネレーション全般を担当していて、広告のディレクションをメインに、ウェビナー開催や展示会への参加、運営などをしています。CBcloudは物流業界の課題をITで解決しようとしていて、メイン事業は配送プラットフォームの提供です。簡単に言うとUber Eatsの物流版で、荷物を届けたい荷主とドライバーをつなぐプラットフォームを作って、提供しています。
──みなさん、新卒で50人規模のベンチャー企業に就職されています。そして2社目もベンチャー企業を選んでいますが、どういった基準で転職先を探されたんですか?
まなてぃ:最初は規模や職種を絞らずに探しました。大手も見たし、ベンチャーも見たし、人事も見たし、営業も見た。カスタマーサクセスも見たかな。広くざっと見て、そこから「やっぱり大手じゃないな」とか「やっぱり人事かな」という感じでどんどん絞っていきました。次は大手を知りたいという気持ちがあったんですけど、自分の価値観や今後のキャリアを考えたときに、大手よりもベンチャーのほうが経験を積めると認識したんです。
てる:僕ははじめから社員数100人くらいの会社で考えていました。とにかく20代のうちはBtoB領域のマーケティングでやれることを増やしておきたいと思ったんですよね。大きい組織のマーケティングチームは役割がきれいに分かれていることがほとんどなので、今の自分には合ってないなあと思って。
ちゃん:僕は最初はメガベンチャーくらいを探していたかな。まあ結局、30人規模の会社に入ったんですけど。てると一緒で、PMも会社の規模が大きくなればなるほど、関与できるプロジェクトの範囲が限定されていくことが多いんですよ。でも、ベンチャーだったらPMは社内にせいぜい1人か2人しかいないので、いろんな経験ができます。であれば、1社目の経験を生かせる規模の会社で働くほうが、次のステップとしてはいいんじゃないかなと思うようになったんです。大手での働き方がうまくイメージできなかったのも大きいですね。
てる:20代でいろんな経験を積めるのは大事だよね。
まなてぃ:私は働き方が合うってところが選んだ基準として大きいかも。大手の選考もいくつか受けたんですけど、「人事領域でのセクションはこうなっていて、さらにここが分かれていて、あなたはこの部分をやってね」と言われたときに全然ワクワクしなくて(笑)。
ちゃん:うん、働き方が自分に合ってるかどうかも大事だよね。PMって本当に経験がものをいう職種で、いろんな局面を経験すればするほどできることが増えていくと考えていて、BONXだったら毎日の業務が新しい経験になると思ったんですよね。正直、PMに求められることって会社によって全然違うし、実際に入ってみないと仕事の幅広さなんて分からないと思うんですよ。ベンチャーだからいろんなことが経験できるだろうと思って入ったのに、「このプロジェクトの一部だけ任せます」と言われる可能性はある。僕が転職活動するなかで「この会社ならPMとして経験が積める」と判断した基準は、とにかく整っていないこと。いくつもプロジェクトがあって、それぞれにPMがついているような環境じゃない会社のほうが確実にカオスなので。あ、カオスっていうのはネガティブな意味じゃないですよ。常に変化しているとか、変化が早いとか、そういったニュアンスで受け取ってほしいんですけど。カオスということは何でもやらなきゃいけない環境ということだから、たくさん経験が積める。しかも僕にとってはそれが働きやすいと思える環境だったので、BONXへの入社を決めました。
変化を楽しむことが、自分の成長につながる
──カオスという言葉が出てきましたけど、「さすがにこれはカオスすぎる!」と感じた場面はありますか?
ちゃん:ほんとにカオスすぎて、たぶん話してもカットになる気がする(笑)。
まなてぃ:何それ、怖いよ(笑)。
てる:まあでも、カオスの捉え方は人それぞれだから。
ちゃん:そうだね。さっきも言ったみたいに、僕は変化を楽しんでいるからなあ。
まなてぃ:それすっごい分かる。「カオス」イコール「ひどい」ではないもんね。
ちゃん:そうそう、ひどいとは思ってない。
まなてぃ:自己紹介では言わなかったんですけど、私、インサイドセールスもやってるんですよ。2つの役割があるのは楽しいけど、これってカオスかも?(笑)
てる:ああ、分かる。ウチの会社もこれから市場を作っていくぞっていう規模感だから「いや、僕はマーケティング所属なんで」みたいなことは言ってられない。
ちゃん:僕もPMとQAを兼務してるからね。これまでにQAとして入ってくれた方もいたんですけど……いろいろと苦労されたみたいで。そもそもQAが何をするべきか決まっていない状態で、仕組みを作っていくところから始めないといけないのが難しいんですよね。僕は前職でQAの経験があったので「じゃあ、自分がやります」って後任として手を挙げたんですけど、もし営業の人手が足りなくなって「お客さんのところに行って商談してきて」と言われたらやると思います。それくらい人がいないんですよね。求めてもないものは仕方ないので、自分が積極的に動くしかない。
まなてぃ:たしかに。ourlyは正社員がまだ20人くらいだから、そんな人数でセクショナリズムの壁を作っていられないのもあるかな。お互いの部署を理解しようとする姿勢が強いんですよ。ビジネスサイドとエンジニアサイドの情報交流も多い。営業の展示会にエンジニアが来てフィードバックをくれたこともありました。
てる:それすごいね。あとさ、「人の流動性がめちゃめちゃ高い」って言われない? 僕は規模が大きい会社から転職してきた人によく言われるんですよ。たぶん、どこのベンチャーも人の入れ替わりは激しいと思うけど……どう?
ちゃん・まなてぃ:あるあるだね。
──一方で、この規模感だからこそやりがいを感じることも多いと思います。
てる:大企業と違うのは、良くも悪くも経営者との距離感が近いことだと思うんです。マーケ担当としていい面を挙げると、自分の提案ひとつで広告予算を動かすことができる。今、実際に経営陣と来期の予算を考えているんですけど、すっごくワクワクしてて。マーケティングの観点からいかに会社を伸ばすかを考えるのがめちゃくちゃ楽しいんですよ。経営陣が話す内容もだんだん理解できるようになって、それだけで一気に視野が広がった感じがするというか。ただ、何度もクリエイティブチェックを重ねて完成間近になった制作物の訴求内容が、経営者視点でコロっとひっくり返されることがあるのもこの規模感ならではかなと。
まなてぃ:距離感は近いよね。ourlyは欲しい人材要件がどんどん変わっていくかな(笑)。ミーティングしていると「こういう人もいいよね」、「ああいう人もいいよね」という話になる。
ちゃん:まーた変えやがってーってならないの?
まなてぃ:ならないかな。てるが言ってたみたいに経営者との距離が近いからだと思う。事業や組織が今の状況なら、たしかにこういう人材が欲しいよなって納得できる。だから「あれで進めてたのに!」と苛立つことはないですね。
ちゃん:僕はカオスな状況自体を楽しんでいます。やっぱりできないことが多いんですよ。日々の業務でまだまだ苦労することも、失敗することも多い。でもそういう経験って、絶対に自分の成長につながると思っているんです。自分ができないことが多い環境を求めて今の会社に入ったので、失敗も含めて、新しい経験ができる状況を楽しんでいます。
──ここまで話を聞いて思ったんですけど、みなさんかなりの負けず嫌いですよね(笑)。
てる:全員そうなんじゃないですか?
まなてぃ:すごく負けず嫌いですね。
ちゃん:(2人を指差しながら)ここほどじゃないと思う。
てる:なんでそんなこと言うの! 一緒でいいじゃん!
まなてぃ:ハハハ(笑)。
ちゃん:いや、絶対に2人ほどではない(笑)。
働く時間の長さよりも密度が大切
──現在の会社に入って、何かギャップを感じましたか?
てる:前の会社が50人規模だったので、100人規模の会社に入るのは、僕からすると大きい会社に入るような感覚だったんですよ。前よりは環境が整ってるかなあと無意識に期待してしまっていたんですけど……なんも変わらんかった!
まなてぃ:そうなんだ(笑)。
ちゃん:僕は想定外の出来事がありましたよ。業務のほとんどがエンジニアとコミュニケーションを取ることなんですけど、エンジニアとのテキストコミュニケーションが基本的に英語だったという(笑)。
まなてぃ:マジ!? すごっ。
てる:やばっ。
ちゃん:英語でコミュニケーション取るのはあんまり得意じゃなくて。「めっちゃ英語使うやん!」ってなった(笑)。
まなてぃ:めっちゃギャップじゃん!
てる:どれくらいで慣れるもんなの?
ちゃん:そんなに時間はかからなかったよ。テキストコミュニケーションは英語だけど、日本語で話すことはできるから意外と大丈夫だったかな。
まなてぃ:私は「役員って、こんなに個人のキャリアについて考えてくれるんだ!」というポジティブギャップがありました。全メンバーがほぼ毎週、役員と1on1をしているんですけど、長期的な視点で「こういうことをやってみたらいいんじゃない?」って会話をしてもらえるのがうれしくて。こんな会話をしてもらえるんだあと感動しました。
──働く環境はどうですか? 人がいないという話も出ていたので、ねえ……。なかなか大変なんじゃないかなと。
まなてぃ:かなり働いているかも。
ちゃん:僕はバランス取りながら働けているほうかな。フルフレックスなので時間のコントロールがしやすいんですよ。プロジェクトを進めるなかで問題が発生することはあるので、そういうときはガッとアクセルを踏んで働きます。逆に稼働を減らせそうなタイミングだったら1日の労働時間を短くすることもある。自分でメリハリをつけながら働いています。
まなてぃ:上司が残っているから帰れないみたいな空気感は一切ないです。仕事するときはするし、予定があれば帰るし。かなり働くって言いましたけど、時間の長さというより、密度だと思います。
てる:休むときは休むしね。メンバーと仕事終わりにそのまま飲みに行くこともあるし、帰りづらさは本当にないですね。
ちゃん:ウチはリモート勤務が基本なので、仕事が終わってからプライベートな時間を一緒に過ごすことはほとんどないですけど、会社の企画でバスケしたり、神宮に野球を見に行ったりすることはありますかね。
熱量が高く、どんな環境でも楽しめる人が向いている
──みなさんすごく楽しそうに働かれているのが伝わってきたんですけど、ベンチャー選びで失敗しない方法はありますか?
てる:ないと思います! たぶん、この記事を読んでくださっている人はベンチャーに興味があったり、転職しようか悩んでいたりすると思うんですけど、何かにちょっとでも興味を持ったんだったら1回やってみたらいいんじゃないですかね。その選択が正解か不正解かなんてやってみないと分からないですし、やっていくなかで変化することもあると思います。選んだ道を正解にしていくことが人生だって言う人もいますから。興味を持ったのならやってみるほうが、僕はいいかなって思います。やらないで後悔するくらいだったらやったほうがいい。
まなてぃ:もし興味のある会社があるんだったら、とにかくその会社の人に会ったほうがいいと思います。ベンチャーは選考ステップが短いんですよ。人事と役員の2人くらいしか会ってないのに内定出ちゃった、みたいな。それでいざ入社したら、同年代の人がみんな辞めたがっている……なんてことがあるんですよ。それはすごくもったいないので、少しでも会う人を増やすといいと思います。人事である私が、もし採用候補者に「ほかの部署の人とも話したい」と言われたら喜んでセッティングします。「これ以上は会わせられません」みたいなことを言うベンチャーの人事はいないと思いますよ。いろんな人と会ってみて一貫性があると分かれば安心できるだろうし、違和感があったら避けたほうがいいかもしれない。
──それ、すごくいいアドバイスだと思います!
ちゃん:うん、人事目線ですごくいい。
まなてぃ:そう? ありがとう(照)。
──では最後に、どんな人がベンチャー企業に向いていると思いますか?
ちゃん:自分で考えて行動に移せる人。
てる:たしかに!
ちゃん:ほんとに環境が整っていないんですよ。だから、きれいにまとまった形で仕事が上から降ってくることは絶対にないし、常に指示を出してくれる人もいない。ここにボールが落ちてそうだなと思ったら自分から積極的に拾いにいくしかないんです。行動力はすごく大事なポイントだと思います。
まなてぃ:そうだね。
ちゃん:逆に言うと、サボろうと思えばいくらでもサボれるんですよ。だけど、そういう環境の中でいかに自分ができることを見つけて仕事をやっていくかが一番大事かなと思っていて。それを楽しめるというか、苦じゃない人が向いているんだと思います。
まなてぃ:完全に共感。
てる:めっちゃ分かりやすかった(笑)。
まなてぃ:楽しむ力が高い人がいいかもしれないですね。カオスを楽しめる人。だから大企業からベンチャーに転職となると……うーん。
ちゃん:でもたぶん、僕らは僕らで大企業を経験していないからこその偏見があると思うんだよね。
まなてぃ:そうね。二項対立で話すべきではない。
ちゃん:大企業だからこその悩みがあるだろうし、部署によっては整っていない環境もあるだろうし。例えば、力があって新規事業を立ち上げやすい一方で、そこにアサインされた人は「全然整ってないなー」と感じているかもしれない。大企業だから、ベンチャーだからって一括りにして考えないほうがいいかもしれないですね。ベンチャーだけ見ても会社によってカラーが全然違いますから。
てる:今、気づいたんですけど、全員が共通して持っていると思うのは熱量ですね。熱量がないとたぶんこの世界……この世界って言っていいんですかね?(笑)
まなてぃ:あはは。急に大きな話になった!(笑)
てる:ベンチャー企業でいいのか。実際に早期に辞めていかれる方を見て感じるのは、熱量の差なんですよね。熱量がないとベンチャーでやっていくのは難しい気がします。熱量が高くて、カオスな環境を楽しめる人が向いていると思います。
インタビュー・文:高尾太恵子
写真:須田康暉
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