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読書感想文〜神田鶴八鮨ばなし〜

私には尊敬している読書家の友人が4人いる
私はその読書家四天王がおすすめしてくれた本は
全て読む努力をしている
みなさんと同じように買って積まれたままの
本もたくさんあるが
勧められた時点で買い求め寝かし
そして時がきたら対峙するのだ

この本はその四天王のうちのひとりからの紹介本だ
四天王の中で最年長の彼は
読書量=年の功
本当にたくさんの本を読んでいる
しかも私が普通に生きていて
毎週1回神保町の三省堂を見て回っていても
絶対出会わない本を読んでいるのだ。
一生かかっても全部読めない量の中から
出来るだけ素晴らしい作品に出会いたい私には
読書家四天王の存在は有難い。
幅が広がります
その中でもこれは本当にピカイチ!

師岡幸夫 「神田鶴八鮨ばなし」新潮文庫

まず著者の師岡氏について
この方は物書きではない。
そう鮨職人だ。
1930年(昭和5)年、東京神田紺谷町の寿司屋の息子として生まれる。
19歳で柳橋の「美家古鮨」(みやこずし)で修行を始め
25歳で一人前と認められる。
29歳で独立、
神田に店を持つ。
その名が神田神保町「鶴八」である。

私はよく東京のソウルフードは?とか
東京の食べ物といえば?などの話題の時に
「鮨」と「天ぷら」と答えている。
「ひよこ」とか「東京ばなな」などもあるが
東京の人は食べないであろう。
少なくとも私は頂いたことがない。
あげたことも記憶にない。
もんじゃの歴史はまたいつか。

東京はなんでも食べられるので
もはや何が東京なのかわからない。
けれども私は鮨と天ぷらだけは
東京だと信じている。
私は職業柄、たくさんのお寿司をいただいてきた。
もう一生分食べたかもしれない。

昭和の親方が語るこの江戸前鮨のエッセイは
江戸前のお鮨の起源・定義から始まり
親方の生きて来た様と哲学が
全て詰まっている。
料理人でもない私が読んでも
大変面白く書かれている。

日本人が、江戸っ子が、ポンと放り
一瞬で口にいれてなくなってしまう
その一つのお寿司に
どれだけの手仕事のあることだろう。
もっと言うならば
その一つのお寿司に
そのたくさんの手仕事の向こう側に
丁稚奉公の若者たちが修行し儀礼に習った努力で
成り立っていることであろう。
その時間・伝統・仕事いくつもの努力があって
カウンターにあの一握りの鮨が降臨するのだ!

【酔っ払って飲み込むように食べてはならぬのだ!】

なんて親方はひとつも言っていないが、
そんな気持ちになる本だ。

そして私はこのエッセイを読んだ後に行った
銀座の江戸前のお鮨屋さんで
口の中に穴子を入れた時
親方衆の想いを感じ
余計にお寿司が美味しくなったのは本当だ。

さらに親方は寿司屋の在り方だけでなく
お客の在り方まで教えてくれている
「粋」であるとはどういうことか。

この作品を読んでいる寿司屋と
読んでいない寿司屋とでは
それだけで差がつく秀逸本

親方が修行した【美家古鮨】は
1度連れて行ってもらったことがある
この本読んでたらなぁと悔やまれる。

花柳界のお鮨屋で小僧していた時の話など
今も昔も変わらぬ芸妓さんたちの
粋なエピソードには溜息がでる。

カウンターの向こうの世界には客の知らない時間がありんす。
お鮨を食べる人は読んでおいて損はなし!




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