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比喩と飛躍とオノマトペ 〜愛するあなたのため

おもしろい文章が好きだ。

ここでいう「おもしろい」とは、研究論文における「たいへん興味深く、おもしろい」とか、福山雅治が言っていた「実におもしろい」とか、イキった大学生がコンパで言う「おれ(こいつ)めっちゃおもしろいねん」とはポケモンとデジモンくらい違うので注意が必要である…微妙!

ざっくりにもほどがある感じでいうと、いわば真面目じゃない文章のことである。ざっくりにもほどがあるなぁ。

あるインターネットの人が「おもしろい文章を書く人は道端で石を拾ったことだけでもおもしろく書ける」と言っていたがまさに同意で、言いかたひとつでどんな文章もおもしろくなると思っている。

もちろん書く対象がおもしろのかたまりである場合は文章は控えめのほうがいいと思うが、日記みたいな平凡な内容を書くのであれば文章でおもてなしするほかないわけである。

そしてこのたびそのキーワードが比喩と飛躍とオノマトペであることをつきとめた。

この3つを押さえると平文が3割おもしろくなるという。これこそ3割うまい、ぎょうざの満洲プロコトルである。

むやみにおもしろいおもしろいと連呼してきたが、いやちょっと語弊があるなと思ってきたので「気づかい」と呼ぶことにする。読者を飽きさせないための気づかい=盛り上がりに欠けるからこのへんでギャグでも入れるかというサービス精神である。

やいやい言うているが、いかんせんオールをなくしたゴムボートのようなノウハウなので、各位におかれましてもどこに流されるかわからない不安な気持ちで読んでほしい。そして無事を祈っておいてほしい。


比喩の話

まず、比喩とは言わずもがななにかに例えることだ。 

いい文章にはいい比喩あり」と中国のわりと偉い人が言ったとか言ってないとか。

例えば「顔が赤くなった」という文に比喩を加えると「顔がりんごのように赤くなった」となる。

ううん平熱。教科書に載ってる感じ。もう少し気をつかいたい。

ならば世の中にはびこる「そういえば赤いね」くらいの赤いものを走馬灯のように思い出していこう。

・赤いきつね
・カリカリ梅
・止まれの標識
・鬼のパンツ
・ミシシッピアカミミガメの耳のあたり
・あの日2人で見た夕焼け

微妙なラインナップである。しかしながら文章を読んでいて「顔があの日2人で見た夕焼けのように赤くなった」とか書いてあったらスマホを放り投げてしまうだろう。なにが“気づかい”だよこんちくしょう。
あと、よく考えたら鬼が赤いのであって鬼のパンツは虎柄だった。

意気揚々と書いてしまったがこんなことで大丈夫だろうか。こんなに「前途多難」の見本というか、密室でトゲトゲのついた吊り天井がゆっくりと降りてくるみたいなシチュエーションはひさびさである。ひさびさなのかよ。

逃げるように書き進めよう。


飛躍の話

飛躍とは「りんごが赤い赤い言うとりますけど赤いと言えば赤井英和はんは引越しのコマーシャルでなんであんな大きゅうならはったんでっしゃろ」みたいに話をちょっと遠い所へ持っていくテクニックではなく、ここではウソだとわかるくらい過剰に、おおげさに言うということにする。今した。

いい文章にはいい飛躍あり」とどこぞの革命家が言ったとか言ってないとか。

たとえば「お腹が減っていたので、ごはんをたくさん食べた」を気づかいの力でおおげさにすると「お腹が減っていたので、ごはんを5豪栄道くらい食べた」となる。なる場合もある。なったらいいな。豪栄道が1回に食べるごはんの量が1豪栄道なので、さすがに5豪栄道はむりだ。ウソだとわかりやすいボケである。

これが「豪栄道くらい」だと「ああ、この人は豪栄道くらい食べたんだなぁ」と、うっかりいっぱい食べる人に認定されてしまう。
ちなみに豪栄道とは、豪栄道豪太郎というかっこいい名前のお相撲さんのことである。

加湿器の水蒸気の勢いがすごかった話なども「加湿器の水蒸気がびっくりするくらい出て視界がゼロになった。まさか家にいながらホワイトアウトになろうとは」みたいに書いてあると、おっ、気ぃつかってるねぇとホクホクする。

しれっと書いたが、「加湿器の水蒸気の勢いがすごかった話」ってなんだよ。

気づかいが明後日のほうならまだいいが、四次元空間に突入してやしないか心配になってきた。強い気持ちと強い愛を持って最後の項目へ向かうぞ。


オノマトペの話

オノマトペとは擬音語・擬態語などをひっくるめたフランス語である。ボンジュール。
ワンワン、どんぶらこ、モグモグみたいな音や動きを言語化したものであり、小野マトペさんのことではない。

いい文章にはいいオノマトペあり」と民明書房の本に書いてあったとか書いてなかったとか。

狂言では犬の鳴き声を「ビョウビョウビョウ」と表現するが、まさにそれである。「犬がワンワン鳴いていた」より「犬がビョウビョウ鳴いていた」のほうが気をつかってるな〜と感じるだろう。くしゃみだって「クッサメクッサメ」としたほうが鼻水ではなく味わいがにじみ出るというものだ。狂言はオノマトペの宝庫である。

しかしながら定着しすぎて変わりえないオノマトペもあるもので、電子レンジでチンすることでおなじみのレンチンであるが、もはやできあがったことを「チン!」とお知らせする電子レンジが存在するのかも不透明な時代である。

それにもかかわらず、令和の世になっても親は土曜のお昼に「チンして食べてな」と子にメモを残す。
「ピー」と鳴る電子レンジであっても、今後画期的な方法で温め完了を報告する電子レンジが現れても、人類は未来永劫「ちょっとチンするわ」と言うだろう。

ほんとなんでこんなにレンチンについて熱く語っているかわからなくなってきたが、それくらい唯一無二のオノマトペであるということである。

さて、そろそろ「なにが唯一無二だよ」とつっこんでいるあなたの心にも終わりを告げる鐘の音が響くころである。ジャーン、モーンモーンモーン…


まとめ

書いていて思ったが、これってただ私はこういう文章が好きですよという話じゃないか。気づかいの文章が。そういうことだったのか。ここまでの話は決してノウハウなんかではなかったのだ。だまされた。エゴだエゴ。シーソーゲームにすらならない一方的なエゴイズムにお付き合いいただき御礼申し上げます。

まあいずれにせよ、沖へ沖へと流されたゴムボートは、ここ「脊髄反応で出るような手垢のついた言葉ではなく、一回立ち止まっていつもと違う表現をひねり出したらいいんじゃないでしょうかというありきたりな結論島」に流れ着いた。沈没しなくてよかった。

ミイラ取りが…ではなく“気づかい”を入れると、ポケモントレーナーがポケモンになったような話である。


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