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映画『パターソン』

■はじめに
米ニュージャージー州・パターソンに住む、パターソンの何気ない7日間を切り取る日常ドラマ。

*製作などの補足(個人調べ)
・2016年、アメリカ・ドイツ・フランス製作
・主演は、『スター・ウォーズ』7~9シリーズでカイロ・レン役のアダム・ドライバー
・代表作『ナイト・オン・ザ・プラネット』など、コアなファンを持つ
ジム・ジャームッシュ監督の到達点、と批評されていた(ハリウッド映画の常識から逸脱したマイペースな作風が特徴だが、その作風と題材がぴったりと調和した真骨頂とも言える作品だそう)
以上、参考:小野寺系「ジム・ジャームッシュの到達点となった『パターソン』、その深いテーマを徹底考察」

■感想

夢の中を彷徨い、幸せな目覚めをするような作品だった

というよりも、詩の中と言った方が適切だろうか。

ただの日常を切り取った、と言ったらそこまでだ。

実際は一つ一つの台詞や登場する話題、背景にしっかりと意味があり
見終わったあとにその意味を知った途端、
何か大きな愛情を受け取ったような気持ちになった。

ただ、ここで伝え方を気をつけたいのが、
この映画は決してハッピー音楽が流れるわけでもなく、
ものすごくポジティブな人物が登場するわけでもなく、
起承転結もなく、真新しさも驚きもない。

主人公のパターソンは街バスのドライバーで、美しく自由な妻とブルドッグと一緒に暮らしている。
毎朝決まった時間に早起きし、出勤した後に"詩"を手帳に書き起こし、仕事を終えると散歩しながら、市の象徴の"グレートフォールズ"滝を眺め、夜は同じバーに通い、1日を終える。

まるでそばにいるような"日常"がそこにある。
物語はただひたすらにこの繰り返しであるが、
そんな日々の中で不思議なことが少しずつ起こり、
パターソンは少し驚いた表情でその変化を受け入れる。

それは、
 ・同じ人が違う話題を振ってくる
 ・創作意欲の強い妻が新しい物を生み出す
  (音楽、料理、インテリア等)
 ・バスではたわもない会話が聞こえてくる
 ・妻が「双子がほしい」と言った後、毎日双子を見かける
  (きっと気にしているからこそ見つけてしまうのだと思う)
そんな粒度のものだ。
しかしその小さな刺激が彼を触発し、異なる詩を少しずつ紡いでいく。

日常は、本当はそんなことで溢れているのかもしれない。
我々が日常に求めていることは何なのだろう。
ハリウッド映画のような驚きと涙と感動のドラマなのだろうか。
そんなものはきっと幻想で、
淡々と過ごす日常にこそ、それぞれにとって大事な価値が潜んでいる。
現実という地に足を着けた生き方の中でこそ、
まるで夢にいるような不思議の欠片を見つけられる。

そんなパターソンの日常を、
最後には"羨ましい"という気持ちで眺めていた。
たとえばこんなシーン。

ネオンライトがかわいい、近所のバー。

妻が毎日くれるお弁当。
(詩人・ダンテのカード入り。変な目玉のケースは手描き。
 妻はどうやらモノクロが好き)

そして朝6時、毎日2人一緒で迎える、日差しと目覚め。

これらは、決して輝いたものに見せるための
SEも、過剰なカメラワークも、何の演出も入れていない、
ナチュラルそのものだ。
全てがとても身近であるのに、
どうしてこんなに美しく羨ましく見えるのだろう。
これが監督の力、映画作品の力だと思った。

===

(最後に)
■妻が素敵でしょうがない
何かと創作意欲が爆発する妻。
急にギターを買いたいと言い出して本気で練習したり、
黒いカーテンにパウチで穴を開けてデザインしたり、
家の壁中に模様を描いたり、
カップケーキを大量生産してマーケットで売ったりする。
フリーダムそのもの。

まずその自由な形態そのものが羨ましい。
彼女は何かを創作することで、自己表現の欲求を発散している。
だからこそ、同じように自ら"詩"という形の表現方法で創造を続ける夫を誇りに思い、
彼の大事な詩のノートを転載して保管しようと提案する。
お互いの自由の根底に尊重が存在し、関係性が成り立っている。
純粋に、人生をともにするパートナーとして憧れの関係だと思った…

■ウィリアム・カーロス・ウィリアムズについて

本作は、20世紀を代表する(のだそう)詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズの代表作『パターソン』が題材になっている。
この機会に彼の詩を調べてみたが、全く理解できない。
それもそのはず、英語の詩を日本語訳で読むということは
どんなに優秀な翻訳家がついたとしても
英語ならではの韻やテンポの度外視は止むを得ず、
日本語でいえばまるでフリースタイルダンジョンを英語訳で聞かされている外国人にラップの良さを説明するようなことなのだと思う。
(本作でも同じようなくだりで、日本人(永瀬正敏さん)が登場し「詩の翻訳はレインコートを着てシャワーを浴びるようなもの」という台詞がある)

綺麗な言葉の羅列は美しい、ずっとそう思っていた。
いつか英語で、彼の詩の良さが実感して読めるようになりたいと思った。

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