アメフトの「強み」と「事業戦略」を考える。(アメフトの事業化を考える④)
1.はじめに
前回は、アメフトの「エンタメ性」が事業化を考える上での強みになるかどうかを検討しました。結論としては、「エンタメ性」はOnly1、No.1になれる部分が少なく、厳しいと書かせていただきました。
今回は、アメフトがOnly1、No.1となることのできる可能性がある社会領域を考え、アメフトの強みと事業戦略について検討して行きたいと思います。
2.アメフトの「強み」と「事業戦略」
個人的にアメフトがOnly1、No.1になれる社会領域を見出す上で強みになる特徴を以下列挙します。9つ挙げましたが、他にも考えれば色々と見出せるのではないかと思います。是非ご意見いただければ幸いです。
①データ分析・緻密な戦略性と大規模組織運営
アメフトは他のどのスポーツと比べても、データ活用が進み、ロジカルな戦略構築を行っているスポーツである、といえるのではないでしょうか。
また、大学でもXリーグでも100人規模の組織(他競技のように1軍、2軍、3軍ではない)を運営しており、効率的に組織力を最大化する工夫が競技の中に散りばめられています。
この特徴は、アメリカンフットボールから離れても、企業でも行政でも重要な要素です。
この強みをアメフトの外に発信して価値提供行うことで、事業化できる可能性があるのではないでしょうか。
例えば以下のような価値提供です。
toC:
アメフトの戦略やデータ活用のコンテンツ発信
アメフトの組織運営のコンテンツ発信
toB:
コンサルやITなど、意思決定支援や組織運営支援の企業とのパートナーシップ
戦略系ゲーム企業とのパートナーシップ
②多様性、男女が同時にフィールドで活躍
アメリカンフットボールはフィールド上のポジションで細かく分けると88ポジションあります。
それぞれのポジションには求められる資質が異なり、ポジションが違えば体格もちろん、選手の性格も異なる場合が多いです。
全く異なる選手たちが、協調して動きや考え方をすり合わせ、一つ一つのプレーを作り上げていきます。
また、アメフトのチームには選手の他にコーチはもちろん、マネージャーや分析スタッフ、トレーナーが一緒に活動していますが、その中には女性も多く活躍しています。
そして何よりアメフトには不可欠なチアリーダーの存在があります。
このように、アメフトでは男女が共に同時にフィールド上でそれぞれの役割で活躍しています。
以上のように、男女ともに多様な役割で活躍している、というのは社会的に見ても非常に意義のある組織といえます。
ダイバーシティ、インクルージョン、男女共同参画、といったキーワードは日本において大きな課題に関連していますが、アメフトはそれを体現している存在といってよいのではないでしょうか。
この強みをアメフトの外に発信して価値提供行うとすれば、以下の方向性は1つの例として考えられるのではないでしょうか。
toC:
ダイバーシティ組織運営に関するコンテンツ発信
toB:
ダイバーシティ経営の推進を重視している企業とのパートナーシップ
③フラッグフットボールの教育的価値
フラッグフットボールはアメフトが持つ大きな財産です。
他のスポーツとブランディング面で一線を画しています。
それは、「身体操作」ではない部分の教育的側面を前面に押しているスポーツだからです。授業づくりも技術的な部分ではなく、作戦の立て方や、集団達成をどう実現するかにフォーカスされており、これまでの「体育」とは全く違う新しいスポーツとして学校現場に導入されています。「運動が苦手な子」にどう活躍の機会を創出するか、という点も重視されており、あらゆる子供にスポーツでの成功体験を与えることにより、国民のスポーツ実施率の向上にも資する可能性があると思います。
また、アメフトの文化である「スカウティング」を授業に導入することにより、ICT活用や、データに基づいて作戦を修正するという経験が生まれ、STEAM教育としても可能性が高いスポーツです。
2028年にロサンゼルスオリンピックの種目に採用される可能性もあり、非常に可能性に満ちているのではないでしょうか。
以上の強みを価値提供する例として、以下の方向性が考えられます。
toC:
フラッグフットボールスクール・短期・単発プログラム
フラッグフットボール大会の開催
toB:
子供の教育へ貢献したい企業とのパートナーシップ
教育DX・STEAM教育に事業展開している企業とのパートナーシップ
④医療との深い結びつき
アメフトは相対的に怪我の発生率が高いスポーツで、その部分は弱みになりますが、一方で医療面が発達しています。
チームに所属するメディカルスタッフの人数や重要性は他のスポーツと比べ非常に高い、というのが特徴といえるのではないでしょうか。
また、他の競技にもありますが、医学部の学生がプレーする医科歯科リーグの存在もアメフトと医療との結びつきを深いものにしています。
現在、日本の医療は課題が多いと言われていますが、結びつきの深いアメフトがその課題面を支援できる可能性があると思っています。
この特徴を価値提供に変換する例としては以下が考えられます。
toC:
怪我予防のコンテンツ発信
アスリートの栄養・コンディショニング
toB:
医療データが欲しい企業とのパートナーシップ
医療課題を解決したい企業や自治体とのパートナーシップ
⑤1インチの攻防
アメフトはボールが1st Downラインを超えたかどうかのせめぎ合いが、大きな見所です。
ラインを1インチ(=2.54cm)でも超えるために日々トレーニングを積んでいます。
アメフトの映画で有名な「Any Given Sunday」でも、以下のようなセリフがあります。日本語訳はこちらからお借りしました。
このように、大規模で戦術の緻密性が高く、ダイナミックなアメフトでも、最後の一インチの攻防が非常に大事である、という部分は、人生や社会のあらゆるところへ通ずるメッセージになるのではないでしょうか。
これを価値として発揮するための方向性としては、以下のような例が考えられます。
toC:
「1インチの攻防」という切り口で、アメフトはもちろんそれに限らずスポーツ・ビジネス・人生に関することのコンテンツ発信
toB:
少しでも性能の限界を追求する、という意味での技術力の高さをブランディングしたい企業とのパートナーシップ
⑥大規模社会人集団
Xリーグはほとんどが社会人をやりながら選手として活躍するアマチュアスポーツです。
このアマチュアという特徴と、アメフトの大規模性が合わさると、非常にユニークな取り組みが可能になると感じています。
例えばチーム全体が瞬間的に以下に変身することができます。
・イベントを開催する場合の運営スタッフ
・何かを営業する場合の営業チーム
・何かの大規模モニター集団
この強みの価値提供の方向性としては、単独というよりも、ここで挙げている他の強みと組み合わせて、アクティベーションの魅力付けとして考える感じかと思います。
⑦他競技からの転向による成功
アメフトは競技特性上「後期の専門化」の特徴があると呼ばれています。
これは、幼少期からアメフトをやっていなくとも、他の競技で培われた身体能力を活かして、途中から転向して活躍できる、ということです。
日本アメリカンフットボール協会でも、この特徴を発信するべく「クロスーバーアスリート測定会」という取組を実施しています。
転向して選手として成功している選手が非常に多い、という特徴はアメフトの強みではないかと思っています。
社会的には、人生100年時代と呼ばれ、1億総活躍社会とも呼ばれていますが、仕事や趣味など、1つの事をずっとやり続けることだけで生きていくのは難しく、人生のどこかのタイミングで新しいことにチャレンジしなければなりません。
アメフトは、競技転向というチャレンジに溢れているスポーツであり、新しいことにチャレンジする、しなければならない人がどんどん増えてくるこれからの社会に貢献できるメッセージを発信できるのではないでしょうか。
この特徴で価値提供をする場合は、以下の方向性が例として考えられます。
toC:
「転向」にフォーカスした、アメフトはもちろん、スポーツ・ビジネス・人生などに関連したコンテンツ発信
toB:
社会人の学び直しや再チャレンジを支援する企業とのパートナーシップ
⑧繋がりの強いコミュニティ
アメフトは競技人口が少ないこともあり、「アメフト関係者」の繋がりが非常に強いです。
「日本のアメフト復興会議」というアメフトの活性化に貢献したい人が集まるFacebookグループがあるのですが、この記事を書いている時点で参加人数が13,500人以上もいます。
また、大学アメフトの大きな部では1学年20人くらいいるのですが、大学でアメフトをすると7学年(自分が1年生の時の4年生から、自分が4年生の時の1年生)の仲間ができます。
単純に20人×7学年で140人の仲間を持つのですが、こういう選手が卒業後Xリーグで各大学から集まってきます。
Xリーグクラブの選手やスタッフ、OB等を含めると100人以上の組織になりますが、この100人がそれぞれ140人の仲間を持っているので、100人×140人=1.4万人の仲間と繋がっている、と言えます。この1.4万人も上記と同じく強いつながりを持っています。
なぜ、アメフトの繋がりが強いのかについては、競技人口が少ないことが繋がりを強くさせている面もありますが、個人的には競技特性としてミーティングやハドルでコミュニケーションを取る機会が圧倒的に多いからではないか、と思っています。
これも⑥で書いたことと同じように、単独で価値発揮をするというより、他の強みと掛け合わせて活かしていく強みかと思っています。
胎内DEERSの例だと、小規模自治体での地方創生という面では非常に大きなインパクトがあると感じています。
⑨アメリカの国技
日本という国において、「一番重要な国はどこか」、という問いに対する答えとして、多くの場合「一番重要な国はアメリカ」という回答になるのではないでしょうか。
そしてアメフトは前回の記事で書いたように、アメリカでは他の競技を圧倒して人気のスポーツです。
すなわち、アメリカとの関係性を深めていく上でアメフトというスポーツを活用していくことは大きな可能性があるのではないでしょうか。
これは単に国家間の外交だけの話ではなく、アメリカと姉妹都市を締結している自治体や、日米大学同士の交流、民間外交でも大いに活用していけるのではないかと思っています。
また現在、日本はアメフトという競技ではアジアの中心のポジションとなっている、あるいは今後もなっていくことで、アジアとアメリカを日本がアメフトでつなぐ、という構図も取ることができます。
様々なステークホルダーとの協業が必要ですが、価値提供の方向性としては以下の例が考えられるのではないでしょうか。
toC:
アメリカ人向けにアメフトを通して日本文化を発信
日本人向けにアメフトを通してアメリカ文化を発信
アジア向けにアメフト選手の養成学校を展開
toB:
行政向けに日米国際交流の推進
アメリカで事業展開している企業とのパートナーシップ
3.補足①:パートナーシップについて
上記の事業戦略において、「パートナーシップ」という表現を使いましたが、これは単なる協賛契約ではなく、一緒に同じテーマで社会に価値発揮をするプロジェクトを推進していく、という意味合いも含んでおり、様々なアクティベーションを行っていくイメージです。
アクティベーションも含んでやっていく、という方向性なので総じてパートナーシップの金額感を高く設定する必要がありますが、その趣旨を理解頂ける企業を見つけ出していく、ということが戦略と同じくらい大変かつ重要なポイントと感じています。
4.補足②:【超重要】事業戦略の前に
今回の記事は強みから事業戦略を一気に書いてしまいましたが、Only1、No.1となれる強みを絞ったあとは、事業戦略の前に「そのアメフトならでは強みを活かすことでしか実現できない、日本社会の未来」を考える必要があります。事業戦略よりもこちらの方が重要と感じています。
この一連の記事で言及しているようにスポーツの顧客は「社会」なので、社会の未来をゴールに設定し、そこから価値発揮をブレイクダウンして事業戦略を考えていくステップが重要です。
この部分はまた別途取り上げて記事にしたいと思います。
5.さいごに
今回、アメフトがOnly1、No.1になれる社会領域の候補について書いてみました。
他にも考えれば沢山出てくるはずです。是非ご意見いただけると幸いです。
次回は、事業戦略に基づいて、収支モデルを色々と考えていきたいと思います。
宜しければ胎内DEERSのSNSをフォローして頂けると嬉しいです!
(髙橋調査によると、スポーツクラブのSNSアカウントフォロワー1名につき、約3,500円のチーム協賛価値向上となります。)
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