見出し画像

初代ウルトラマンの劇中音楽と戦闘BGMについての考察~「あのBGMはもっと使えた?」


ウルトラマンの音楽の全体像

ウルトラマンで一番有名な戦闘BGMは、シン・ウルトラマンでのタイトルで言うと「遊星から来た兄弟 勝利(M5)」とされています。
このBGMは本当にウルトラマンの代表的な劇伴とされており、若いファンの方でもちょっと聞いただけで「ウルトラマンの音楽だ」とすぐに連想できるのではないか、というくらいに有名な曲なんですね。

ですが、この音楽も初めから存在していた訳ではないというのも意外なポイントでもあります。
ウルトラマンでは番組の制作上、メインで使われる音楽が三回に分けて録音されていて、第一回目の録音では『勝利』は文字通りに影も形もありませんでした。

  • 第一回録音 第1話から使用(制作順では第5話)

  • 第二回録音 第12話「ミイラの叫び」から使用

  • 第三回録音 第30話「まぼろしの雪山」から使用

こちらの記事でも詳しく説明されていますが、元々この「勝利」というBGMは第二回録音で初めて収録された曲でした。
それでも実際に使用される第18話が放送されたのは12話から実に一ヵ月も先だったので、番組が全39話であることを考えるとほぼ半分近く進行しようとしている時にお披露目されたことになり、結構遅めに使われていることが分かります。

第一回録音は番組の制作初期ということもあって、前番組の「ウルトラQ」の雰囲気が色濃く残っており、明るいBGMやシーンに合わせた効果音に近い短いBGMが多い感じでした。
そして、この時には「勝利」は存在しておらず、アレンジ元の音楽である「進め!ウルトラマン」は未使用に終わってしまいました。

代わりにメインで使われていたのがシン・ウルトラマンで言うと「ウルトラ作戦第一号 戦い」や「侵略者を撃て 空中戦(A2)」といった戦闘BGMでした。
音楽のフレーズが「勝利」と一部同じである「怪獣対ウルトラマン」というBGMも存在しましたが、使われたのは11話のギャンゴ戦のみとなっています。この音楽は明るくコメディチックということもあって、基本はシリアスな戦いになるウルトラマンの戦闘BGMとしてはやや似つかわしくなかったのでしょうね。

第二回録音ではウルトラQからの脱却を図ろうとしたのか、シリアスな雰囲気のものが増えてきます。
元々、初期の頃からは第一回録音のBGMだけでは物足りなかったようで、ウルトラQからの流用や同じ作曲者である「ガス人間第一号」のBGMで補っていました。
ウルトラマンでガス人間のBGMと言うと、ジラース回のエンディングがとても印象的ですね。

ですが、使える場面が限られていたこともあってか、第二回録音が使われ始める中盤以降は第一回録音のBGM共々ほぼ使われなくなっていました。

戦闘BGMの「戦い」や怪獣出現のBGMである「怪獣無法地帯 レッドキングの襲撃(B1)」なども第9話のガボラ回「電光石火作戦」を最後にピタリと使用が絶えており、曲は増えたのに結果的にバリエーションが減ってしまったという逆転現象も発生しています……。
何というか皮肉に思えます。

第三回録音はドラマ部分を補強したかのようなBGMが増えてきた感じで、ザラガス回やジェロニモン回のエンディングなどで有効に使われていますね。
ただ、それでも足りなかったようで、Qやガス人間からの流用が再び増えてきています。
これは作曲者が同じ宮内國郎さんだったからこそ可能だった裏技ですね。

他にも、ウルトラマンではエピソード個別で追加録音でBGMが用意されることもあります。
例えば、実相寺昭雄監督作品の一つであるガマクジラ回の冒頭BGMやガヴァドンやジャミラのテーマなどが、追加で録音されたものになりますね。

最終話「さらばウルトラマン」のエンディングなどもそうなんですが、これらのエピソード個別の追加録音BGMは何と、マスターテープが紛失しているという悲しい事情があるんですね。

サントラCDで収録されているのは、MEトラックから抽出・編集されたものなのでオリジナルBGMを聞く機会が失われたというのは、実に残念と言う他ありません。

ウルトラマンの主要な戦闘BGM

さて、ウルトラマンで使われた戦闘BGMなのですが、一覧にすると以下のようになります。

○が戦闘中にメインで使用 △は戦闘中以外かメインでは使わない場合

一番多く使われたのがやはり「勝利」で「空中戦」も意外と各クールごとに満遍なくバランス良く使われているのが分かりますね。
反面、初期の戦闘BGMである「戦い」は本当に最初期に使われているだけで中盤以降は全く使われていません。

空中戦(A2)

バルタン星人の回は制作順では第1話にあたるので、一番最初に使われたメイン戦闘BGMがこの「空中戦」となります。
実際は同じ制作ブロックだった3話と5話の方からダビング作業が行われていますが、それらはメインの戦闘BGMではありませんでした。

ただ、空中戦も実際にウルトラマンが戦う場面で用いられた機会は実は半分も無いんですね。
ガマクジラやスカイドンの回もまともな戦闘とは言えないものでした。

どちらかと言えば、科特隊が乗り物で現場に急行する場面などで使われている印象が強いです。

戦い(Mナンバー不詳)

記念すべき放送第1話のベムラー戦で使われた初期の戦闘BGM「戦い」は、「勝利」にも劣らない隠れた名曲であると同時に色々と不遇な一面も多いとされています。

上記の記事でも解説されているように、このBGMも元々は「勝利」と同じく第一回録音そのものでは収録されず、「戦闘BGMが物足りない」という理由からすぐに追加録音されたという経緯があります。

使われたのは1話から9話までにたった6回だけと少ないんですが、初期は制作話数がシャッフルされるのでバランス良く配分されています。
それ故にウルトラマン第一クールの戦闘BGMとして非常に印象が強くなっているんですね。

このBGMの特徴として、4話と6話ではウルトラマンの戦闘シーン以外でも使われていることです。
前者ではラゴンが上陸したりホシノ君がラゴンの囮になるシーン、後者はゲスラが船を襲って沈めるシーンとなります。
ベムラーもそうですが6回の使用の内、半分は水のシーンや水の怪獣が登場する回で使われているので、不思議と水の印象を感じやすくもなっています。

使用されたのが初期だけということもあり、「勝利」と比べると「戦い」は知名度がやけに低い印象があります。
これはテープが平成になるまで未発見で、長らくレコードに収録される機会が無かったからとされています。

それ故か「勝利」の方は平成後もサントラに収録されたりアレンジ版も作られる機会に恵まれているのに、こちらはそれらの機会がほぼ無いなど明らかに扱いが悪く感じられます。

公式はもっと「戦い」の方もウルトラマンの戦闘曲としてフィーチャーしても良いようにも思われる、非常に印象的なBGMでした。

勝利(M5)

ウルトラマンのメイン戦闘BGMとして非常に有名な「勝利」は「戦い」が使い辛くなったことで、新たに生まれた名曲です。

「戦い」と違ってループ使用を前提にした曲構成になっており、戦闘BGMとしては非常に完成度が高いものとなっています。
上記の一覧で見ても全12回も使用されており、非常に使い勝手が良かったのが分かります。

ただ、このBGMも意外な欠点があって「ヒーローらしすぎる」というのがあるんですね。
というのも、「勝利」というタイトル通りに「ウルトラマンの勝ち確定!」「ウルトラマンが優勢」というようなシチュエーションや派手なアクションで動く戦闘シーンでないと似合わないというものがあるんです。

なので、逆に「アクションが少ない」「ウルトラマンが苦戦」「シリアスな戦闘」といったシチュエーションでは使い辛いのもはっきり分かります。

「戦い」が使い辛いから新しく作ったのに、結局「勝利」も使い辛い場面があるので使えないという皮肉なことになっていたんですね。

シリーズ後半で『戦い』は使えていた?

では、第一クールでしか使われなかった「戦い」は第二クールで実際に使うことができたのでしょうか?

……実は、使えていたんです!

ウルトラマンでは戦闘BGMが流れない静かな戦い、というのが意外に多いんですね。
特に上記のBGM一覧で見ても、12話のドドンゴ~17話のブルトンまではほとんどBGMが流れないか使われない、静かな戦いが集中しています。
これらの戦闘はペスターやブルトンなどシチュエーションが特殊な相手だったりするので、第二回録音が既に使われているのに「勝利」はまだ使えないという番組制作側からしても、もどかしかったであろう状況になっている訳です。

そして、一覧にある「★」マークがついているのが、BGMもほぼ無く、実際に「戦い」を使っても違和感が無いエピソードになります。
ここで使うとBGM使用の配分も、バランスが良くなって「勝利」が使えない部分を補えたりもできました。

ドドンゴ・テレスドン・レッドキング・ゴモラ(前後編両方)・ザラガスと6回も追加で使えるので、「勝利」と同じ回数使えることになります。
これらの戦闘シーンは派手に戦っているのに、BGMがほぼ流れないので微妙に迫力が欠けているんですね。
他にもガヴァドンやキーラなどBGMが流れない場面がある戦闘がありますが、「戦い」を使用するには適していません。

そして、実際に使ってみるとこのような感じになります。

編集をしてみると確かに「使い勝手が悪いBGM」というのは分かるんですよ。
「勝利」はループ前提なのでどこで切ったりしても違和感なくタイミングに合わせやすいのに、こちらはタイミング合わせも難しいんです。
強いて言うなら、「戦い」は最後の部分が怪獣が倒れて絶命する場面に合わせることができたということでしょうか。これは「勝利」の方では難しい要素でした。

それでもちゃんと編集をすれば使えていた辺り、放送当時も「戦い」をもっと使っていればかなり知名度が上がっていたんじゃないかと思うと、本当に惜しい名曲だ感じられます。

まだまだ使える第一回録音の劇伴群

「戦い」と同じく第一回録音のBGMの中でも特に使われなくなったのが、怪獣出現シーンなどで使われるBGMなんですね。
こちらも編集次第で後半のエピソードでしっかり使えたのに、「どうして使わなかったんだろう?」という疑問も湧いてきてしまいます。


このように、50年以上経ったのにウルトラマンのBGMには様々な可能性や発見が見られるのがよく分かる検証でした。
ちなみに、私は個人的にウルトラマンの戦闘BGMは「勝利」よりも「戦い」の方が好みです。

この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

つくってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?