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「好き」とは一体何なのですか?

悪戦苦闘読書ノート No.11 坂口安吾作「夜長姫と耳男」
発表 1952年(昭和28年)

一読して、不安を感じました。
内容は理解したつもりですが、その意味が得心できないのです。ならば、「縁の薄い作品」として、離れればよいのですが、そうさせてくれません。今も、「その物語の意味を考える」ことにとらわれています。

あらすじ

夜長姫は、十三歳にして「日本中の男という男がまだ見ぬ恋に胸をこがす」といわれる光り輝く姫です。この姫の守り本尊を彫るため、父の夜長の長者は、三人の名工を集めます。
耳男は、当初指名された名工の弟子で、ウサギのような両耳を持ち、馬のような顔をした若い男です。彼は、夜長姫から「馬の顔にそっくりだ」と馬鹿にされて腹を立て、仏像の代わりに怖ろしい馬の顔の化け物を作ることを決心します。

三人が、正式に、夜長姫の守り本尊作りを命じられたときのことです。美しい女奴隷エコナから「馬の顔」と侮辱されたことを契機に、耳男は、左の耳を失います。それに続く事件の最中、夜長姫が一瞬、「軽い満足げな笑い」をしました。その微笑に、耳男は、とらわれていきます。

そして、物語は、まだまだ続く・・・・・。

こう読みました

説話の形式で語られており、突飛な描写も、受け入れることができました。
本作で顕著なキャラクターは、夜長姫、耳男、そして女奴隷のエコナです。その役どころは、次のようなものです。

夜長姫
・父の長者に溺愛されて育つ。例として、一夜ごとに二握りの黄金を百夜かけて絞らせ、したたる露をあつめた産湯につかったこと。無邪気な笑顔が魅力的だが、彼女がそれ見せる状況は、怖ろしいもの。

耳男
・夜長姫のために両耳を失う。三年間、馬の化け物を彫り続ける。その間、「怖ろしい像を彫る」ための厳しい心持が、思い出した夜長姫の微笑によって怯むため、蛇を使って克服をはかる。

美しい女奴隷エコナ
・ハタ織の奴隷で守り本尊作りの褒美。馬の化け物を彫ると決めた耳男は、彼女を手に入れられないと自覚。夜長姫の御前で、エコナと耳男の視線が交差すると、二人の間の怒りと憎しみに火が着く。

読み進めると、エコナは静かに消えます。耳男は夜長姫と一瞬の幸福を味わった後、凄惨な別れへと進みます。このような三者の在り方は、説話という器からはみ出して、坂口安吾が他の作品で描いた、少しいびつな三角関係を彷彿とさせます。「そういう作品なのだ」とわかった気がして油断していたところに、次のラストです。ショックでした。

するとヒメはオレの手をとりニッコリとささやいた。
「好きなものは咒(のろ)うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがだめなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊るして、いま私を殺したように立派な仕事をして・・・」
 ヒメの目が笑って、とじた。
 オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。

感想

私は、安吾先生に問いたい。好きなものとは何ですか、と。
それは、恋ですか。恋のために、「呪うか、殺すか、争うかしなければ、ならない」のですか。
あなたにとって、「呪い、殺し、争うことを厭わない」、そのような「好きなもの」とは何だったのですか。
教えてください、安吾先生。


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