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『ねじ式』の舞台となった地域、太海を歩く
漫画家・つげ義春が描いた『ねじ式』という有名な作品がある。
この作品世界のモデルとなっている地域がある。
千葉県鴨川市にある太海地区というところである。
その情報を知って「どんなところなのだろう?」と興味が湧いた僕は、
現地に足を運び歩いてみることにした。
これは、その旅を振り返った記録である。
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JR内房線の列車に揺られ、太海駅で下車する。
こじんまりと佇む無人駅だった。
この日の天候は、あいにくの曇り空。
けれど「つげ義春が描く漫画の世界にやって来た」と思えば、
この曇天模様も似合う気がしてくる。
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駅から出て、海岸の方へと歩く。
日本の各地でよく見る、閑静で普遍的な見た目の住宅街といった雰囲気だ。
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海岸沿いに出て、舗装された道を西の方へと歩く。
『ねじ式』のモデルとなった漁村「浜波太」が、この先にある。
浜辺で家族連れが遊んでいるのが見える。
むせかえるような潮の匂いが、風に運ばれて僕の鼻腔へと入ってくる。
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歩いていたら、よい具合に年季の入った質感の鳥居が視界に入ってきた。
奥には階段が見える。ここを登ったところに神社があるみたいだ。
せっかくのご縁なので登ってみることにした。
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駅から歩いてきた当初、周辺はまだ普通の住宅街という雰囲気だったのに、
ここあたりですっと、違う世界に迷い込んだような感触を覚えた。
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ここは香指神社というお名前らしい。
静かに、ささやかに、お参りをした。
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本殿の脇には、小さな祠が並んでいた。
その後ろには、もっこりとした巨岩が聳え立ち、木々や植物が僕を見下ろすかのように生えている。
綺麗というより、力強さと、ちょっぴり禍々しさをも感じさせる自然の造形だった。
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神社の境内からは、麓と海が一望できた。
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再び道を歩く。
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港のあたりに出た。
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鳥居や祠らしきものが、地元の人々が行き来するであろう港の中に、エレメントとして溶け込むように存在している。この土地そのものが、異界とつながっているかのような、不思議な感覚を覚えた。
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岸から見えるこの島は、名勝、仁右衛門島。
数十mだけ、海を渡ればたどり着ける位置にある。
ちょうどここで渡し船に乗せてもらい、仁右衛門島にも行ってきた。
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仁右衛門島から、対岸にある太海の浜波太を眺める。
上の写真から、丘に沿ってまるで肩を寄せ合うかのように、家屋が段上になって密集しながら建っているのがおわかりかと思う。
(仁右衛門島は歩いてみたら岸から見た印象以上に広い島で、探索を楽しみつつ島内の写真もたくさん撮影したのだけれど、それはまた別の機会に載せることにする)
仁右衛門島で1時間半ほど過ごし、また渡し船で本州へと戻った。
時刻はお昼過ぎ。だいぶお腹も減ったので、ここらでごはんをいただく。
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江澤館でいただいた「おらがさざえ丼」。
秘伝のタレで味付けされた地元のさざえを、玉子でとじたどんぶり。お米は長狭米とのこと。
とっても美味しかったです。ごちそうさまでした。感謝。
さて、ようやく浜波太の路地裏へ、冒険に出かける。
この漁村は細い路地や石段が家の間を縫うように入り組んでいると聞き、
実際に歩くと果たしてどんなものなのか、楽しみにしていた。
『ねじ式』の世界の中へと入っていくような気持ちだ。
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まず、目に入った麓の階段を登る。
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ひたすら登る。
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今度は下りる。そしてまた、知らない路地を登る。
どの路も幅が狭い。でも、それが心をドキドキさせてくれる。
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浜波太というところは、ずっとこのくらいの細長い路が、
家と家の間をアップダウンを繰り返しながら続いている。
まるで迷路のようだ。
うっかり私道に迷い込んで、怒られたらどうしよう?
と不安な気持ちもあったが、そんなことはなかった。
むしろ、地元の方々も住んでいるはずなのに、不思議なほど人とすれ違うことは少なかった。
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「ウォーキングコース順路」と書かれた看板。
俗っぽい書体だけど、なんか安心する。
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歩き回った先の果てに、とうとう見つけた。
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汽車が漁村の路地の中を駆けてくる、
『ねじ式』の中でも特に印象的なシーンの1コマ。
そのモデルとなった場所が、この階段のある路なのだそうだ。
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『ねじ式』が描かれた昭和中期の時代からは
周辺もすっかり現代的にアップロードされた様子だけれど、
それでも聖地である。
僕はしばらく、じっとそこにある階段を眺めていた。
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そして僕はまた海岸沿いを歩いて、元の場所へと帰った。
左腕にねじをつけてもらえないままで。
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「いつでも美しいまち」、太海はそんなところです。
気になった方は、ぜひ行かれてみてください。
クラゲには気をつけてくださいね。
(旅行と撮影を行なったのは、2021年の11月初旬になります)
参考文献:つげ義春(2008)『つげ義春コレクション ねじ式/夜が摑む』.ちくま文庫.
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