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朝食文集

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特に目的のない文章。事実ではないスケッチ。朝食を食べた後で書くことが多いので『朝食文集』です。
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#小説

泥の赤子

 私は泥から生まれた。泥が形を取って生き物になったのが私だ。  泥の塊は手足を伸ばし目鼻…

kooop
2年前
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高層湿原

 登山道は整備されているが、登山者が多いわけではない。  山頂の少し手前に避難小屋があっ…

kooop
2年前

猫とセーター

 黒いセーターを着ていたのがまずかったのか。黒猫がセーターの中に吸い込まれるように消えた…

kooop
2年前

赤い月

 赤い月がずっとこちらを見ている。  夜歩くときに月はいつも出ている。  いつも月の色は赤…

kooop
2年前

雪の虫

 雪に混じって、白い虫が空を舞う。  空から降ってくる雪の一片にしがみつき、一緒にくるく…

kooop
2年前

キスリング

 キスリングの絵を買う。画商に探してもらったキスリングの小品だ。  思わぬ大金を手に入れ…

kooop
2年前

 一日ずっと曇り空で、日が暮れるときも夕焼けはなく、ただ衰えていくように空が暗くなっていくだけだった。視界から色彩が落ちていく、そういう夕暮れだった。  私は何か赤いものが幾つか並んで歩いていくのを見た。暗くて色が判らないと思っていたが、それが血をかぶったかのように赤い色をしていることは何故か判った。それは子供のようだった。子供の背丈の者が裏路地を進んでいる。  それは私に向かって歩いてきていた。近付くにしたがって、その姿がはっきり見えてきた。  全身真っ赤な色をした人影で、

溜池の子供

 実家の近くに溜池がある。森の際にあって、田んぼに水を引くためにあった。田んぼは住宅街の…

kooop
2年前

旦那様の一番

 旦那様の一番を整えるのが私の仕事である。  私はこの家でメイドのようなことをやっている…

kooop
2年前
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山の暮らし

 ガラガラという音がする。ちょうどキャスターの着いたバッグを道路で引き摺るときの音のよう…

kooop
2年前
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何故花を買うのか

 母は何でもない日に花を買ってくる人だった。家族の誕生日や、お祝い事のためでもなく、ただ…

kooop
2年前

町のお役目の仮面

 この町のお役目に着くものは、みな仮面を被っている。  彼らは相貌を隠し、個人ではなくそ…

kooop
2年前

他人の足

 娘は私がかなり高齢になってから出来た子供で、まだ学生である。  対して私はもう老人と言…

kooop
2年前

太陽の冬

 その家の当主には代々「太陽の冬」と呼ばれている宝石が伝えられている。  小指の爪にも満たない大きさで、無色透明でファセットカットされている。アクセサリーとして外から見える場所に身に着けることはない。剥き出しのルースのまま小さな箱に入れてポケットに忍ばせておく。  それを他の人に見せることはない。当主自身もその石を見ることは滅多にしない。  この石は不幸や悪を吸い込むのだと伝えられている。魔除けやお守りではなく、実際に吸い込むのだという。吸い込んだ悪や不幸は、石の中に閉じ込め