自転車レーンを守護する人々の連鎖(1): サンフランシスコ、ダブリン、ニューヨーク
せっかくの自転車レーンが、路上駐車などのせいで機能していない。そういうこと、ありますよね。東京都心に近いところだと都道431号線とか。
こうした問題は日本だけのものではありません。2017年は世界のあちこちで「道路に並んで自転車レーンを守る」アクションが連鎖的に起こった年でした。human-protected bike laneやpeople-protected bike laneと呼ばれる空間を生み出すこれらの活動について、数回に分けてまとめたいと思います。
サンフランシスコ
5月1日、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・アベニューに黄色いTシャツの人々が現れ、自転車レーンを二重駐車などから守る活動を行いました。主導したのは、街路を歩行者や自転車利用者にとって安全なものに変えるために組織された民間グループSFMTrA。これをきっかけに、同様の動きが世界各地へ飛び火したようです。
Bicycling.comの記事によれば、この"People Chain Protected Bike Lane"はSFMTrAメンバーのMaureenさんが仲間のMattさんに提案して始まったもの。彼らのユニフォームであるTシャツには子供を自転車の後ろに乗せた人のシンボルが描かれています。前掲の記事の中でMattさんも話題にしていますが、彼らが求めているのは子供連れの人でも安心して使える自転車空間です。
Tシャツの文字は"Protected Bike Lanes Save Lives"、構造的・物理的に自動車から保護された自転車レーンは人の命を守る、という明解なメッセージです。ペイントだけの自転車レーンは自動車の進入に対して無防備なので、市街地など路上駐停車需要の高いところでは満足に機能しません。人が構造物の代わりとなって自転車レーンを保護するpeople-protected bike laneは、正式なprotected bike laneへの転換を求める活動なのです。
サンフランシスコでのアクションは、今回はこの道、次回はあの道、といった形で継続されているようです。既存の自転車レーンでバスとの接触事故に遭った人、ドア開け事故に遭った人。地元選出の上院議員。こうした人々も活動に参加しています。以下、12月初旬までの様子が垣間見えるツイートを、リンクと引用の形でいくつか貼っておきます。
5月中旬 | 5月下旬 | 7月下旬 | 9月中旬 | 11月上旬
5月12日の活動を取材したStreetsblog SFの記事によると、参加者は、歩道脇の駐車帯を正しく利用しているドライバーに対しては出入りを妨げないよう説明されているそう。もちろん二重駐車となれば話は別です。5月25日の活動を報じたSFGATEの記事によれば、2016年に行われた実地調査の際、ヴァレンシア通りの片側の自転車レーン、それもわずか1ブロックの区間が、18-19時の間だけで53台の車に塞がれたとのこと。
SFMTrAのこれまでのアクションには、ペイントのみの自転車レーンの境界部に樹脂ポールを自前で設置するというものもありました。フォルサム・ストリートなどでは、これを引き継ぐ形で市が正式に樹脂ポールを立てるということが起きています。road.ccの記事によると、新しく導入された小型の道路清掃車はポールが並んでいても作業が可能とのことです。
ダブリン
アイルランド共和国の首都ダブリンでは、I BIKE Dublinというグループを中心にhuman-protected bike laneの活動が行われています。ツイッターで彼らから教えてもらった情報では、サンフランシスコの先例に触発されて夏に始まったもの。彼らの凄いところは、毎週これを決まった曜日(の自転車利用者の多い時間帯)にやっているところです。
ツイート内の動画の場所は、ダブリン大学トリニティー・カレッジの敷地の東側を通るウェストランド・ロウです(撮影者のCitizen Wolfさんはこの記事のヘッダー画像を提供して下さいました)。自分は8月末から数日、この通り沿いにある大学寮に泊まっていたのですが、目の前で行われていたI BIKE Dublinの活動に気がつきませんでした。翌日そこに立って観察してみると、自転車レーン内の駐停車がここでも日常茶飯事だということが分かりました。
彼らの活動場所の一つであったセント・アンドリューズ・ストリートの自転車レーンには、クリスマス前になって樹脂ポールが設置されたようです(次のツイートの写真はその作業中の様子)。構わず薙ぎ倒して駐車するドライバーもいるらしいので(ツイートへの返信に書かれています)恒常的な解決とは呼べないかも知れませんが、重要な一歩。
12月20日のThe Timesの記事によると、自転車レーン内の違法駐車に対し、警察は年初からの合計で417件の罰金キップを切っています(前年の268件との差は、違反そのものの増加というよりも取り締まりの強化を反映しているものと思われます)。I BIKE Dublinの方々はこれでも不十分と考えている模様。
同グループのスティーブンさんは、このニュースの中でこう話しています。
(走りに)自信のあるサイクリストは平気でも、お年寄りや子供、自転車を移動手段として使っている他の人々にとっては、自転車レーンを塞いだ車を避けて車道本線に入るのは怖いことなんです。
子供連れでも安心な自転車空間を、というサンフランシスコのメッセージと重なりますね。
ニューヨーク
前掲のStreetsblog SFの記事の中で、SFMTrAのMattさんは(駐車帯を設けるならば)路駐車を自転車空間の保護に用いるレイアウトが望ましいと語っていました。大陸の反対側のニューヨーク市では2007年頃から、このparking-protected bike laneと呼ばれるレイアウトへの更新が進められてきました。
そんな街にも、human-protected bike laneは現れるんですね。8月のある日の朝、徒歩・自転車・公共交通へのシフトを1973年からプッシュしてきた民間グループTransportation Alternativesの呼びかけで、マンハッタンの2番街に人々が集まりました。Streetsblog NYCの記事によると、この区間ではラッシュアワーになると駐車帯が自動車の走行レーンに変わり、路駐車による自転車レーンの保護が得られなくなってしまうとのこと。市はそこに物理的な仕切りを設置するはずでしたが、計画は変更されてしまったそうです。
動画では、構造物による保護あるいは駐車帯の常設化が必要だと語られています。この朝も、活動が終了するとすぐに自転車レーンが車で塞がれてしまった模様。これでは誰もが安心して使える空間とは言えません。
安全な自転車空間の空白地帯は、マンハッタンの他の場所にも存在します。特に5番街のミッドタウン区間にはペイントのみの自転車レーンすらありません。10月にはここに300名を超える人々が集い、長さ8ブロックという世界最大規模のhuman-protected bike laneを形成しました。
この規模、そして参加者の多様性は流石ニューヨークといった感じです。詳しい経緯などについてはStreetblog NYCのこちらの記事が参考になります。ニューヨークに住んでいた自分は、あの街角の変化について知ると気持ちを揺さぶられずにいられません。子供でも安心して自転車で走れる道路が世界中に増えていくことを願います。
次回はメキシコシティから
世界6か国、6つの都市における2017年の動きを追っています。
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