ビールオジさん2

ホップ、ステップ、アワワワワ。

オジさんのカガク2018年9月号

 子どもの頃は夏休みが終われば、夏も終りだった。夏の日差しが残っているだの、秋の匂いがするだの考えたことも無かった。毎年8月31日には「今日で夏休みも終わり」というニュースが流れた。東北の夏休みは短い。TVに向かい「もう、とっぐに終わってんべ」と毒づいていた。

 9月に入りました。さて今年の夏は終わっているのだろうか。さすがに猛暑日は無いが、まだまだ真夏日は続く。熱帯夜だからエアコンは点けっぱなし。
 スーパーの店頭には、まだトウモロコシがたくさん並んでいる。冷やし中華もまだある。まだまだ夏だ。そしてオジさんたちの夏の必需品は、何と言っても「ビール」。ということで今月は、ビールとお酒にかかわるネタで行かせてもらいます。

 オジさんたちは、仕事するふりに疲れた会社帰りに居酒屋で一杯。ハーフを終わってゴルフ場で一杯。風呂上がりに家で一杯。ぐきゅっっうぐっ、プファァァァ~。
 先日、新宿の屋上ビアガーデンに高校の同級生のオジさん6人組で繰り出した。飲み放題のメニューには、ワインも日本酒もハイボールもチューハイもホッピーもある。でも「ビア」ガーデンなのだ。

 お酒といえば「とりあえずビール」。そしてビールといえばあふれ出る泡、泡、泡。そもそも液体の表面に泡が盛り上がる飲み物なんて、ビール以外に思いつかない。シャンパンもサイダーもコーラも泡は出るが、すぐに弾けてしまう。なぜビールの泡だけが残るのだろうか。
 
 国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下産総研)のナノ材料研究部門とキリン株式会社(以下キリン)の研究チームはビールの表面の泡を調べた。
 ただの水を掻き混ぜても泡立たない。これは表面張力が表面積を出来るだけ小さくしようとするから。ここに洗剤などに含まれる界面活性剤を入れて、表面張力を弱めると泡が出来る。でもビールに洗剤は入っていない。

 ビールの泡はシャボン玉の様な小さな泡の集まりだ。中の二酸化炭素をビール液が覆っている。二酸化炭素はアルコール発酵の過程で作られる。
 ビールは大麦を発芽させた麦芽を乾燥させ水と混ぜ、ビール酵母で発酵させる。そしてホップで味付けする。元々ホップは保存料だったが、独特の苦みと爽やかな風味により今ではビールに欠かせない原料となった。
 
 これまで麦芽が元になったタンパク質やホップが泡の形成に関与していると考えられていたが、直接泡を調べる方法がなかった。今回産総研とキリンは、レーザー光線を使った解析法で泡の表面に存在する分子を調べることに成功した。ちなみにビールは飲みごろの3℃に冷やしたそうだ。
 
 市販のビールに相当する5%ぐらいのアルコール濃度だと、ホップに含まれる成分がビールの液面に集まってくる。アルコール濃度が高すぎるとホップの成分は液面に集まらず、濃度が低すぎて水っぽいとそもそも溶けないという。
 今回泡を作る液体が気体と接する面にホップの成分が多くあることが判った。ホップの添加量を増やすと泡の持続時間も延びることも判明した。

 またビールに含まれるタンパク質の量もホップの量と相関があった。
 ビールの泡はホップと麦芽から出たタンパク質がゆるく結び付いて安定度を増していることが証明された。
 ホップの様に渋いオジさんたちにビールはお似合いだ。吹けば飛ぶような立場でも、結束してしぶとく残る泡なのだ。

 新宿のビアガーデンでオジさんたちはちょっと驚いた。かなりウルサイ。何百人と居るお客の平均年齢は20代だろう。従業員はすべて東南アジア辺りの外国人。オジさん6人組はちょっと場違いな感じだった。若者たちはどんどん発注をかけていた。

 筑波大学医学医療系の研究グループは前月「飲み放題は大学生の飲酒行動にどう影響するか」という研究を発表した。
 関東の31大学の学生533人を対象に、飲み放題に関する調査を行った。その中で、95.8%の511人に飲み放題の利用経験があった。そして飲み放題の時の飲酒量が、飲み放題ではない時に比べ、男子学生で1.8倍、女子学生も1.7倍になることが判った。

 飲み放題利用時の男子学生の平均アルコール摂取量は85.9g。ビールに換算すると約2.2リットル、日本酒だと4.3合、ウイスキー水割り8.6杯になる。女子学生は63.7gで、ビールで1.6リットル、日本酒3.2合、ウイスキー水割り6.4杯になる。
 また、男子学生の39.8%、女子学生の30.3%が、飲み放題時のみHED(一時的多量飲酒)という危険な飲酒をしていることが判った。

 HEDとは、世界保健機構(WHO)の定義によると1回の飲酒機会で60g以上のアルコールを摂取した場合をいう。ビールだと1.5リットル、日本酒3合、ウイスキー水割り6杯、ワイン小グラスで6杯、チューハイ350ミリリットル3缶、25度の焼酎ならロックで300ミリリットル分だ。

 理化学研究所などのグループによる日本人の全ゲノム(遺伝子)解析の報告が、今年4月に発表された。それによると日本人は何らかの理由により酒に弱くなるように進化したらしい。日本人は世界でも稀にみるほど、酒に弱い人種なのだ。
 WHOの基準より少ない量でも危ないのだ。

 学生だけの話ではない。意地汚いオジさんたちも肝に銘じなければならない。美味しいビールを適量味わおう。飲み過ぎて後で泡を食らったりしないように。
                        2018.09.10 や・そね
<参考資料>
プレスリリース
・「ビール表面の分子と泡の安定性に相関」
  2018年8月10日 国立研究開発法人産業技術総合研究所、キリン株式会社
・「飲み放題は大学生の飲酒行動にどう影響するか」
 2018年8月29日 筑波大学
・「全ゲノムシークエンス解析で日本人の適応進化を解明-アルコール・栄
 養代謝  に関わる遺伝的変異が適応進化の対象-」
 2018年4月25日 理化学研究所、大阪大学、慶應義塾大学医学部、日本医
 療研究開発機構
HP
・「ビールをうまくするあの泡には、さえた苦みのホップが集まってくる」
 2018年8月23日 サイエンスポータルニュース速報
・ウィキペディア「ビール」

<オジさんの科学バックナンバー>
2016年
1月号 世界一のシマシマ
2月号 夢を操る
3月号 指で潰せる最強生物
4月号 腰痛は愛から
5月号 働くオジさん
6月号 鬼門の先
7月号 ネコはおしゃべり
8月号 世界のタムじいさん
9月号 台風七番勝負
10月号 見えてます
11月号 ヒトの脳は大雑把が得意
12月号 謎解きDNA
2017年
1月号 旧石器時代最先端技術博レポート
2月号 がんばれベテルギウス
3月号 ヒトのカラダは倹約上手
4月号 ボクが鳥を恐がるわけ
5月号 恐竜からヤキトリ
6月号 「ハンバーガー」と「かば焼き」
7月号 将棋と脳
8月号 ナノカーなのだ~
9月号 宇宙の「柿の種」問題
10月号 ちいさなさざ波
11月号 カラフルな、ふとん
12月号 お熱いのがお好き
2018年
1月号 13%の不運!
2月号 インフルエンザは、なぜ流行る?
3月号 おイヌさまさまなのだ。
4月号 ネコの人工血液が出来たんだニャ~。
5月号 ミートテックを愛用する方々にジャストミートする諸研究
6月号下手は伝染る
7月号 ゆるゆるカガクの用語集「第二の地球」編
8月号 ネッシーの不在証明


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