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CIID Week1: 今のビジネスマンがデザインを受け入れられないわけ

CIID IDP in Costa Ricaのカリキュラムがスタートし、最初のモジュールである”Team Building”が修了したので、それから得られた考察を述べたいと思います。テーマは、「今のビジネスマンがデザインを受け入れられないわけ」です。実際のデザインとビジネスの現場それぞれで行われているプロセスの違いに着目して解説したいと思います。

CIIDで行う最初のプロジェクトワーク: 未来創造

【最初の教え: デザインでは”やっぱりチームワークが大切”】
この記事を読まれているほとんど全ての方が、会社や個人活動の一環でグループワークに関わったことがあると思います。思想や意思の異なる他人とワークすることで、プラスな要素・ネガティブな要素があると認識していますが、前職のコンサルタントとしての経験からすると、「チームワークなんてあってないようなものだ」と考えていました。

「多様性から新たなアイディアが生まれる」と言うのは簡単なのですが、クライアントに5-20万円/時間を請求する自分たちは、みんなで何かを考えるというより、パートナーやマネージャー(もちろん自分も)が考えるプロジェクト計画を分業していかにこなしていくか、ということを考える時間の方が圧倒的に多かったと思うのです。

とはいえ、チームでアイディアを考える時もあります。ただその時も多様性を活用し柔軟に発想されるアイディアというよりも、これまでの事例調査やビジネス経験から得られた情報に基づいて構築された”示唆に富んだ”アイディアが重宝されていました。この場合前述の「事例調査やビジネス経験から得られた情報(Business Acumen)」を持っていないコンサルタントは、その会議では発言権を持つことができません。こうして多様性はなくなってしまうことになります。

長くなりましたが、CIIDの最初の授業では、このBiasを打ち砕くことから始まりました。チームメンバにはそれぞれ役割があり、それぞれが価値を発揮できるように協働するように教えられます。

自分はそうしないと、結局面白そうなアイディア・斬新なアイディアが出てこないのだな、と後述するプロジェクトで学ぶことになりました。

【”チームワークの大切さ”への共感度が問われる最初のプロジェクト】
初週はチームワークを学ぶ週なので、多くのグループワークをこなすのですが、最後に24時間のプロジェクトワークを行います。(細かい設定は省きますが)お題は、チーム4人で「2062年 自然保護施設 設立100周年の記念イベントの体験を設計すること」です。プロセスや最終成果物に特段の指定はなく、全てチーム内で考えます。下記では実際に行ったプロセスとそこで得られた気づきを記載しています。

グループメンバーは、自分のビジネスバックグラウンド以外は、Experience Designer, Interaction Designer, Motion Designerで構成されていました。

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デザインとビジネスの違い1: 無為にFactに準拠しない

【ステップ1: Research⇨Refine Problem Statement】
最初に、上記のProblem Statementの認識を揃えるために、以下の問いをグループメンバーと考えました。実際のスタッフや観光客などへのインタビューも加味しながら、グループメンバでブレインストーミングします。

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* 2062年はどのような世界になっているのか
* 誰をターゲットとして記念イベントの体験を設計するか
* 2062年ではどのような体験を自然保護施設に求めているのか
* 自然保護施設が持つ魅力は何か

ここで印象的だったのは、自分意外誰もファクトやそれに基づくインサイトにほとんど準拠していなかったことです。「まあこんな感じだよね」という風に認識を揃えつつ、合意形成していきました。正直に言えば、自分はこのプロセスに反対しており、もう少しちゃんとリサーチ設計やインサイトに関するディスカッションを進めて、「らしきもの」を作ろうと終始していました。一方で時間的な制約もあるので、いったん引いて他メンバーのプロセスに従ってみることにしました。

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メンバ全員の経験と創造を踏まえた結果、私たちのグループでは「子供たちがSustainabilityや自然の多様性の大切さを学び将来につなげていくためにはどのような体験を創造すべきか」をProblem Statementとすることにしました。このプロセスでは、ひとまずチームメンバの意見を重宝することが重要と感じました。

【もしビジネスの現場だったら: ファクト/インサイトのないものは悪】
結論から言えば、まず間違いなく(少なくとも日本の金融・保険業界では)今回グループが従ったプロセスとそのアイディアは、ビジネスマン間で納得感を生まないと思います。理由は単純で「何にも準拠していない」からです。僕らコンサルタントは、イノベーションデザインや新規事業を計画する時、死ぬほどリサーチして無数のファクトとインサイトを取りまとめて、クライアントからの質問に答えられるようにしています。これはそうしないと、クライアントが買ってくれないからと認識しているからです。もし昔のクライアントの前で同じ内容をプレゼンしていたら…と思うと、鳥肌が立ちます。

ここではどちらが良いプロセスかは論じませんが、今日本の大手企業がコンサルティング会社を雇っている一方で、そこから生まれたイノベーションが少ない…ということは、ファクトやインサイトに強く基づいたプロセスに限界があるかもしれないことを示しているのではないでしょうか。

デザインとビジネスの違い2: チームの多様性を活用したIdeation

【ステップ2: Idea Sketching⇨Ideate Concept Map】
次は定義したProblem Statementに基づいて、その課題を解決するためには、何を作るべきかということをSketchやConcept Mapでまとめていきました。印象的だったのは、雑でもいいのでSketchを用いて自分のアイディアを迅速に共有したことです。その後、それぞれのアイディアから要素を抽出して最終的に1枚のConcept Mapにまとめました。

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Concept Mapを作ること自体は難しくないのですが、ここで全員が意識していたのは、それぞれの持つ視点を重要視した上で、「どうしたら彼または彼女のアイディアを他のアイディアを良くするために使えるだろうか」ということです。(無意識に)お互いが異なる専門性やバックグラウンドを持っていることを認識し、それをプラスに捉えた上で、Ideationしようとしていたことが印象的でした。

【もしビジネスの現場だったら: 論理的思考によって潰される多様性】
自分の経験が乏しいことにも起因しますが、こんなに他人の意見に耳を傾けて良いアイディアを生み出そうとしていたことはあまりなかったと思います。前述しましたが、時間単価が高い(高すぎる)コンサルティング業では、効率性を重視するあまり、高いビジネス知識や経験(Business Acumen)がない人は、あまり発言することができません。ただ一方で、そのようなプロセスからは面白そうなアイディアが出てこないことも確かです。

デザインとビジネスの違い3: “Should do”ではなく”Want to do”を体現できるか

【ステップ3: Prototyping⇨Testing&Iterate】
Concept Mapをまとめたら、次はその世界観を伝えるために必要なプロトタイプを作成しました。僕らは「子供たちがSustainabilityや自然の多様性の大切さを学び将来につなげていくためにはどのような体験を創造すべきか」がテーマになっていたので、Digital Gardenや5感全てのデータを記録するSmart Groveなど、複数の面白いアイディアが出ていました。

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プロトタイプを作る時は、これまた驚いたことに、全員が目を輝かせていました。「このコンセプトはこんなプロダクトで表現したい」「そんな感じのプロダクト作ったことあるよ!」など、有機的に何かが生み出されていく感覚がありました。それだけコンセプトやプロトタイプに自分の意思を持っていたということです。プレゼン方法も含めて細部にまでこだわり、結局深夜までワークすることになりました笑。下図は実際のプロトタイプです。

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【もしビジネスの現場だったら: 全員が”Should do”で考えてしまう】
基本的にコンサルタントもそのクライアントも、「ビジネスニーズがありそう」「なんか面白そう」等といった、「他者モード」の戦略やプロダクトが大好きです。もちろんその実現に向けてリサーチなどを行うのですが、「何かを作ろう」というようなステップに届くことは、非常に稀だと思います。理由は単純で誰もイニシアチブをとらないからです。

少なくとも解決したい課題に思いがない時点で、ビジネスニーズがありそうだからすべきだろうという、”Shoud do”の気持ちが強くなるはずです。一見かっこいいのですが、大抵なことがビジネス化されているこの世の中で、”Should do”を見つけるのは並大抵のことではありません。幾度もの会議を重ねるたびに、どんどんアイディアが狭まり、最終的に消えてしまうことは想像に難くないと思います。

現代では、もう少し自分起点の”Want to do”を生み出すことができるデザインプロセスが重要になるのではないでしょうか。

全体まとめ

長くなりましたが、デザインとビジネスのプロセスの違いから、以下のような理由で、現代のビジネスマンがデザインを受け入れられないのだと、考えています。

* 全てFactやInsightに基づいて考えようとしてしまうため
* 多様性を意識したIdeationをできないため (その重要性を認識していない)
* Want to doで考える人が存在せず、最終的にアイディアが消えてしまうため

町田

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