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アメフトの「事業」と「顧客」(アメフトの事業化を考える①)
1.はじめに
前回のnoteでご報告させて頂いた通り、2022年6月からアメリカンフットボールトップリーグであるXリーグ「X1 SUPER」の胎内DEERSを運営する株式会社DEERS FOOTBALL CLUBの代表取締役に就任致しました。
2013年に新潟に来てから、「日本でアメリカンフットボールを事業化(=ビジネス化)するためにはどうしたら良いか」を考え続け、様々なスポーツビジネスに関わる中で自分の中で仮説を構築してきました。
まず、大前提として「日本でアメフトをビジネスにするために必要な事」の答えは誰も持っていません。仮説を持っている方はいらっしゃると思いますが、その仮説を現実で実証出来ていないので、まだ答えはありません。
「日本でアメリカンフットボールを事業化するためにはどうしたら良いか」は色々な人が考え、実践しながら模索していくことが、その実現に必要と思います。ですが、まだあまりその議論のたたき台となるような資料が少ないと感じています。
私の仮説が正しいのかはわかりませんが、議論の叩き台として、記事をまとめていくことは今後の日本のアメリカンフットボール界に貢献できるのではないかと考え、これから記事を書いていきたいと思います。
たぶん途中で色々と変更あると思いますがこんな感じで更新していきたいと思います。
アメフトの事業化を考える
① アメフトの「事業」と「顧客」を考える。
② アメフトの「価値」を測る。
③ アメフトの「エンタメ性」は強みか?
④ アメフトの「強み」と「事業戦略」を考える。
⑤ アメフトの「収支モデル」を考える。
⑥ アメフトと「日本の将来像」。
⑦ アメフトと「街づくり」。
⑧ アメフトと「民間外交」。
⑨ アメフトと「人材育成」。
⑩ 年代・カテゴリ毎の戦略。
また、こちらとは別シリーズで、「胎内DEERSの挑戦」という記事も更新できればと思っています。こちらはたぶんかなり不定期になりそうです。
胎内DEERSの挑戦
① 胎内DEERSが胎内市でやりたいこと
② 胎内市のおすすめスポット
③ 3年後、5年後、10年後、20年後、30年後の胎内DEERS
? 各プロジェクト紹介・解説回
? 各プロジェクト報告回
今回、「アメフトの事業化を考える」第一弾として、まずはアメフトの「事業」と「顧客」について考えてみたいと思います。
2.「事業化」とは
これから書く一連の記事では「事業化」という言葉を使いますが、よく似た言葉で「プロ化」があります。同じような意味合いが含まれますが、本記事では「プロ化」ではなく「事業化」という言葉を使いたいと思います。
アメリカンフットボールで「プロ化」という言葉を使うとNFLのようなショービジネスをイメージされる方が多いと思いますので、よりシンプルに
事業化 = 継続的に事業収益を上げるようにすること
という意味で使いたく、「事業化」という言葉を使います。
3.アメリカンフットボールの「事業」
では、アメフトの事業とは何なのでしょうか?
一般的に考えると、
①試合を開催して、お客さんを呼んでチケットやグッズを売る。
②企業にチームのスポンサーになってもらう。
③放映権をメディアに売る。
④フラッグフットボールスクールを開催して会費収入を得る。
等が思い当たると思います。
ただ、ここでは一旦根本から考え直してみたいと思います。
有名な経営学者のドラッカーの言葉を借りると、
・顧客によって事業は定義される。
・「われわれの事業は何か」との問いに答えるには、顧客からスタートしなければならない。
ので、事業を考える上で、そもそも「顧客は誰か」が大事になって来ます。
遠回りになりますが、一旦「事業」を置いて、アメフトの「顧客」について考えてみたいと思います。
4.アメリカンフットボールの「顧客」は誰か?
アメリカンフットボールの「顧客」は誰でしょうか?
普通に考えると、
①試合に来てくれたり、テレビやネット放送で応援してくれるファン
②チームを支援するスポンサー
③フラッグフットボールのスクール生
あたりが顧客となり、顧客に提供する価値=事業は
①試合に来てくれたり、テレビやネット放送で応援してくれるファン
➡ 【提供価値】面白い試合
②チームを支援するスポンサー
➡ 【提供価値】企業のPR
③フラッグフットボールのスクール生
➡ 【提供価値】フラッグフットボールの技術、身体の発達、人間性
がまず考え付くと思います。一旦この設定で考えてみましょう。
アメフトを事業化するということは、これらの提供価値が競合に勝って顧客に選ばれ拡大していくということです。
それぞれの競合と、それに勝つために必要なことを追記してみます。
①試合に来てくれたり、テレビやネット放送で応援してくれるファン
➡ 【提供価値】面白い試合
➡ 【競合】NPB、Jリーグ等のプロスポーツはもちろん、エンタメ全般
➡ 事業化のためには↑よりも面白い必要がある。
②チームを支援するスポンサー
➡ 【提供価値】企業のPR
➡ 【競合】NPB、Jリーグ等のプロスポーツはもちろん、広告全般
➡ 事業化のためには↑よりも企業のPRに繋がる必要がある。
③フラッグフットボールのスクール生
➡ 【提供価値】フラッグフットボールの技術、身体の発達、人間性
➡ 【競合】他のスポーツはもちろん、習い事全般
➡ 事業化のためには↑よりも身体の発達や人間性が得られる必要がある。
(フラッグフットボールの技術は代替不可なので競合よりも優位)
③のフラッグフットボールは優位な部分もあるので事業化できる可能性は他の2つよりも高いですが、①②は現状の日本のアメフトでは競合に比べ優位とは言えません。
現在の日本のアメフトファンの方は、アメフトが一番面白いと感じていると思いますが、ほとんど大多数の人は日本のアメフトを面白いと感じません。その原因は「面白さを知らないから」とアメフト関係の方は考えるかもしれませんが、私はほとんどの人が「面白いかもしれないけど、あえてアメフトを新たに知りたくなるほどの理由がないから」と思っています。(この辺りはまた別記事で深掘ってみたいと思います。)
同様にファンが少ない現状では企業のPR価値も低い状況です。
この状態で事業化をしていくためには以下の2つの選択肢しか無いのではないかと思います。
(1)多額の資金を突っ込み、一気にエンタメ性や人気を高める。
(2)顧客を変える。
ただし、(1)は自分達が多額の資金を保有していれば良いのですが、現在のアメフトのようにお金があるわけでもない状態では、誰かから出資をしてもらわなければなりません。しかし、(1)の選択肢はハイリスクなもので、出資に報いるリターンや事業の成功確率がある程度ないと、出資する側から選ばれ難いです。現状の日本のアメフトにおいては、この顧客設定では一気に出資してもらってそれ以上のリターンを示せる根拠は無いのではないでしょうか。
私見としては現状で(1)の可能性を模索するのは難しいと思っています。
ですので、日本のアメフトを事業化していくには(2)の「顧客を変える」方向性で考えるべき、と感じています。
5.アメリカンフットボールが設定すべき「顧客」
では、変えるといっても顧客を誰にするべきなのでしょうか。
この問いに対して、とある論文において、非常に的を得た論考をされています。
前にPodcastでも取り上げた、こちらの論文です。
この論文より抜粋します。
ビジネスやマーケティングという観点からは一つの「商品」であるスポーツを多くの人々が公共的なものである,と感じているということは,スポーツという商品の特徴であり,他の商品との競合上,優れた優位性を持っているということができるのである。
ここではスポーツにおける顧客を「社会」という広い対象としている。それは単にだれでもスポーツのファンになりうる,という意味だけではない。人々がスポーツというものを思ったり,考えたりするとき,「スポーツとは公共的なものだ」という共通の意識や感覚を持つ,という事実である。
アメフトに限らずスポーツを事業化するには、最大の強みである「公共性」で戦う必要があります。
その「公共性」で戦うには、顧客として「(競技の外の)社会」を設定する必要がある、ということです。ここでいう社会は、スポーツに興味関心の無い人も含まれる社会、のことです。
また、次のように書かれています。
日本のスポーツが現在取り組むべき最大の優先課題は,「理念の構築」なのである。
それはスポーツを対象化し,その存在価値を社会との関係において,つまり「スポーツは人や社会に何ができるのか,」という観点から具体的に捉え直す作業である。
スポーツの経営はそのコアに「公共性」「世界観」「哲学」「感動」などの要素が混在し,それが人々を魅了する根源なのである。
スポーツ経営を行うものは,その優先課題として,スポーツと社会,それぞれに対する認識と哲学を持ちその社会的価値を明らかにし,それを人々と共有し,問題の解決を図るプログラムを示さねばならない。
スポーツ経営とは「選手」「チーム」「ファン」「メディア」「スポンサー」「広告代理店」「自治体」そして「一般市民」などの幅広いステークホルダーの間に「スポーツは社会を幸福にする」という物語を構築,共有し,それぞれが持つ機能や意志に対応する役割と権限を与え,互いの調整を行いながら,その物語の実現を通じて,すべてのステークホルダーがそれぞれの価値を獲得し,自己実現を果たしてゆく運動体である。
すなわち、スポーツの顧客を「社会」として設定した時の提供価値は「社会を幸福にする物語をステークホルダーと共有し、実現していくこと」ということです。繰り返しになりますが、ここでいう社会は、スポーツに興味関心の無い人も含まれる社会、です。
この論文はスポーツ全般について書かれたものなので、この考え方はスポーツ以外の競合に対する優位性に繋がりますが、他のスポーツに対する優位性の構築にはまた別の考え方が必要です。
6.他のスポーツへの勝ち方
他のスポーツに対する優位性を構築するには、
〇アメリカンフットボールにしかできない(Only1)社会を幸福にする物語
〇アメリカンフットボールが他と比較して一番効果を発揮する(No.1)社会を幸福にする物語
で勝負する必要があります。
これは視点を変えると、アメリカンフットボールがOnly1かNo.1になれる部分の社会領域に絞って価値提供を行う、ということです。
これを見出すには、
「アメリカンフットボールとは社会的にどんな特徴があるのか」、
という自己分析と、
「社会においてどのような分野が課題になっているのか」
という社会に対する分析を両輪で探っていく必要があります。
このような社会領域を見出すことが出来れば、アメフトに興味関心が無い人にとっても、その社会領域ではアメフトが無くてはならない存在になることができます。
逆に、その社会領域以外では他のスポーツに勝てないので勝負しない、という取捨選択も必要になります。
例えばよく「スポーツで地域貢献・地域活性化」を掲げますが、アメフトの場合は単なる地域貢献・地域活性化だけでは、野球やサッカーより地域貢献・地域活性化を果たせるか、というと難しいです。事業化するには、アメフトがNo.1、Only1になれる分野もしくは地域を絞って活動・認知を図っていく必要があります。
このように考えれば、これまで捉えられてきたものと違う形で各ステークホルダーのニーズに応えることが出来ます。
ファンのニーズ
(前)面白い試合を観たい
↓
(後)アメフトが社会を幸福にする過程を共に感じたい
スポンサーのニーズ
(前)企業のPRをしたい
↓
(後)アメフトが社会を幸福にする物語と協働することで、独自のブランディングをしたい
7.さいごに
長くなってきたので今回はここまでにします。読んで頂きありがとうございました!
アメフトの「事業(提供価値)」と「顧客」について考えてみましたが、今回は方向性までで、具体論はまた次回以降に書きたいと思います。
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