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あなたが書いてくれたから、彼女たちの心の内を知ることができた。

ほんの感想です。 No.27 樋口一葉作「大つごもり」明治27年(1894年)発表
                                                           「にごりえ」 明治28年(1895年)発表
                                                           「十三夜」  明治28年(1895年)発表

電子辞書で樋口一葉の情報を集めていたところ、「にごりえ」というタイトルで、「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」のオムニバス映画が製作されていたことを知りました(1953年の日本映画「にごりえ」、制作文学座及び新世紀映画、監督今井正、脚本監修久保田万太郎)。

この映画を視聴するためには、準備として、三作品を読み込んでおいた方がいいな、と思いました。オムニバスで視聴すると、各作品で心を捕らわれ迷子になりそうな気がしたからです。

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「にごりえ」は、文庫版で約40頁、また、「十三夜」「大つごもり」は、20頁ほどの作品で、手軽に読めるボリュームです。しかし、いずれの作品も、「哀しいね」では済まない、やり切れない感じが残りました。

「十三夜」は、身分のある官吏に見初められ、十七歳で嫁いだ女性の物語。夫の仕打ちに耐えかねた女は、父に離縁状を頼むため、実家を訪ねます。しかし、我慢しろと父に諭され、暗鬱として帰宅する途上で、車夫となった、かつての幼馴染の男の俥を拾います。そこで一時互いの身の上を語り合った二人が、別々の道へと去っていくという話。

娘時代は父に従い、嫁いだ後は、夫に従うのが当時の世の習い。彼女は、父の言うことに従ったけれど、納得したわけではない。しかし、偶然に幼馴染と出会い、その零落した境遇を知ると、同じような道を歩むことはできないと、思い至ったのかもしれません。

「大つごもり」は、人使いの荒い金持ちの家で我慢強く奉公をする娘が主人公。恩ある伯父が体を壊し、高利貸しへの返済に窮していた。金策を頼まれた娘が、奉公先の奥様に給金の前借を頼んでいたところ、拒絶されてしまった。年末を前に、奉公先に大金が入ったことを知った彼女は、その金に手を付ける決心をする。

恩や義理、あるいは責任感から、「善き人」が、罪の意識とともに盗みを働くまでの心情が描かれています。思いがけないラストで、一時心が軽くなるものの、「それは、根本的な解決ではないよ」という声が聞こえてきて、彼女の行く末が案じられました。

「にごりえ」は、貧しさから抜けられず、銘酒屋の酌婦として望みの薄い日々を送る女性の物語。彼女と、彼女から心が離れない、零落した元客の男、そしてその妻の三人が、三様の苦しみの中にいます。そして、ある年の魂祭りの頃、事件が起こります。

この作品は、「やりきれない」の一言です。

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樋口一葉の作品には、人々の、貧しさに起因する人生の変転と、そこで生まれる絶望が描かれています。そして、作品には立場の異なる女性が登場しますが、いずれの女性の苦悩も、当時の男性作家では、気づくことができない苦しみ、悩みのように思われます。

もし、樋口一葉が書かなかったら、「十三夜」「大つごもり」「にごりえ」の女性たちの心の内を知ることはできなかったかもしれない。改めて樋口一葉の作品の独自性に思い至りました。

それでは、オムニバス映画「にごりえ」の視聴、挑戦したいと思います!

ここまで、読んでくださり、どうもありがとうございました。

*樋口一葉の過去記事です。


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